242 神のせんたく27――『なるほど。そういうことにしたのか』
ボールが再び飛んでくる。
どうする?
ウズメを抱えて走るべきだろうか? いや、光の球を抱えた状態では難しいだろう。それならどうする? ウズメを肩車でもするか? それともウズメをゴールまで投げるか?
……。
こんなボールが飛び交う状況になってから、吊り橋の上で悠長に肩車なんて出来ないだろう。
ウズメをゴールまで投げるなんてことも現実的ではないだろう。片手が塞がった状態で? 数十キロの重さの少女を投げる? それに光の球を持っているのは俺だ。俺がゴールしなくてどうする。機械の腕九頭竜の力を使えば可能かもしれないが……。
俺は浮遊しているカメラを見る。この状況で機械の腕を使うのは不味いだろう。
どうする?
飛び交うボールは行く手を塞いでいるが、何故か俺たちに当たらないように飛んでいる。これもこのお祭りを盛り上げるための演出だろうか。
「ガムさん」
ウズメが俺を見る。俺の目を見ている。
「いけるのか」
「いっきにはしります」
「分かった。合図をしたら俺のことは気にせず、駆け抜けてくれ」
ウズメが頷く。
俺は目の前を飛び交うボールを見る。真っ白なボール――観客が見て楽しめるようにかボールは月明かりでも分かるほど白い。その飛んでくる速度も目で追える程度だ。問題は飛んでくる数と足場か。
……問題?
『ふふん。今ならいけるでしょ』
「ウズメ、今だ」
俺の言葉を受け、ウズメが一気に飛び出す。揺れる吊り橋の上を走る。その振動に吊り橋が大きく揺れる。
俺はかかとをあげ、つま先で立つ。猫のように歩き、その揺れを体から受け流す。
歩く。
飛んでくるボールを、上体を捻り、時に身を屈め、飛び跳ね、躱し、吊り橋の上を歩く。多少、足場は悪いが、飛び交うボールは目に見える程度の速度でしかない。月明かりしかないが、夜の闇の中でも真っ白なボールはよく見えている。俺なら問題ない。
『多少? ふふん』
セラフの呆れたような声が頭の中に響く。
『何が言いたい』
『別に何も』
何か言いたそうなセラフの言葉を無視して俺は歩く。
「ガムさん」
ウズメが吊り橋を駆け抜けゴールする。何故かボールがこちらに集中して飛んできていたというのもあるが、それでもなかなか良い運動神経だ。
『ふふん。お前が光の球を持っているから目立ったんでしょ』
『なるほど。そういうことにしたのか』
『ええ、そういうことになっているから』
飛び交うボールの間を抜ける。
ウズメに続き、俺もゴールする。
『これで第五の関門も突破か。これで得点は……』
『ふふん。50点でしょ』
今のところ、減点されることなく満点で突破出来ている。後、三つか。
「ウズメ、行こう」
「はい」
俺はウズメを抱える。この関門で先頭に躍り出ることは出来た。だが油断は出来ない。ここからも急いで攻略してしまおう。
山道を駆け抜ける。
そして、すぐに次の関門が見えてくる。
「まっていました」
そこでも烏帽子の女が待っていた。
「ここは?」
俺は抱えていたウズメを降ろす。
「第六のかんもんです」
俺たちの目の前に城壁のような壁が立ち塞がっている。そして、その壁には白い四枚の板? がはめ込まれていた。
「ここではこうほしゃの運を見ます。四つのかべのうち、正解は三つです」
「壁? あの白い板のことか?」
烏帽子の女が頷く。
「あの白いかべは、正解なら簡単に破り抜けることができます。その向こうにはさらに四つのかべがあります。次は正解が二つです。その次も同じですが、正解は一つになります」
「三回、抜けろと」
「はい。三つ抜ければ十点、二つなら五点、一つなら一点、どれも抜けなければ0点です」
俺は白い板を見る。その大きさは人がちょうど通り抜けられそうなものだ。
「それで、ここは、再挑戦は出来ないのか」
「はい。どのような結果でも次のかんもんへと進めます」
「なるほどな」
「一つだけおねがいがあります。白いかべは勢いよく体当たりで破り抜けてください」
俺たちを撮影していたカメラがふわりと高い場所へと上がっていく。この壁を抜ける様子を視聴者たちに俯瞰で見せようとしているのかもしれない。
「分かった。では……」
走り出そうとした俺を烏帽子の女が慌てて止める。
「おまちください。このかんもんにいどむのはこうほしゃだけです。もりびとはここでおまちください」
烏帽子の女の言葉は慌てている割りに随分とカタコトでスロウリィだ。
『ふふん。慌てているからでしょ。処理能力の限界ね』
『そうか、大丈夫なのか』
『大丈夫でしょ』
にしても、挑むのは生け贄候補者だけ、か。
「わ、わかりました」
ウズメがぐっと強く手を握りしめる。
このまま運を天に任せ、飛び出しそうだ。
「ウズメ」
「はい、ガムさん」
飛び出そうとしていたウズメが俺を見る。
「左から二番目、次が一番左、そして最後が一番右だ」
「え?」
俺はウズメに正解を教える。
「わかりました」
ウズメが頷く。
俺の右目には正解が映し出されている。
『ふふん。感謝しなさい』
ここの端末を支配したセラフなら正解の情報を得るのは簡単なことだろう。
『感謝するが、このセレクションに参加しようと言いだしたのはお前だろう?』
『あらあら! それでも参加を決めたのはお前でしょ』
俺は肩を竦める。
『感謝しているさ』




