544 オーガキラー16
蜥蜴を焼いただけの簡単な食事を終える。
「お嬢とオリハは休んでください。見張りは自分がやりましょう」
「オリハ?」
ゴズの言葉に反応しオウカが聞き返す。
「ああ、そこの少女の名前? らしいですよ」
「ふむ。分かった。それではオリハ、一緒に寝よう」
オウカがオリハを抱き寄せ、そのまま一緒に防砂用のマントに包まる。突然のことに少女は驚き、目をしばたかせ、オウカとゴズを見る。
「お嬢? 何をしているんですか」
「ゴズ、仲良くなるためだ」
オウカがニッと笑う。
「お嬢、そういうことを言ってるんじゃあないんですがね」
ゴズが大きなため息を吐く。オウカはゴズが、その遠慮の無い距離感を心配していると思っているようだが、ゴズは見知らぬ少女を警戒してのことだった。オウカとゴズ、二人の思いはすれ違っていたが、ゴズはお嬢が決めたことならと引き下がり、何も言わない。
最初は困惑し、驚いた顔でオウカを見ていた少女も砂漠の夜の寒さとバンディットたちから解放されたという安堵からか気を失ったように、眠りにつく。オウカも少女に寄り添い、眠る。
ゴズは周囲よりも少女を警戒しながら夜の見張りを続ける。
……。
……。
「お嬢、朝ですよ」
「ん? まだ日も出ていないが?」
ゴズの言葉を聞き、オウカが一瞬で覚醒する。そして、周囲の薄暗さに気付き、不満そうな顔を見せる。
「お嬢、朝の涼しいうちにウォーミまで戻りましょう。日が出てからでは暑くて移動どころでは無くなりますよ」
「そうか」
「そうです。お嬢、ウォーミについたら、今回の夜番を含めてゆっくり休ませて貰いますからね」
ゴズがそう言いながら、未だ眠りについたままの少女を背負う。
「うむ」
オウカとゴズ、そして背負われた少女。三人が砂漠を歩く。
歩いて砂漠を越える。
ウォーミの街に戻った二人と少女はオフィスに直行する。
「お帰りなさいませ」
「依頼を終えて戻ってきた」
ゴズが窓口の女に話しかける。
「はい。こちらでも確認しています。報酬の千コイルは振り込みになさいますか?」
「いや、この場で貰おう」
「では、こちらになります」
窓口の女がカルトンに単二乾電池を乗せる。
「それで?」
ゴズがその単二乾電池を受け取りながら、背負った少女へと顎をしゃくる。
「それで? あー、なるほど。なるほど、なるほど。うっかり確認を忘れていました。洞窟で遭遇した賞金首のキャプテンホワイトはどうなりましたか?」
窓口の女はゴズにオウム返しのように聞き返し、ニコニコと微笑んでいる。
「逃げられた」
「そうですか。キャプテンホワイトは全身を機械化したサイボーグマンです。恐ろしい怪力を誇る凶悪な賞金首ですが、お二人の実力なら討伐も可能だと思っていたのですが、残念です」
窓口の女はそう言いながらニコニコと微笑んでいる。その胡散臭い微笑みにゴズは大きなため息を吐く。
「洞窟のバンディットは殲滅したが、あそこは砂丘ミミズの巣になっている。今後も注意は続けた方が良いだろう」
「なるほど。情報ありがとうございます」
窓口の女がニコニコと微笑んでいる。
窓口の女はニコニコと微笑んでいる。
……。
窓口の女はニコニコと微笑んでいる。
ゴズが窓口の女を見る。
窓口の女はニコニコと微笑んでいる。
オウカはそんなゴズと窓口のやり取りに興味が無いのか、オフィスに張り出された情報誌を興味深そうに眺めていた。
ゴズが小さくため息を吐く。
窓口の女はニコニコと微笑んでいる。
「まだ何かございますでしょうか?」
窓口の女の顔はニコニコと微笑んでいるが、その瞳の奥は笑っていなかった。窓口から一向に離れないゴズに、内心では苛立っているのかもしれない。
「まだ、とは?」
ゴズが睨むように圧を強め、窓口の女を見る。
「ご用件があって、そちらを塞いでいるのでは?」
窓口の女は引きつったような笑顔になりながらも無理矢理微笑んでいた。ゴズが圧を弱め、大きなため息を吐く。
「今回の依頼は人質の救出とバンディットの殲滅だった。そうだろう?」
「はい、その通りです。依頼の達成が確認されたので報酬をお渡ししました。依頼受注後の報酬交渉は基本受け付けておりません」
窓口の女はゴズが報酬が少ないからごねていると思っているようだった。ゴズは首を横に振る。
「人質。人質だ。この子はバンディットの巣に捕まっていた少女だ」
ゴズがもう一度、顎をしゃくって背負った少女を指す。少女は砂漠を越えた疲労からか何も喋らない。
「なるほど、そうだったんですね」
窓口の女はニコニコと微笑み、話を打ち切る。ゴズはため息を吐く。
「分からないのか? それとも分からないふりをしているのか? 俺は人質を救出したと言っている」
「はい。ですので、依頼料を減額無くお渡ししたと思いますが、まだ何かありましたでしょうか?」
「あるだろう?」
「その少女は私どもが把握しているリストには載っていません。ですが、人質救出には変わりないと判断し、報酬は減額することなく、全てお渡ししました。他に何かありますでしょうか?」
窓口の女の言葉にゴズが何度目か分からないため息を吐く。
「この少女はどうなる? どうするんだ?」
ゴズの言葉に窓口の女は首を傾げる。
「お任せいたします」
窓口の女はニコニコと微笑んでいる。暗に発見したクロウズの好きにしろと言っている。
「何処か引き取り手は?」
「情報をお望みですか?」
窓口の女はニコニコと微笑んでいる。
「それで? その情報にコイルを取るのか?」
窓口の女は首を横に振る。
「見たところそちらの少女は市民権をお持ちでは無いようです。ウォーミで暮らせるようにするのは難しいと思います。私どもが知っている情報では……西の果てにリバーサイドと呼ばれる孤児院があるらしいです。そちらなら引き取って貰えるかもしれません」
窓口の女はニコニコと微笑んでいる。
ゴズが肩を竦め、ため息を吐く。
「お嬢、聞こえているでしょ。どうしますか?」
「ん? リバーサイド送りにするくらいならうちが引き取るよ」
オウカの軽い調子の言葉にゴズは大きなため息を吐く。
「はぁ、お嬢が決めたことなら従いますよ」
オリバ? オリハです。




