349 おにのめにも33――『殺すことで救った気になっている大馬鹿を躾けるか』
セラフならミュータントが抱えている爆弾を解除することが出来る。
『それで? 全てのミュータントに爆弾が仕掛けられているのか?』
この街には無数のミュータントが――色々な『種族』と言ってしまっても良いようなくらい様々な姿のミュータントが暮らしている。
『ふふん、まさか。そのミュータントが居た施設によるでしょうね。でも、安全装置をつけていないところなんてあると思うかしら?』
俺はセラフの言葉にため息が出そうになる。
このキノクニヤはミュータントが集まっている街だ。住民の殆どがミュータントだ。セラフが言っていることは、気付いているのか気付いていないのか、そいつらは――そいつらの殆どが爆弾を抱えて生きているということだ。
セラフはどうやってそれを解除するのだろうか。俺が代理で行うのか、そういう施設があるのか、オフィスが行うのか。
……。
オフィス?
『待て。オフィスが、ノルンの端末がそれを知らない訳が無いよな?』
セラフがこの情報を手に入れたのは、ここのオフィスを支配したからだろう。オフィスが知らない訳が無い。
『ええ、当然でしょ』
『何故、それでミュータントの支配に失敗したり、大蜥蜴を使ってリセットしたりするようになる?』
上手く立ち回れば、もっと簡単に逆らえないように出来たはずだ。だが、なぜ、それをやらない?
『言われてみればそうね』
ここのオフィスのマスターはそんなに間抜けなのか? 分からないな。にしても、セラフも分からないのか。ここのオフィスの情報は全て手に入れているはずなのに、わからないということは――マザーノルンが関与しているのだろうか。
……また良く分からなくなったな。
考えるだけ無駄なのかもしれない。
だが、これでやることは決まった。
俺は周囲を見回す。殴りかかってきた荒くれの腕を取り、投げ飛ばして空間を作る。
……鬼灯はあそこか。
鬼灯は次の装甲車を狙って動いていた。どうも奴は装甲車から壊していくつもりらしい。本当に何がしたいのか分からない奴だ。自棄になって全部終わらせるつもりなのだろうか。
俺は鬼灯を目指して走る。
「ひぇひぇひぇ、行かせぬぞ」
その俺の前に鎖のついた鎌を持った男が立ち塞がる。チョーチン一家の雇っている用心棒の一人だろう。
男は鎖を持ちひゅんひゅんと鎌を振り回していた。俺は荒くれから奪った銃で男を撃つ。だが、その攻撃は回転する鎖によって弾かれる。
凄い回転だ。常識的に考えれば鎖を回転させただけで銃弾を防ぐことなんて出来る訳が無い。そんなのは漫画の中の世界だけだろう。だが、こいつはそれをやってのけた。タイミングなのか、回転の力なのか……これもミュータント化したことで得た能力なのだろうか。
男が回転させた鎌の付いた鎖をこちらへと投げ放つ。俺はとっさに近くの荒くれを引っ張り盾にする。
「ひぇひぇ、無駄、無駄じゃ!」
盾にした荒くれの胴体に鎖が絡みつき、一瞬にしてその体が千切れ飛んだ。
凄い力だ。絡みついた人を真っ二つ、か。だが……、
俺はその鎌付きの鎖を持った男を撃つ。
「ひぇひぇ、ひぇ?」
鎌付きの鎖を持った男の脳天に穴が空く。銃弾を鎖の回転で防いだのは凄いが、それだけだ。その武器をこちらへと投げ放てば、次は防げなくなる。何がしたいのか分からない間抜けな用心棒だった。
俺は信じられないという顔で崩れ落ちる間抜けを横目に鬼灯の元へと走る。
「よぉ、鬼灯」
「ガム、か」
大太刀を構えた鬼灯はこちらに振り返りもしない。
「仲間を殺し回って気でも狂ったのか」
「ふむ。お前には分からんよ」
鬼灯の圧に飲まれているのか荒くれたちはこちらに近寄ろうともしない。
「もう充分だろう?」
「足らぬな。これは己が威を見せるために必要なこと」
俺たちがこうやって話している間もグラスホッパー号に乗ったカスミは陽動のために動き、ドラゴンベインはパンドラの残量を削られながらヨロイと装甲車の相手をしている。
「鬼灯、殺しても救いにはならない。こいつらはお前に殺してくれと頼んだのか?」
「……何を言っている?」
鬼灯がこちらへと振り返る。
「さあな」
俺は肩を竦める。
「何を知っている?」
「お前がやっていることが自己満足だってことくらいは知っている」
「余所者のお前には分からぬことよ」
鬼灯は大太刀を構えている。まだ戦い足りなかったらしい。一度俺に負けているのに、それでは分からなかったようだ。
『ふふん。馬鹿なんでしょ』
『ああ、大馬鹿野郎だから、分からないのだろう』
俺は大きくため息を吐く。
周囲の荒くれたちの動きが止まっている。攻撃を止め、俺と鬼灯を見ている。俺と鬼灯の間にある、このピリピリと張り詰めた空気を感じ、動けなくなったのかもしれない。
「お前のやっていることが無駄でしか無かったと教えてやることは出来るな」
「戯れ言を」
鬼灯がゆらりと大太刀を動かし、上段に構える。
『殺すことで救った気になっている大馬鹿を躾けるか』
『ふふん。そうしなさい』
セラフは楽しそうに笑っている。
「!」
鬼灯が無言で動く。
神速の踏み込み。手に持った大太刀を振り下ろす。俺は獣化した右腕を伸ばし、それを受け止めようとする。鬼灯の大太刀が引き戻される。斬り下ろしから、軌跡が変わり、横へと薙ぎ払われる。
甘い!
獣化した足で大太刀の刃を蹴り上げる。鬼灯が手にしていたのが慣れ親しんだ得物だったなら、俺の体は上と下に別れていただろう。だが、大太刀ではそこまでの速さが出ていない。
俺は獣化した右腕で角の生えた鬼灯の頭を掴み地面へと叩きつける。
これで二戦目も俺の勝利だ。
「鬼灯、お前が抱えている問題は俺が解決出来る。治るぞ、それ」
「……な、ん、だ、と」
鬼灯がよろよろと上体を起こす。
その顔は信じられないという不審と驚き、救いを求めたいと嘆く痛みに歪んでいた。




