293 最弱の男28――「何処に向かうべきか」
本年もよろしくお願いします。
ん?
今……いや、気のせいか。
俺は周囲を見回し、警戒しながら建物の中に入る。
……。
建物のエントランス――そこには来客の受付用と思われるカウンターだけが朽ちてボロボロになった状態で残っていた。周囲に人の気配は無い。
シンたちはかなり奥まで進んでいるのだろう。
『しまったな』
『あらあら、どうしたのかしら』
俺はセラフの言葉に肩を竦める。
「急に肩を竦めてどうしたんだい?」
「いや、武器を何も持ってこなかったと思ってな」
ミカドにはセラフの声が聞こえていない。俺が突然、肩を竦めたようにしか見えないだろう。
『あらあら。ハイドラがあって、私がサポートするのにまだ足りないと言うのかしら』
セラフに言われるがままについついクルマの武装を優先してしまったが、クルマから降りた時のことも考えるべきだった。
まさかクルマから降りて探索することになるとは思わなかった。
「ガム、これで良ければ使ってくれ」
「すまない。助かる」
俺はミカドからナイフを受け取る。
『ふふん。分かればいいのよ』
俺はセラフの言葉を聞き流し、ミカドから受け取ったナイフを構え、警戒しながら進む。
静かだ。
シンたちがこの建物の中に居るとは思えないほど静かだ。散らばっているガラスや瓦礫を俺が踏みしめた音だけが響いている。
……静かすぎる。
どういうことだ?
シンたちがこの島に着いたのは何時だ? 奴と別れたのは、あの水門を破壊した時だ。何日も前ということは無いはずだ。ウォーミに寄ってファイブスターを倒し、それからオーキベースへと向かった――それでも、奴と俺、どんなに差が付いても半日という程度だろう。この建物がいくら大きいと言っても探索に半日もかかるだろうか?
何があった?
……。
俺は首を横に振る。考えても分からないことで悩むのは時間の無駄だろう。進むしか無い。
何が起こるか分からない。俺は周囲への警戒を怠らず、慎重に進む。
エントランスを抜けると上への階段のある三叉路に出た。
「何処に向かうべきか」
俺は独り言のように呟く。
『ふふん。任せなさい。この建物、障害によって全ては見通せないけど、こういうのは大抵高いところが正解に決まってるから。上に行くのが正解でしょ』
「これは上だろうね」
セラフとミカド、二人ともが上を選ぶか。ここで変に反発する必要も無いだろう。間違っていたとしても問題は無い。全て探索すればいい。上なら上から順番に見てまわればいいだけだ。
「分かった」
一部が崩れ、落ちそうになっている不安定な階段を上がる。
二階に上がってすぐも三叉路になっていた。多分、一階と同じような造りの階層なのだろう。そのまま一気に五階まで上がる。外から見た感じ、ここが最上階だ。
ここも同じように三叉路になっている。
多分だが、この建物はあまり複雑な造りになっていないのでは無いだろうか。元々がなんの建物だったのかは分からないが、ここで働いていた人? 生活していた人たちが居たはずだ。人が活動するのに不便な建物をわざわざ造るだろうか?
あえて迷路として造ったのでも無ければ……。
俺は三叉路の――三つの通路の先を見て大きくため息を吐く。
「なるほど」
「ガム、これは困ったね」
五階の三叉路――どの通路も、その途中で崩れ落ちていた。通路の崩れ落ちている部分は一メートルほどだ。飛び越えようと思えば、簡単に飛び越えられる距離だ。だが、ご丁寧にも崩れ落ちた先に有刺鉄線を巻いたバリケードが作られていた。
有刺鉄線に突っ込んでも構わないなら、飛び越えることも出来るだろう。
「他の道を探した方が良さそうだね」
「ああ。無理してここを通る必要は無い。無理をするのは他の道を探してからだ」
俺は来た道を引き返し、階段を降りる。
ここに何者かが居るのは間違いない。この有刺鉄線は昨日今日作られたものではないだろう。だが、最初からあったものでは無いはずだ。誰かが、ここを迷路に造り替えている。
造り替える?
このオーキベース自体が俺たちをおびき寄せるための罠だったのかもしれない。
……。
だが、俺たちをおびき寄せる意味はなんだ? 高ランクのクロウズを仕留めるためか? そのためにマザーノルンの管理する施設を占拠し、オフィスに攻撃を仕掛けるだろうか? そこまでするだろうか?
……俺の考えすぎか。
四階に戻る。
四階の三叉路だ。
そのうちの一つを進む。
「危ない!」
俺はミカドの声に反応し、すぐに後ろへと飛び退く。
先ほどまで俺が歩いていた通路が崩落する。
俺は危機一髪で崩落に巻き込まれずに済んだようだ。
「助かった」
俺はミカドに礼を言う。
「気にしないでくれよ」
『あらあら。助かったなんて随分と弱気なこと』
こちらを馬鹿にするように笑っているセラフは無視する。
俺は崩れた通路を見る。よく見ると壁にまでヒビが入っている。この部分を誰かが通ると崩れるように細工されていたのだろうか。いや、それとも単なる偶然か?
三叉路の合流地点である階段まで戻ると、もう一方の通路も崩落していた。先ほどの衝撃で崩れたのかもしれない。
三叉路が一本道になってしまったようだ。
まるでこの道を進めと言われているようだが、それは俺の考えすぎだろうか。
俺は警戒しながら残った通路を進む。先ほどの崩落で大きな音と衝撃が起こったはずだが、何処にも何も反応がない。
人も――マシーンやビーストも居ないのか?
シンたちは本当にこの建物の中に居るのか?
奴のクルマがあったことで、ここに居ると思い込んでしまったが、もし、それが間違いだったら?
静かすぎる。
俺の足音しか聞こえない。
俺は首を横に振る。
……。
……迷っている場合か。
俺は探索するしか選択肢が無い。ここが罠だったならば、食い破れば良いだけだ。
ここに敵の首謀者が居ないのなら、居ないという情報が得られる。次の建物へ探索に向かえば良いだけだ。
進もう。




