347 おにのめにも31――『構わない、続けろ』
「踏み潰せ!」
「殺せ!」
「舐めた餓鬼を蹂躙しろ!」
連中は好き勝手に叫んでいる。どうやら荒くれたちの戦力が揃ったようだ。
周り全て敵。なんならオフィスの中のクロウズ連中も敵だろう。右腕はすぐに再生出来るとはいえ、今は使えない状態だ。左腕の機械の腕九頭竜は大破。つまり、今現在の俺は両腕が使えない。
対するは装甲車タイプのクルマが十台に作業用ロボットのようなヨロイが三台。ヨロイの方は大きな盾を持っているので、こちらの攻撃から身を守る役目なのだろう。ドラゴンベインの一撃でも攻撃を通すのは難しそうだ。
何処から増殖したのか荒くれたちは百人ほど。さらにレベルの違う用心棒らしき連中も五人ほど居る。
オマケに遠くからこちらの命を狙っている凄腕の狙撃手まで居ると来た。
まさしく絶体絶命だ。
『ふふん。それでお前はどうするつもりかしら?』
セラフは随分と余裕だ。もしかするとオフィスの中に隠された秘密兵器でもあるのかもしれない。
『どうするつもりかだって?』
正解は逃げることだろう。
クルマを盾にすれば、逃げ延びることくらいは出来るだろう。その代償は俺のどうでも良い名声が地に落ちることとクルマを失うということくらいだろうか。
……。
つまり逃げるという選択肢は無いということだ。
無謀だということは充分に分かっている。だとしても引けない時がある。
『セラフ、クルマは任せた』
『ふふん、任せなさい』
後はカスミか。
俺は指示を出そうとカスミを探す。
ん?
カスミは、何処に……?
その時だった。
「かああぁぁぁつ!」
戦場に大きな声が響く。見ればカスミが助け起こした鬼灯が叫んでいた。
鬼灯の咆哮に荒くれたちの動きが止まる。
「見苦しい真似は止せ。戦は我らの負けだ」
鬼灯が荒くれたちに呼びかける。荒くれたちは鬼灯の言葉に動揺したのか武器を下ろして、オロオロとし始めた。こんな状況でも連中は鬼灯に逆らえないようだ。
「若……」
そんな荒くれたちの中から大太刀を肩に担いだ巨漢の鬼が現れる。その額には鬼灯と同じように角が生えていた。もしかすると鬼灯の身内なのかもしれない。
「若は戦って負けてすっきりしているかもしれねぇ。だが、俺達は戦ってもいねぇ。どうケジメをとってくれるんや! ああ!」
巨漢の鬼が叫ぶ。
それを聞いた鬼灯は――
無言でその巨漢の鬼の元へと歩いていく。堂々とした足取りだ。そして、大太刀を肩に担いだ巨漢の鬼の前に立つと、そのままその腹を殴りつけた。
「ごぽぉ」
巨漢の鬼の体がくの字に曲がる。
「よう言った。殺す」
鬼灯は巨漢の鬼が持っていた大太刀を奪い取り、切り捨てた。
あっさりと殺した。
鬼灯、こいついきなり何をしているんだ?
「ふむ。お前らの覚悟は見た。皆殺しにしてやろう」
鬼灯はそう言うが早いか、大太刀を片手に駆け出す。装甲車の前に立ち、そのまま一閃、装甲車を真っ二つにする。
『ねぇ、あれは、あいつは馬鹿なの?』
鬼灯が身内だった荒くれの中で暴れ回っている。
『俺に負けたことで強さというカリスマと信頼が崩れ落ちただろう? それを再び取り戻そうとしているんだろうな』
やっていることは無茶苦茶だが、そういうことなんだろう。
はぁ。
乗り遅れたな。だが、まだ間に合うだろう。
『セラフ』
『ふふん。任せなさい』
ドラゴンベインの砲塔が動き、続けて三つの轟音が響く。ドラゴンベインに搭載された150ミリ連装カノン砲から放たれる三連続の砲撃。だが、その砲撃はヨロイが地面に打ち立てた盾によって防がれていた。
あっさりと防いだな。連中、意外と良いものを使っているのかもしれない。
『構わない、続けろ』
『ふふん。言われなくても!』
ドラゴンベインが砲撃を続ける。その連撃に、ヨロイは地面に打ち立てた盾ごとジリジリと後退っていく。
そこへ九台の装甲車からドラゴンベインを目掛けて砲撃が飛んでくる。集中砲火――ドラゴンベインのシールドがなんとかその攻撃を防いでいるが、長くは持たない。
カスミがグラスホッパー号に乗り込み、荒くれたちの中へと飛び込む。攻撃を分散させるつもりなのだろう。
俺も走る。
瞬時に右腕を再生させ、その鋭い爪で荒くれを斬り裂き、持っていた銃を奪う。そのまま引き金を引き、デタラメに荒くれたちを撃ち抜いていく。
『ふふん。そんな場所にいたら砲撃に巻き込まれるでしょ』
『お前がそんなヘマはしないと思っている』
こんな豆粒みたいな銃火器で装甲車を壊すのは無理だ。シールドを突破出来ないだろう。装甲車はドラゴンベインで倒すしかない。
だが、そのためには盾となっているヨロイ連中が邪魔だ。俺は牽制するように銃を乱射しながらヨロイへと走る。ヨロイは搭乗席が剥き出しになっている。生身でも倒せるはずだ。
「おっと、待ちな。ひひひ」
その俺の前にトンファーのような武器を持った男が立ち塞がる。用心棒の一人だろう。
「邪魔だ」
俺が問答無用で引き金を引く。だが、その放たれた銃弾は、奴のトンファーによって次々と弾かれる。随分と器用なことをする奴だ。
トンファー使いがこちらへと前蹴りを放つ。俺はそれを後方へと跳び、躱す。
!
腹部に強い衝撃。見れば俺の腹から血が流れていた。躱したはずのトンファー使いの蹴り足、その靴底を見る。そこには銃口があった。
「ひひひ。これこそ、必殺トンファーキックよ」
トンファー使いが得意気に笑っている。
その足を掴み、捻る。
「ひ? ひぃぃ!」
そのまま顔面に獣人化した狼の爪を叩き込む。
これで一人。
顔面がぐちゃぐちゃになったトンファー使いを放り投げ、俺は再び走り出す。
腹部の傷はナノマシーンを活性化して治す。我ながらインチキ臭い能力だ。
荒くれたちが俺の動きに気付いたのか、俺の進路を邪魔するように立ち塞がる。
俺は右腕を突き出す。
「真・斬鋼拳」
俺の右腕が消える。その直線上にあった荒くれたちがスパンと切断される。その反動を受けて俺の体が大きく吹き飛び、ゴロゴロと転がる。俺は何事もなかったように立ち上がり、走る。
まずはヨロイを壊す!




