567 オーガキラー39
迷路のように入り組んだ遺跡を――その地下通路をダークラットが無限軌道を唸らせ疾走する。
「ふむ。無駄に入り組んだ構造、何も無いただの通路が続く……分からんな」
代わり映えのしない通路に飽きてきたオウカが、そう呟く。その顔は先ほどまでの戦いを前にした笑顔から、苦虫を噛み潰したようなものに変わっていた。
「お嬢、通路ばかりなのは寄り道をしないようにしているからですよ。まぁ、確かに無駄に長くて、無駄に入り組んでいるとは思いますがね。侵入者を惑わすためにあえてそうしたのか、それとも拡張工事を続けるうちにそうなったのか。こうなった理由が……」
ゴズはそこまで言って言葉を止める。
ダークラットも動きを止める。
行き止まりだった。
道が途切れている。
「む。これは……」
「予想外ですね。地図ではこの先に進めるようになっていたんですが、どうやら、ここは……」
そこには水たまりが広がっていた。
水に浸入され、水に沈み、通路が消えている。
地底湖だ。
「……地底湖ですね。お嬢、地底湖の方を見てください」
「む。水の中に道が続いているな。進むのか?」
オウカの言葉にゴズは首を横に振り、肩を竦める。
「このダークラットは、防水になっている訳でも、水陸両用になっている訳でもないですから、このまま進むのは止めた方が良いでしょうね。クルマから降りて泳いで渡るのも止めた方が良いでしょう。この水にどんな毒性があるのか分かりません。毒性を調べる時間も無いですし、飲むのも止めた方が良いでしょうね。お嬢、この水たまりのそこにあるものが見えますか?」
オウカが目を凝らし、地底湖を見る。
「金属の――二本の金属の線が見える。ふむ。通路に沿うように続いているようだが、ゴズ、これがどうした?」
「線路です。その二本の金属をガイドにして、クルマが移動していたんですよ。この無駄に広い地下通路で物資や武器を運ぶために使われていたのでしょう。この水のたまり具合、今はもう動いていないようですけどね。ここを進めたら近道になると思ったんですが、迂回するしか無さそうです。貰った地図では、この先が予想位置だったんですが、仕方ありませんね」
「そうか。鉄の線の上を走るクルマか。見てみたかったな」
「そうですね」
ゴズがダークラットを後退させる。
そして迂回するために来た道を戻る。
「ふむ。どれくらい戻るのだ?」
「ここは一本道ですから、結構、戻ることになりますよ」
「やれやれだ」
オウカが大きなため息を吐き、砲塔の上に座り直す。
ダークラットが来た道を戻り、走り続ける。
……。
そのダークラットが再び停車する。
それはちょうど道幅が狭くなっていた場所だった。
「お嬢」
「ふむ」
オウカが無骨な刀に巻き付けた布をはぎ取り、ゆらりと立ち上がる。
行き止まりだ。
あったはずの通路が無くなっていた。
先ほどまであった道が消えている。
通路を塞ぐように壁が出来ている。
「長い一本道、ここ以外に道はない。その状況でこれか」
ゴズは大きなため息を吐く。
そして――その通路を塞いでいた壁にトゲが生え、ゆっくりと動き出した。
トゲの生えた壁がダークラットへと迫る。
「お嬢、とりあえず後退します」
「む? 斬っては駄目なのか?」
「お嬢、それはもう少し道幅のある場所に出てからにしましょう。今、斬っても、あの壁の後ろから迫っている奴に押し潰されますよ」
「む」
ダークラットが後退しながら、迫るトゲの生えた壁に機関銃で攻撃する。
機関銃から放たれた銃弾が、トゲの生えた壁の手前で何かに当たり弾かれる。
「シールドか」
「ゴズ?」
ゴズの横でレーダーを見ていたオリハが首を傾げる。
「オリハ、分かってる。アレが目的だ。目的だった奴だろう。ターゲットがやって来てくれたようだ。こういうのを何というか知っているか?」
「カレーにチキン?」
「鴨に葱だろう?」
そう言いながら、ゴズは拡声器のスイッチを入れる。
「お前が武器庫か。こちらを狙う理由は何だ?」
ゴズが拡声器越しに、迫る壁へ喋りかける。
[理由が必要か。必要か? 不要だ。不要!]
通信機に声が返ってくる。返事がくるとは思っていなかったゴズが意外そうに片眉を上げる。
「アクシードの奴らに言われたのか?」
[そうだ。その通り。分かってる。分かってるな]
ダークラットは後退を続け、トゲの生えた壁が追いかける。
「狙いはオリハだろう? 良いのか?」
ゴズはちらりとオリハの方を見る。オリハの顔からは感情が読み取れない。襲われ、連れ去られる恐怖も、敵に対する怒りも、怯えも――全ての感情が消えている。無だ。まるで出会った頃のオリハに戻ったかのようだった。
[オリハ? 女だ。女を連れて行く。構う? 構わない。死体だ。死体で良い。死体になるならだが、ははははは]
聞こえてきた声は狂ったように笑っている。
「なるほどな」
ゴズが呟く。
「お嬢、広い場所に出たらお願いします」
「む。ここでも可能だが?」
「それでも、です。お嬢の腕なら可能でしょうが、それでも万が一のためですよ」
「うむ。任せるが良い」
ダークラットの砲塔の上でオウカが無骨な刀を構える。それはまるで放たれるのを待つ引き絞られた弓のようだった。
ダークラットが後退を続け、道幅のある通路に出る。
「お嬢」
ゴズがオウカに呼びかける。
そして放たれる。




