534 オーガキラー07
虎型のビーストとの戦闘後もトレーラーは休憩無く走り続け、空が紅く染まり始めたところで、やっと止まった。
「ふむ。戦闘後休憩も無しで走り続け、やっと休憩か」
コンテナの上でオウカが腕を組み、いや、空腹のお腹を押さえ、首を傾げている。
「お嬢、刀に布を巻き終えましたよ。本当に面倒なので、レイクタウンに着いたら鞘を買いましょう」
「ゴズ、うるさい。それよりもお腹が空いたぞ」
「はいはい。でも、今日の晩ご飯はカレー粉抜きですよ」
「はぁ? ゴズ、どういうこと? 昼に残りわずかと言っていたのは嘘だったのか」
「お嬢、嘘ではありません。ありませんが、使い切ったら無くなるからですよ。貴重なものですから、いざという時の為に残します」
「ゴズ、今がいざという時だよ!」
オウカの言葉にゴズは大きなため息を吐き、肩を竦める。
「お嬢もいつから、こんなに食い意地がはってしまったんですかね」
「ゴズ、こうるさい。しかし、なんで襲撃があって進行が遅れているのに、夜、走らないんだ?」
「それはパンドラが回復しないから、と、この時代の人たちが夜活動することになれていないから……だけでは無さそうですね。もっと単純に、このトレーラーを動かしているAIが夜は動かない命令になっているのかもしれませんね。お嬢がコンテナの上に乗り続けても怒らないようなポンコツAIですから、凄く単純なんだろう」
「ゴズ、うるさい。良く分からないがうちのことを馬鹿にしているな?」
ゴズはもう一度肩を竦め、そして、コンテナから外を見る。
「お嬢、それよりもお客様みたいですよ」
「ゴズ、見えてる」
ゴズとオウカのところにやって来たのは――昼に虎型のビーストに襲われていた男だった。
「どうやら運良く生き延びたみたいですよ」
「ふん」
男は右腕を押さえ、傷だらけの体を引き摺っている。
ゴズはそんな男の姿を見て、こんな傷だらけで役に立ちそうも無い状態になってもクルマに乗せて運んでやっているのだから、連中も以外と悪い奴らでは無いのかもしれない、と、そんなことを考えていた。
「いや、単純に次の囮として使えるからか? 連中のクルマはバスタイプで人を乗せる余裕があるからか?」
ゴズが呟く。
「ゴズ、何か言った?」
「いえ、何も。お嬢、それよりもお客さんが何か言いたそうですよ」
男がゴズとオウカの居るコンテナの前で止まる。
「な、なぁ! た、助けてくれ。なぁ、あんたも見ただろ、俺がどんな仕打ちを受けたか! あんたがビーストを倒したのを見た。あんたなら、あんたの強さなら! あの邪悪なシャポンとガチャガチャを殺せる! 奴がコイルをたんまりと貯めているのを見たんだ。あんたにもメリットがあるだろ? だから、頼むよ。俺を助けてくれ」
男は必死な様子でオウカに訴えかけている。
そんな男をオウカは一瞥し、
「知らん」
一言で切り捨てる。
「な、なぁ、聞いてくれよ。悪い話じゃないんだって。シャポンの奴ら、俺らから奪ったコイルを、十万いや、百万コイルはため込んでいるはずだ。俺から奪い取った分は返して貰うが、残りは全部、あんたの分で良いから、どうだ? 悪い話じゃないだろ、な? な?」
男の言葉にゴズは小さく苦笑する。
「純真で清廉潔白で脳筋なお嬢を悪の道に引きずり込まないでくれるか?」
「ゴズ、何か言ったか?」
「いえいえ、純真で天真爛漫とお嬢を褒めていただけですよ。まぁ、ちょっと脳筋ですが。そういう訳なので、お引き取りを」
ゴズが男にとても良い顔で微笑みかける。
「餓鬼が出しゃばってくるんじゃねえよ! 俺はその人と喋ってるんだ! 良い話を持ってきたんだから、乗るべきだろ!」
傷だらけの男が叫ぶ。それを見てゴズは大きなため息を吐く。
「ゴズ」
オウカがゴズを呼ぶ。
「お嬢、せっかく巻き終わったところですよ。面倒なので勘弁してください」
「ゴズ」
オウカが不敵に笑いゴズを呼ぶ。それを見てゴズは肩を竦める。
「はぁ。そこのお前、それ以上、口を開いたら死ぬぞ。お嬢に斬り殺されるだろうよ。せっかく巻き終えたのに、また刀に布をまき直すのは面倒だ。早く帰ってくれやがりませんかね?」
「餓鬼が何を言ってやがる!」
「言葉が分からないのか? これ以上喋ったらお嬢に斬り殺されるって親切に教えてやってるんだよ!」
コンテナの上に居たオウカが立ち上がり、催促するようにゴズへと何度も手を伸ばす。ゴズは大きなため息を吐き、布を巻いた刀を渡す。
それを見た男の顔が引き攣っていく。
「いや、俺は、良い話だと思って……くそ、後で後悔するなよ!」
傷だらけの男は、それだけ言うと逃げるように体を引き摺りながら去って行った。
「お嬢、あの男が囮に使われた理由が良く分かりましたね。アレはそれ以外に使えそうにない」
「ふん」
「って、お嬢。まさか抜いたんですか? せっかく布を巻いたのに? まさか抜いたんですか?」
「ふん」
オウカから刀を受け取り、ゴズは大きなため息を吐く。
そして、三日目。
その日は何事も無く、平和にトレーラーは走っていた。
「ふむ」
コンテナの上のオウカが眉間に皺を寄せる。
「お嬢、やれやれですね」
コンテナの中でくつろいでいたゴズが肩を竦める。
シャポンが運転する大型バスタイプのクルマがトレーラーの進路を塞ぐ。進路を塞がれたトレーラーが停車する。
大型バスからシャポンとガチャガチャが降り、オウカとゴズのところへ歩いてくる。
「おやおや、どうしました?」
ゴズが二人に話しかける。
「トレーラーの点検だ。今日はバンディットに襲われて荷物を少し奪われたからな。走行に問題が無いか確認する必要がある」
「そうだぜ」
シャポンとガチャガチャはゴズとオウカを見てニヤニヤと笑っている。他の団のメンバーもバスから降りてコンテナを取り囲む。
「へー、自分はバンディットを見ていないんですが、自分の勘違いでしょうか?」
「おいおい、察しの悪い奴だな。これくらいは手間賃なんだよ。依頼主も少しなら許容してくれるさ」
「ほうほう。今まではバレなかったかもしれませんが、これからは分かりませんよ?」
「お前らが黙っているならバレねぇよ。それとも喋るつもりか? 依頼主にバラすってぇなら、殺すしかねぇなぁ。黙っているならよぉ、お優しい俺様は、お前らの分も……少しならわけてやるぜ? どっちがお得か分かるよな?」
シャポンは両手を広げニヤニヤと笑っている。
ゴズは顔に手をあて、大きなため息を吐く。
「どうして、どいつもこいつもチンピラは似たような性格になるんだ? 多様性のためとはいえ、これは不要だろう」
「餓鬼、何を言ってる?」
「は、シャポンの兄貴の優しさに感謝するんだな」
シャポンたちの団の団員がコンテナに乗り込もうと手をかける。次の瞬間、その手が斬り飛ばされていた。
「はぁ、お嬢ならそうするよなぁ」
「近寄るなら斬る!」
オウカが棍棒にしか見えない無骨な刀を抜き放ち、ニヤリと笑っていた。




