512 ダブルクロス34
激しい戦いだったのか少年の服だったものは、ただの布きれとかしていた。布が、風に吹かれ、はらはらと飛んでいく。右の拳を突き上げていた半裸の少年が、疲れ切った表情でその拳をおろす。
「大将がやられたあぁぁぁぁぁぁぁ!」
「マジかよ!」
「しゃ、洒落にならねぇ、化け物だ! 逃げろーーーー!」
「撤収、撤収ーーっ! 拠点まで逃げろー!」
アクシードの兵隊たちが逃げだしていく。
トビオたちが苦戦していた装甲車もキュルキュルとタイヤを唸らせ、慌てた様子で撤退していく。
「勝った? 勝ったのかよ。ははは、ヤツら逃げ出しやがったぜ……」
トビオが呟き、安堵のため息を吐き出す。そして、トビオは、今にも倒れそうな状態でありながら、それでもしっかりと二本の足で立ち、撤退していくアクシードを睨み続ける少年を見る。
トビオがグラスホッパー号を走らせる。
「おい、ガム! 大丈夫かよ」
少年の近くまで走らせ、その勢いのままグラスホッパー号からトビオが飛び降りる。そして、倒れそうになっていた少年を支える。
「うん? あんたか」
少年がトビオを見る。
「倒したのか。倒したのかよ! さすがだな!」
トビオが少年を称賛する。
「ああ。それよりも着るものを出してくれ」
「着るもの? うん? あー、確かに必要だな」
トビオが半裸になった少年を見る。どうやればそうなるのか分からないほど少年は着ていた服だけがボロボロになっていた。体に傷は見えない。
「だけどな、服か。服かぁ。さすがに俺が着ているのを渡すのは……うーん」
少年を支えたトビオが困った顔で悩む。そしてグラスホッパー号の荷台を見る。そこでチェーンガンを握っていた店員の女が、自分に言われても、という顔で首を横に振り、そのまますぐに考え込む。何やら、それどころではない感じだった。
少年が大きくため息を吐く。
「座席の下にあるはずだ」
「座席の下? 分かった。見てみるぜ」
少年がそのまま倒れ込まないか不安げな様子で――それでも恐る恐るという感じでトビオは少年から手を離す。そしてすぐにグラスホッパー号に戻り、座席の下を探す。
「ん? これ、持ち上がるのか?」
トビオが座席を持ち上げる。すると、そこには綺麗に折りたたまれた服が入っていた。
「ガム、これか?」
「ああ、それだ。頼む」
「分かった」
トビオが少年に服を投げ渡す。
「しかし、座席の下にこんな、荷物を入れるスペースがあるなんて気付かなかったぜ。ガム、よく知っていたな。つーか、それに気付いて、予備の服をしまっておくなんてずいぶんと準備が良いな」
少年は何も答えず肩を竦め、受け取った服に着替えている。
「見ろよ、ガム。アクシードの連中が慌てて逃げていっているぜ。それでガム、どうやってあの凶悪なアクシードを倒したんだ?」
「倒した? コックローチを、か」
「コックローチ? それがあのアクシードの名前か。そんな変な名前のヤロウだったんだな」
トビオの言葉に少年が肩を竦める。
と、そんなトビオと少年の会話に絡んでくる存在があった。チェーンガンを握っている店員の女だ。
「さっきの爆発は、NuCBです。どう考えてもNuCBですよぉ! 間違いないです! 驚きで少しフリーズしましたよぉ! そんなものを何処で手に入れたんですか? いや、それ以前にですよ、こんな場所で使って良いものじゃあないですよぉ! 街が吹っ飛んでも良いんですか? そりゃあ、NuCBを使えばあんな連中一撃でしょうよ。ですが、本当に危険なんですよぉ! 毒に汚染されて……」
店員の女が、そんなことを言い出し、絡んでくる。
「そうか。そんなに危険なものだとは知らなかったな」
服を着替え終わった少年が肩を竦める。
「そもそも! どういうことですかぁ!」
「何がだ?」
「あんな爆発の仕方、間違いないですよぉ! あの爆発の中で服が破れた程度じゃあ済まないですよぉ! うちが聞いていた、知っているNuCBは、もっと……」
店員の女の言葉を聞いた少年が首を横に振り、ため息を吐く。
「とっさにクルマのシールドに隠れた。それで何とかなったんだろう」
「いやいやいや、クルマのシールドでなんとかなるものじゃあないですよぉ! だって、アレは……」
「では、そのエヌ何ちゃらではなかったんだろう。俺は情報屋のエムから偶然譲り受けた爆弾を使っただけだ」
「でもですねぇ、アレは……」
トビオがまだ何か言いたそうな店員の女の肩に手を置き、止める。
「良く分からないが、その爆弾のおかげで勝てたんだろ? それで良いじゃあないか。そうだろ?」
トビオが少年を見る。少年はやれやれという感じで肩を竦めていた。
「良くないですよぉ! NuCBは、その破壊力もですけど、その後が酷いんです。大地に毒が残るって言われてるんですよぉ。あのバンディットすら近寄らない毒が残るって話なんです!」
だが、店員の女は止まらない。トビオが大きなため息を吐き、首を横に振る。
「そうか? そうなってるようには見えないぜ。どうだ?」
トビオがそこまで言い、さすがに店員の女も口を閉じる。少年も店員の女も爆発があった場所に居る。それで体に不調をきたしている様子はない。店員の女が聞いていた話とは違うようだった。だが、それでも納得はしていない様子だ。店員の女は不審なものを見るような目で少年を見ていた。
「それで?」
少年がトビオを見る。
「あ、ああ。今後の予定か。アクシードの襲撃には驚いたが、予定通りに進めるぜ。武器も手に入ったからな。ここで補給を済ませたら、行くつもりさ」
「分かった」
少年が頷く。
「あー、武器! 武器ですよぉ! NuCBの衝撃で忘れそうになってました! 支払いしてください。持ち逃げはさせませんよぉ!」
店員の女がトビオを見て叫ぶ。
「あ、ああ。もちろん払うさ。何度も言っているがしっかりと払うつもりだ。俺も商人だからな、そこは……支払いはしっかりとするさ」
トビオはそう言いながら、これ以上、この女とは絡みたくないな、と考えていた。
「はぁ、街を襲撃されてすぐだが、ちゃんと補給できるんだろうか」
そして、トビオは、そう呟いた。




