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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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181ー1 イツキワカバ

 私の名前は五木(イツキ)若葉(ワカバ)です。ブラック企業に勤める社畜の一人です。今日もストローを刺した栄養ドリンクをちゅうちゅうと吸いながらモニターの前に向かってキーボードを叩いています。

「仕様変更? 明日までに書類を準備? もっと早くから言ってくれていたら、いくらでも準備が出来たのに!」

 額に冷え冷えシートを貼り付け、作業を進めます。


 なんとか書類を仕上げ、帰路につきます。

「これなら四時間くらいは眠れるかも」


 ふらふらと歩きながらスマホを取り出す。疲労で真っ直ぐ歩けない~。

「そういえば今日はフェスだったよね」


 今日は私が遊んでいるスマートフォン向けのアプリゲーム『火と闇のコンチェルト』のフェスが開催されているのだ。このアプリゲームのストーリーは主人公の火の聖女がライバルである闇の聖女と競いながら五人の王子、三人の騎士の英雄候補たちと仲を深め、大陸に光を取り戻すという内容だ。キャラガチャは無くて、八人の英雄候補たちへのプレゼントになっているのが特徴だ。

「ガチャは悪い文化だもんね」


 私はフェスの内容を確認する。と、そこでフェスに合わせて発表された新事実に驚愕する。


「え、待って、新キャラ? 九人目? フェスに合わせて? え、嘘、新キャラって、設定だけあった第六位王子なの? まさかの、ワイルドな俺様系なのに少年キャラ? 推せる」

 私はさっそく宝石の数を確認する。この宝石の数だけ英雄候補への抽選プレゼントが買える。


「え? 今回のフェス、一等は執事系コスチュームなの? しかも限定? さらに特別なカラーの特等? 今推しにプレゼントもしたいし、第六位王子にも……二つは当てたいから、それだと宝石が足りないかも」


 課金しないと。


 サクッと課金して抽選プレゼントを十連で引く。


 六等 回復薬

 六等 回復薬

 五等 美味しいステーキ

 五等 魔力回復薬

 六等 銀の腕輪

 五等 知的な本

 六等 薬草

 四等 銀の剣

 五等 美味しいステーキ


 キラキラ~、光輝く演出。


 三等 騎士鎧コスチューム


 十連を引いてレアは最後の最低保証の三等だけだった。


「うーん、スタミナ回復用のステーキは嬉しいけど、後はプレゼントしても殆どステータス上昇にならないようなものばかり。三等のコスチュームもダブりだし、フェス中なのに確率が渋すぎる。絶対、これ、課金誘導で操作されてるよね」

 当たりが出るまで引けば確率は百パーセントになる。今回、私は当たりが出るまで引くつもりだ。


 私は気付かなかった。ふらふらの頭で歩きながらスマホを操作していた私は、今、自分が何処に居るのかも気付いていなかった。


 横断歩道。


 赤信号。


 私の目の前に光が迫る。激しく鳴り響くクラクションの音。そして大きな衝撃。私の手からスマホが落ちる。そこには特等が当たったことが表示されていた。


 あ、当たった。


 私はそこで意識を失った。


 ……。


 深い闇。


 何処だろう。


 ここは何処だろう。


 何故かとても寒い。


 手を伸ばす。


 光。


 小さな光が見える。


 そこへと手を伸ばす。


 そこで私は目が覚める。そして、その伸ばした自分の手を見て、何か違和感を覚える。


「なんだろう? え? 嘘、あれ? 私の声って、こんな声だったかな?」


 起き上がる。自分はどうやらベッドで寝ていたようだ。


「え? 待って、ここ、何処?」


 周囲を見回し、そして、部屋に置かれた大きな姿見に写った自分の姿を見て驚く。


「えー!?」


 そこには白髪に赤い瞳の少女の姿があった。その容姿には見覚えがある。似ている。ペタペタと顔を触る。


 私だ。


 鏡に映っている白髪に赤い髪の少女は私だ。


「オプスキュリテお嬢さま! 目が覚めたんですね」

 メイド服の少女がそう叫びながら、私に駆け寄ってくる。

「え、嘘。でも、え、待って、え、あの、あの、私、どうして……」

「覚えてらっしゃらないんですか、婚約者になる予定の第三位王子殿下に会いに行こうとされて、その途中で転ばれて、意識を失っていたんですよ」

 メイド服の少女の言葉が脳内にこだまする。


 え?


 嘘?


 今、オプスキュリテって言った?


 私はその名前に聞き覚えがある。私がさっきまでスマホでやっていたアプリゲーム『火と闇のコンチェルト』に出てくるライバルキャラ、闇の聖女の名前だ。公爵の娘である彼女は、平民である火の聖女の主人公を見下していて、それで妨害してくるキャラだったはずだ。


 そのライバルキャラ? 私が?


 まさか、ここは『火と闇のコンチェルト』の世界?


 ゲームの世界なの?


 私、ゲームの世界に転生しちゃったの!?


 でも、今の私はゲームで出てくるオプスキュリテよりも随分と若い。物語は十六歳になった主人公が火の聖女に、オプスキュリテが闇の聖女に選ばれたところから始まる。

 今の私は小学生くらいの少女に見える。


「ごめんなさい、少し記憶が混乱しているの。今はいつで私は何歳だったかしら?」

 メイド服の少女に聞いてみる。

「今は青竜の年512年です。オプスキュリテお嬢さまは八歳になられたところです」

 メイド服の少女は首を傾げながらも教えてくれる。


 八歳?


 今、私は八歳なの?


 そうなると物語のスタートまで、まだ八年あることになる。


 準備をしないと。


 私は知っている。闇の聖女になったオプスキュリテはライバルキャラという特性上、いつも主人公たちのクエストを邪魔して、そして最後にはいつも酷い目に遭っていた。ゲームの設定では闇の聖女であるオプスキュリテはその闇の能力で死ぬことはなかった。だから、いつも死ぬほど酷い目に遭うのだ。主人公がオプスキュリテに負けた時はクエストの最初に時間が戻っていた。それはゲームに仕様だったけど、それがもし、ここでも適用されるなら、この先に待っているのは、主人公に負け続けて、酷い目に遭い続ける運命だ。それは溶岩に落ちたりとか、橋の上で雷の魔法に撃たれて消滅するとか、時計塔の針に挟まれたりとか、イラストではコミカルに描かれていたけど、自分がそうなると思うと……。


 ぶるぶるぶる。


 私は両手で自分の体を抱きかかえる。


 ここがゲームの世界なら、私がライバルキャラのオプスキュリテなら、なんとかしないと。ゲームと同じ道を進んだら駄目。


 運命を変えないと。


 どうしよう。


 今は物語が始まる前だ。もし、その前に英雄候補たちを私の味方に出来たらどうだろうか? 私と彼だけの世界。そう、ここなら実際にゲームの中のあの人に会えるんだ。でもでも、駄目。駄目ね。それだと主人公に奪われてしまうかもしれない。自分の推しに実際に会えるのは嬉しいけど、今は自分の運命がかかっている。慎重に行動しないと。


 主人公に味方する英雄候補を殺してしまったらどうなるのかな。主人公は英雄候補がいなければ何も出来ない。だったら、居なくなってしまえば……。


 それでも私は負けて酷い目に遭うのかな?


 試してみる価値はある。後、八年もあるんだから、やってみよう。


 私にはゲームの知識があるから出来るはず。


 レアアイテムが手に入る洞窟の場所も、英雄候補者たちの好みも、イベントのフラグ、これからこの大陸で起きることを知っている。アイテムをプレゼントすることしか出来ない主人公と違って闇の聖女であるオプスキュリテは自分で戦える。私にもその力があるはず。それにオプスキュリテはこの大陸の公爵の娘だ。平民の主人公と違って権力がある。主人公が聖女に選ばれる前なら、それは大きな力になるはず。


 うん、上手く利用すれば……運命は変えられる。


 まずは三人の騎士のうちの二人……赤騎士と黒騎士ね。赤にこだわる赤騎士は私の好みから外れているし、その弟子の黒騎士はもっとあわない。黒騎士はイケメンで、女にモテるって設定だけど、そんなの不快だもん。色んな女にモテる黒騎士が、その女たちと別れて、主人公に一途になるのが良いって人もいるみたいだけど、私にはその時点であり得ないし、顔が良いだけのモテモテ設定なんて不快だもんね。だから、まずはこの二人。


 うん、なんとかなるはず。


 運命を変えよう!

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― 新着の感想 ―
[一言] いきなり別の小説を開いたのかと思って焦ったわw
[良い点] あれ、番号が181ー1なのか…読み返したらちゃんとそうしてたわざとのやつ! わからんのでもう続き楽しみなんですぜ!
[良い点] 悪役令嬢オプスキュリテの奮闘が今、幕を開ける! [一言] あれ金曜なのに更新……あ(察し) 連番の抜けてたとこを、ここで補ってくるのは予想外w 一年越しの構想とは恐れ入るー。
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