324 おにのめにも08――『眠らない町という感じだな』
大蜥蜴の群れへとドラゴンベインを走らせる。
幼子を抱えているカスミのグラスホッパー号は……今回は待機だ。グラスホッパー号のグラムノートなら、かなり距離をとって、離れた位置から攻撃することくらいは出来るだろう。だが、それで狙われでもしたら――集団がそちらへと向かってしまったら、不味いだろう。いくらシールドがあると言っても小型バスサイズのビーストの攻撃にグラスホッパー号が何度も耐えられるとは思えない。
角の生えた男も走る。速い。ドラゴンベインよりも速い。先に大蜥蜴の群れに乗り込むのは、この角の生えた男の方だろう。だが、ドラゴンベインにはこの男にないものがある。
見えた。
大蜥蜴の群れだ。セラフの言ったとおり、数は八。伏兵は無しだ。
「攻撃する」
俺は角の生えた男に宣言し、砲塔を動かす。大蜥蜴の群れを狙い砲撃する。轟音とともにマズルブレーキが激しく前後し、噴煙をたなびかせる。連続で放たれた砲弾が大蜥蜴を穿つ。血と肉片が飛び散る。攻撃を受け、大蜥蜴の群れがこちらに気付く。先ほどの攻撃で体の一部が抉れ、削れている。だが、大蜥蜴は止まらない。それをものともせずこちらへと走ってくる。
『意外としぶといな』
『ふむ。単純な分、死ににくい見たいね。グラムノートでやったみたいに脳と神経を焼き切って強制的に動かないようにでもしないと止まることは無さそう。ふふん、面白いじゃない』
何に対抗意識を燃やしているのかセラフが燃えている。俺は大蜥蜴から距離をとるように後退しながら、さらに砲撃を続ける。
角の生えた男に無い物。ドラゴンベインにあるもの。それは距離だ。ドラゴンベインには遠距離から攻撃する手段がある。どれだけ恐ろしいビーストだろうが、どれだけ強靱な体、巨体、破壊力を持っていようが、近寄られる前に倒してしまえば、何も持っていないのと同じだ。
俺は砲撃を続ける。
そこに角の生えた男が突っ込む。そして、一閃。砂と砲撃の煙に線が入り、そこから別れる。煙が斬り裂かれる。別れた煙の中から角の生えた男が現れ、刀についた血を払う。刀によって斬り払われ、晴れた煙の向こうでは大蜥蜴の頭が落ちていた。危険な相手にあえて近寄り、斬り殺す、か。この男が達人なのは間違いない。
「構わず攻撃を」
角の生えた男の声がここまで飛んでくる。静かな落ち着いた声なのに、それでいて戦場を支配するような――本当に良く通る声だ。
俺は砲撃を続ける。角の生えた男は俺の攻撃を、狙いを、何処から飛んでくるのか把握しているのか、器用に避け、そして大蜥蜴を斬る。ムキになって男の方を狙いたくなるほどの躱しっぷりだ。
角の生えた男が大蜥蜴を斬り、注意を引きつける。そこに俺が攻撃をする。角の生えた男は、群れの注意を集め、その攻撃をすいすいと避けながら、俺の砲撃すら避け、隙をみて攻撃をしている。さすがに群れの中に突っ込んだ後では一撃で頭を斬り落とすのは難しいようだが、それでも一人で大蜥蜴の攻撃の管理、回避と攻撃、それら全てをやってしまっている。
この男と俺、どちらが強いだろうか。今の俺で勝てるだろうか。
思わず口角が上がる。試してみたくなる。
『あらあら』
俺はセラフの言葉に頭を振る。この角の生えた男と戦ってみるにしても今ではない。戦闘が終わってからだ。
そして、
何度、砲撃を繰り返しただろうか、戦闘が終わる。
『せっかくの新武器だったのに蹂躙は出来なかったな』
150ミリ連装カノン砲という新武器のお披露目としては情けない結果だろう。
『くっ』
セラフが悔しそうに呻いている。これは、多分だが、150ミリ連装カノン砲が弱いのではなく、大蜥蜴が厄介だっただけなのだろう。
厄介なビースト、か。だが、その攻撃がこちらに来ることはなかった。角の生えた男は群れの行動を掌握し、戦場を支配していた。
俺がドラゴンベインの主砲で打ち砕いた大蜥蜴はぐちゃぐちゃになっていた。それに対して、この角の生えた男が斬り落とした大蜥蜴は綺麗なものだ。これが、もし、賭けで、競い合うものだったら、勝負だったら――俺の負けだっただろう。
『狩りの腕はあいつの方が上みたいだな』
『あらあら。らしくなく落ち込んでいるのかしら』
俺はため息を吐き、首を横に振る。
「この大蜥蜴、かなり強いビーストのようだが……群れるのは良くあることなのか?」
血を払い、刀を鞘に収めた男がドラゴンベインへと振り返る。
「無い」
それだけ言うと角の生えた男はグラスホッパー号の方へと走っていった。幼子が気になるのだろう。
にしても、無い、か。
『ふふん。どうやらおかしなことが起きているようね』
『ああ。セラフ、情報は?』
『無い』
セラフは角の生えた男を真似するようにその一言だけ返してくる。
……。
『キノクニヤで何か情報を手に入れた方が良いか』
『ふふん、そうね』
何か異常が起きているのか。キノクニヤのオフィスで聞けばすぐに分かるだろう。
その後も走り続け、そして、日が落ちる。
……ん?
暗闇に包まれた砂漠のはずが、光が見える。俺たちが進む先にキラキラと輝くネオンの光が見えていた。
『あれがキノクニヤか』
『ええ、そうね』
暗闇が追いやられているように見えるほどの光。キノクニヤは光輝く町だった。
廃墟のようなボロボロの建物。だが、それにはいくつもの看板と提灯が取り付けられ、光を放っていた。
『眠らない町という感じだな』




