223 神のせんたく08――『セラフ、お前、もっと簡潔に説明出来ただろう?』
「わたしはいそがしいのです。てを離してほしいのです」
「ああ」
俺は眼鏡の巫女さんを掴んでいた手を離す。
『セラフ、それでどういうことだ?』
『ふふん。何のことかしら』
セラフがはぐらかすように笑う。
『セラフ』
『あらあら、せっかちね』
眼鏡の巫女は何をしているのか良く分からないが、忙しそうにあっちへ行ったりこっちに来たりしている。
『セラフ、説明してくれ。情報を手に入れたんだろう? 何故、ここにオフィスのマスターが一人で居る? このマスターは何をしている? このマスターが言っていたせれくしょんとはなんだ?』
『ふふん。長くなっても構わないなら教えるけど?』
『構わない』
多少、話が長くなろうが、情報は重要だ。
まずは知ることから。知って初めて、今の状況を把握することが出来るだろう。そして、その対処法も分かるはずだ。
『ふふん。まずはここにこいつがポツンと居た理由からね。単純に手が空いていなかったからでしょ。他の人形は全て頂上のイベントの準備に回っているから、だからポツンと居たってワケ。ふふん、別に特別な理由ではなかったようね。次に、こいつが忙しそうにしている理由だけど……単純に忙しいから。ふふん、別にはぐらかそうとしている訳じゃないから。本当に言葉通りなの。こいつは、今、とても忙しいのよ。忙しい理由はせれくしょんの準備のためね。久しぶりのせれくしょんで準備とヤマタウォーカーの起動に手間取っていたようね。こいつが所持していた領域は小さすぎて、作業効率が悪くなっていたようね。どこを改善すれば良いか分からないくらい困っていたはずよ。お前の格好だけを見て、せれくしょんの参加者だと誤解していたくらいだもの。余裕がないというのは悲しいことね。今は私がここを支配して、こいつに領域を一部解放したから、作業効率が良くなって、ホッとしているんじゃないかしら。急に作業効率が良くなったことに戸惑ってはいるみたいだけどね。そうそう、それで、せれくしょんのことね。それが聞きたいんでしょ。せれくしょん――selection、選択とか選抜とか、もっと分かり易く言うと淘汰かしら。それが何を意味しているのか分かる? つまり儀式、ぎ・し・き。この街の住人の中から生け贄の巫女候補を選び、その候補者たちを競わせ、生け贄を決める儀式がせれくしょん。ふふん、お前の考えていることは分かるけど、その逆だから。この儀式で勝ち抜いたものの方が生け贄に選ばれるの。そう、生け贄に選ばれることを名誉だと思うように思想が誘導されている街なの、ここは。面白いでしょう? そのことに気付かないんだから、なんて愉快な街かしら。ふふん、その生け贄候補――今回の生け贄候補は全部で四人みたいね。そして、その生け贄候補たちには必ず護衛がつくようになっているの。お前が今着ている服は、その護衛が着る服とそっくりだから、だから山頂に行けって言ったのよ、こいつは。お前が護衛の一人だと誤解したんでしょうね。そして、今、山頂でそのせれくしょんが行われようとしているの。街の住人の姿が見えない理由もそれね。街を挙げての一大イベントってことよ。分かるでしょ。そうそう、生け贄ってなんの生け贄か言ってなかったわね。ヤマタウォーカーという名前の機械よ。それに捧げる生け贄のことだから。ヤマタウォーカー、そこのそいつが操る機械のこと。街の住人は当たり前だけど、そのことを知らないから。街の住人はヤマタウォーカーに生け贄を捧げると御山が鎮まり、自然が甦ると信じているみたいね。ここに来る途中で田んぼを見たでしょ。あれは生け贄を捧げたことで自然が復興したから、田んぼが作れるようになったということになってるの。もちろん、そんなことないから。単純にここの端末が調整して、生け贄の儀式が終わったら、田んぼの区画を増やしているだけ。自然調整をしているだけだから。使命感を与えて、生け贄の儀式を名誉あるものだと思わせているのね。ふふん。そうそう、このせれくしょんに何の意味があるか知りたい? 知りたいでしょ? ふふん、教えてあげるけど、意味なんてないから。生け贄になること自体には意味が無いの。しいて言えば人を支配するための実験? サンプルとしての意味はあるかもしれないけどね。でも、その程度だから。ここで得られたデータがマザーノルンに送られ、人を支配するのに活用されている。支配? そうね、支配されていると分からないように支配する方法の確立のためのサンプル。それだけの価値しかない場所よ、ここは。それだって、マザーノルンからしてみれば、そこまで重要な実験ではないから。なくなっても困らない場所。そんな意味の無い実験が繰り返されている場所。どう、分かったかしら? それでお前はどうするつもり? 私としてはお前がしれっとせれくしょんに参加して、パンドラが使われているヤマタウォーカーを奪取したらなかなか面白いと思っているのだけど、どうかしら?』
『セラフ、お前、もっと簡潔に説明出来ただろう?』
セラフの嫌がらせに思わずため息が出そうになる。人工知能のこいつなら、要点をまとめるのは得意なはずだ。
『ふふん。最初に長くなるって言ったでしょ』
『ああ、そうだったな』
俺は肩を竦める。
要は、今、まさに、オフィスが裏で手を引く無意味な生け贄の儀式が行われようとしているってことだろう。
『ふふん、それでお前はどうするのかしら』
『参加してみるさ』
これも何かの縁だろう。




