254 神のせんたく39――『最後だな』
バランスを崩したヤマタウォーカーを狙い、ドラゴンベインから次々と砲撃が放たれる。巻き起こる爆発の余波が俺の皮膚を焼く。俺の全身を覆っている毛が炙られ、チリチリになっている。
『少しは加減してくれ。こいつのレーザーに焼かれ、ドラゴンベインの砲撃にも焼かれ、俺を焼き豚にでもするつもりか』
『あらあら、お前は豚だったの』
セラフのこちらを馬鹿にしたような声が頭の中に響く。
『ああ、そうさ。こんがり焼かれて大変さ』
『はいはい。今のその状態のお前なら、すぐに再生するでしょ』
確かに人狼化している今なら少しの怪我くらいなら再生するだろう。現に先ほど火傷を負ったはずの場所からは、すでに新しい毛が生えている。凄まじい再生力だ。だが、この再生力を過信して頼る訳にもいかない。再生すれば再生するだけ、人狼化していられる時間が減ってしまうようだからだ。今、ここで俺の人狼化が解けてしまえば、待っているのは確実な死だ。
俺はヤマタウォーカーの尻尾を掴み、体勢を崩させる。
と、その俺の横を砲弾が抜ける。抜けた砲弾は俺の近くに着弾し、大きな爆発を起こす。俺はとっさに右腕で顔を守る。爆発が地面を抉り土砂をまき散らす。その土砂の中に偶々、金属片が混ざっていたようだ。そして、それが偶々、俺の腕に刺さる。肉が抉られるような鋭い痛みに顔が歪む。
運が悪い。
『おい』
『ふふん。仕方ないでしょ。縦横無尽に動き回っている首に当てているんだから。私だから! 命中率を90パーセントまで上げられているんだから。ここは私の能力に驚いて褒める場面でしょ』
セラフに言い訳しているような雰囲気はない。本気でそう思っているのだろう。思わずため息が出そうになる。
『そうか』
90パーセント。それはつまり十回に一回は外れるということだ。あまり良いとは言えない。
……。
『ふふん。不満かしら。でも、お前ならそれでもなんとか出来るでしょ』
セラフの笑い声が俺の頭の中に響く。
『……そうだな』
セラフのある意味、俺を信頼しているかのような言葉。
俺はドラゴンベインの動きを見る。どうやら回避優先で動いているようだ。砲撃が命中するよりも損傷を抑える動き。そんな状態でもセラフは、九割以上、攻撃を命中させている。俺がやっていたように足を止めて打ち合いをすれば百発百中も可能なのだろう。だが、それでは駄目だ。セラフも俺と同じように次を見越している。
なるほどな。
ここは俺が上手く立ち回るべきなのだろう。
「うおぉぉぉぉぉ」
俺は吼える。
狼の咆哮。
尾を持ち、ヤマタウォーカーの動きを邪魔する。戦場全体を見回し、ヤマタウォーカーを盾にして砲撃の余波から身を守る。
見ろ。
動け。
考えろ。
戦場を支配しろ。
俺は湧き上がる力に飲まれないよう歯を食いしばる。ここで俺が意識を手放し暴走したら負ける。
セラフと連携し、戦う。
そして、ついにヤマタウォーカーの頭が残り一つとなる。
『最後だな』
『あらあら、もう油断しているの』
『油断? 確認だ』
ドラゴンベインが砲撃を放つ。
ヤマタウォーカーの最後の頭が吹き飛び、宙を舞う。
『……不味いわね』
と同時にセラフの言葉が俺の頭の中に響く。
『どうし……』
俺は言葉を止める。セラフに確認するよりも先に俺は事態を把握する。
ドラゴンベインがヤマタウォーカーの本体を打ち砕くために砲撃を放つ。そして、その一撃が――ヤマタウォーカーのシールドによって弾かれていた。今までとは違う防がれ方だ。
『どういうことだ?』
『転がっている頭の分のパンドラを全て、最後に残った本体を守るために使っているようね』
全力で守りを固めている?
そして、ヤマタウォーカーの体が輝き始める。何かの力を蓄えているかのような、そんな輝きだ。
『転がっている頭はパンドラ切れじゃないのか?』
だから、シールドがなくなった。だから、攻撃が通った。そのパンドラ切れの頭が本体のためにシールドを張る? どういうことだ?
『暴走させてるの。パンドラ切れ――全てのエネルギーが消費されたように見えても、そのパンドラの中には再起動用に少しだけ余力が残っているのよ。それを使っている』
余力? コックローチとの戦いで使った、パンドラを全て使い切るトールハンマーですら、日数をかければ再起動した。その余力すらなくなる?
俺はセラフの言葉に転がっている八つの頭を見る。
後でパンドラを回収するためにあえて頭を残している。破壊していない。だが、それが裏目に出てしまったようだ。今から破壊するか? だが、それだとなんのためにここまで来たか分からなくなる。
『その余力がなくなったらどうなる?』
『パンドラだったガラクタの完成ね』
どちらにしてもパンドラの回収は出来なくなってしまう。
そして、先ほどから輝き何か力を溜めている本体――嫌な予感しかしない。
パンドラの最後の力を使い、身を守り、何か力を蓄えている。
今から転がっている頭を叩き潰して回る時間は無いだろう。
本体を倒すにしてもシールドに阻まれ、ヤマタウォーカーがやろうとしている何かよりも早く倒すことが出来るとは思えない。
……。
シールド。本体を包み込み、あらゆる攻撃を防ぐ鎧だ。
だが、そのシールドの内側に入ってしまえば、攻撃は通るはずだ。
俺がやるしかない。
ヤマタウォーカーの尻尾から胴体へと駆け上がり、そこから核を目指し、走る。最後に残った、本体にある核を叩き潰せば終わるはずだ。俺の右目にはヤマタウォーカーの核が本体の何処にあるのか表示されている。
胴体から伸びた首の付け根部分。そこに鱗が逆さになったような突起物が隠されている。ここがこのヤマタウォーカーの核。
長く伸びた鋭い爪で斬り付ける。だが、その爪が核に弾かれ、折れる。
獣の力を使い全力で殴る。
……。
俺の拳の方が砕ける。骨が拳から突き出し、砕け、血が吹き出る。硬すぎる。
左の機械の腕九頭竜で殴る。
……右腕のように俺の拳が砕けることはなかった。だが、その一撃の衝撃によって、俺の左肩が外れる。人狼の力でも耐えきれない。もろに衝撃が俺の方へと返ってきた感じだ。
硬すぎる!
どうする?
どうすれば?
ヤマタウォーカーの本体は輝きを増している。残された時間は少ないかもしれない。
どうやって、この核を破壊する?
どうやれば、この核を破壊出来る?
と、そこで俺は思い出す。
悪魔城。短すぎない? アップデート前提にしてもノーマルの最後までは実装すべきだと思うの。




