573 オーガキラー45
「む」
砲塔の上に腕を組んで立っていたオウカが無骨な刀に巻き付けた布をはぎ取り、構える。
「お嬢、注意してください。アレは、コックローチ。手に持った分銅を守りと攻撃に使う強敵です。生身でクルマと戦うような奴ですからね。アクシードとやらの中でも最強だそうですよ」
ゴズはオウカに注意を促しながら手でオリハに指示を出す。オリハが静かに頷く。
「ん、んー。雑魚どもに妙な流れが……ナノマシーンの操作か。そうかよ、そんなことまで出来れば思い上がるよなぁ。雑魚が勘違いするよなぁ」
タンクトップの巨漢――コックローチが手に持った分銅を地面に叩きつける。それだけで大地に――地面にヒビが入っていた。
アクシードの兵隊たちがダークラットを取り囲むように動いている。逃げ場は――遺跡に戻るくらいしか無いだろう。
ゴズが外部スピーカーのスイッチを入れる。
「あー、あー、マイクテステス。聞こえるか、ゴミ虫野郎。ずいぶんな人数と武装でこちらを取り囲んでいるようだが、何が望みだ?」
ゴズの言葉を聞いたコックローチが不快そうに片方の眉を持ち上げる。
「雑魚が。雑魚の分際で俺様と交渉が出来るとでも思っているのか? 良いから、その女を渡せ。そうすれば楽に死なせてやる!」
何故か遠くまで届く声でコックローチが喋る。何故か? いや、違う。ゴズには分かっていた。コックローチがナノマシーンを操作し、声を届けているのだということが分かっていた。
「む?」
無骨な刀を持ち、いつ動こうかと構えていたオウカが、コックローチの言葉に反応し、顎に手をあて、自身を指差す。
「そこのデカ女、お前じゃねえよ。奴を出せって言ってるのが分からねぇか、このクソ雑魚野郎が!」
オウカはふむふむと頷きながら顎をさする。
そのオウカの反応にゴズは大きなため息を吐く。
「コックローチ、お前みたいなアクシードの大物が直接動いている理由が分からないな」
「ほう。俺様を知っているのか。知っていてもそんな態度が取れるのか。言ったはずだぜ、俺は交渉なんてするつもりはねぇってな!」
コックローチの姿が、その場からかき消える。
次の瞬間、コックローチはダークラットの目の前に居た。オウカが動く――動いていた。コックローチが手に持った大きな分銅を振るう。それをオウカが無骨な刀で迎え撃つ。分銅と無骨な刀がぶつかり、衝撃が走る。
――そして、オウカが吹き飛ばされた。
オウカが空中でくるくると猫のように回り、しゅたっと着地する。そのままゆらりと立ち上がり、肩の筋肉をほぐすように腕を回す。
「ほう、受けるか。俺様のこれを受けるか。雑魚にしてはやるようだな」
オウカはゆっくりとその分銅を指差す。コックローチがそれに釣られ、分銅を見る。そこには小さなヒビが入っていた。
「こいつに傷が、だと」
次の瞬間、オウカがコックローチの懐に入り込んでいた。オウカが無骨な刀を振るう。コックローチが、それをなんとか分銅で受け止める。コックローチを仕留めきれなかったオウカが、すぐにその場を飛び退く。
「お前もナノマシーンに干渉出来るのか。はぁ、なるほどなぁ。ただの雑魚じゃねえってか。俺様を呼ぶ訳だ」
コックローチが肩の筋肉をほぐすように腕を回す。オウカは無骨な刀を構えたままそれを見ていた。
「お嬢、しばらくの間、そいつの相手を頼みます。こちらは取り囲んでいる雑魚を殲滅します。お嬢、無理はしないでくださいよ」
ゴズの言葉にオウカが静かに頷き、コックローチへと駆ける。ゴズはダークラットを運転し、アクシードの兵隊たちへと突っ込む。
オウカが無骨な刀を振るう、それをコックローチが分銅で受け止める。弾く、ぶつかる、弾く、ぶつかる。衝突――その度に空気と大地を揺るがすほどの衝撃が走る。
「オリハ、運転と観測は任せろ」
ゴズの言葉にオリハが頷く。ダークラットの砲塔に取り付けられた巨大な砲身がスライドし、降りて来る。そして砲塔と砲身が接続される。二十メートル近い巨大な砲身――ともするとその重さでダークラットが前のめりに倒れてしまいそうな大きな主砲が現れる。
「オリハ、行け」
そして、その砲身からパンドラによって生成された砲弾が放たれる。
ダークラットの車体が発射の反動に耐えきれず、くるくると回る。長い砲身を振り回しながら吹き飛ぶ。
「ずれたか」
揺れ、回転するダークラットの車内で衝撃に耐えながらゴズが呟く。
着弾する。
その一撃でダークラットを取り囲んでいた、アクシードの兵隊たちが、装甲車が、その一角が最初からそこには何も無かったかのように吹き飛んでいた。
ダークラットに襲撃をかけようとしていたアクシードの兵隊たちの足が止まる。あんぐりと大口を開け、驚いている。
「殲滅砲の名は伊達じゃない、か。オリハ、次弾装填。殲滅するぞ」
「……無理。パンドラが足りない」
「ん?」
ゴズがパンドラの残量を確認し、大きなため息を吐く。
「パンドラの改造をして貰ってもこれか。はぁ、これじゃあ使えないだろう」
「どうするの?」
オリハの言葉にゴズは肩を竦める。
「オリハ、俺はお嬢のフォローに行ってくる。適当にダークラットを動かして、兵隊たちが邪魔しないようにしてくれ」
「ゴズが行くの?」
オリハは小さく首を傾げる。
「ああ、俺が行く。コックローチ、あいつとは因縁があって……いや、それはお前もか。お前はあちら側なんだろう。だが、今は、お前はオリハだ。そうだろう?」
ゴズの言葉にオリハは良く分からないと不思議そうな顔できょとんとしている。ゴズはもう一度、肩を竦める。
「お前はお前だ。オリハ、任せた」
ゴズがダークラットのハッチを開け、外へと飛び出す。
上上下下左右左右。




