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キチガイ婚約者を持った俺は、辺境の地に逃げる

アイザック・ルクス(第一王子)視点

俺の婚約者ヘイデン・ゲパルト公爵令嬢は、俺のことを常に見下しまくっている。

ヘイデン嬢の方が、俺よりも優秀なのは事実だ。

だからといって、自分より劣る者を見下していいはずがない。

ヘイデン嬢は、俺の周囲をうまく騙している。

人前では常に俺を立て次期王妃として理想的な振る舞いをし、俺といてる時だけは俺のことを蔑むことを隠さない。


ここルクス王国では、筆頭公爵家ゲパルト家の女子を王妃とすることが決まっている。

俺が王太子なのは、ヘイデン嬢と婚約しているからだ。

俺は、幼い頃より父と母に憧れている。

あのように、国を守るために互いを信頼し合い支え合う同士のような関係だ。

ヘイデン嬢とは絶対に無理だな。


婚約者のヘイデン嬢のことを説明しよう。

美しく優秀と言えば聞こえがいいのだが、とにかく一言でいえば『関わりたくない人種』というやつである。

本能が拒否する。

本能が拒否をするのだ。

俺から見れば、王妃教育で得た成果とあの性格でプラスマイナスゼロを突き破って底辺にめり込む勢いだ。


俺は王太子だから、側近になるべく権力のある家から俺の元へその家の子供たちが差し出された。

それなりの年齢になった頃に、『今日から、こいつらが俺の側近になる』というよりも子どものうちから互いに信頼関係を築けという親たちの心遣いだろう。

『ヘイデン嬢がおかしい』と確信を持ったのは、俺の未来の側近たちを紹介した時だ。

ヘイデン嬢の目の色が変わった。

それからというもの、ヘイデン嬢曰く『攻略対象たちの心の闇』を溶かしていく作業が始まった。

俺の未来の側近たちは、ヘイデン嬢の行為を怖がった。

ランベールなんかは、「ちょっ、あの女を僕に近づけるなよ!」と青い顔して言ったほどだ。

アランベルトとグラハルトの双子の兄弟にいたっては、ヘイデン嬢が近づくだけで半泣きだ。

よほど、怖い思いをしたらしい。

いつも冷静なカレブは、いつもの穏やかで理知的な顔の仮面が剥がれかかって、

「あの女、あの程度のことが私の心の闇だとほざきやかって。バカじゃないですか」と言って、般若も逃げ出すしかないような顔して笑顔でブツブツ文句を言ってた。

正直、怖かった。


「見てなさい、ヒロイン。この私が『ヒロインざまぁ』してやりますわ。すでに攻略対象の心の闇を溶かして、みーんな、私に好意を持っていますもの。残念でした♪ヒロインさん(笑)」

珍妙な足取りで、ヘイデン嬢は俺が見てるとも知らずにこの場を去った。

残念な頭はお前だ。ヘイデン嬢。

何が残念なんだよ。そして、ヒロインって誰のことだよ。

この婚約者のことは俺は昔から分からない。


学園に入学する年齢になった。

今年は、試験的な試みで『庶民の子』が入学するらしい。

王族としてというより、本能がヘイデン嬢から庶民の子を守れと言っている。

このことを、ランベール、アランベルト、グラハルト、カレブに言ってみると自分たちも同じ考えだと言われた。

やっぱり、お前らもそう思うか。


学園に入ってからのヘイデン嬢は、ランベールとカレブになれなれしく触ってくるらしい。

アランベルトとグラハルト兄弟は、ヘイデン嬢から逃げる日々が続いてるとか。

婚約者がいるにもかかわらず、婚約者のいる複数の男たちに言い寄るのはどうだろうな?


庶民の子は、リシ―嬢。

慣れない学園生活に四苦八苦する様子に手を貸すことにした。

あいつらの婚約者にもリシ―嬢の手助けを頼んでおくか。

彼女たちが、リシ―嬢の手助けをすると他のご令嬢方もリシ―嬢を気遣うようになった。

ただ、ヘイデン嬢は我関せずだが。

むしろ、ヘイデン嬢がリシ―嬢にいろいろ嫌がらせをしている。

このことを知った時に俺は何か取り返しがつかないことが起こりそうな予感がして、王家の影をヘイデン嬢につけることにした。

そして、俺たちは王家の影からの報告に死んだ目になった。

きっと、王家の影たちも死んだ目になって精神を荒削りしながら任務を遂行したのだろう。


ヘイデン嬢の行動を知るごとに、心が抉れていくような感覚に陥っている時に嬉しい知らせがあった。

父上の側室の子が、俺の弟が正式に王位継承権を認められたのだ。

これで、俺の目的が達成できる確率が上がった。

ヘイデン嬢の奇行を知ったときに思いついた計画だ。

弟は可愛いのだが、ちょっと困った性格をしている。

弟の方が優秀なのに、俺の方が優秀だと思い込んでいるのだ。

慕ってくれるのは嬉しいのだが、そろそろ俺より自分の方が優秀だと気付いて欲しい。


ヘイデン嬢の奇行に心が疲れる俺に、リシ―嬢をはじめとしたクラスメイトたちが俺を助けてくれるようになった。

リシ―嬢はヘイデン嬢にいじめられ、自分の方が辛いだろうに。

なんとも情けない。

そんな日が続いて、学園の長期休暇に入る前、ヘイデン嬢が問題を起こした。

王家の影たちは、数日前からヘイデン嬢の問題行動を予測して報告をするため城に走っている。

「リシ―様。あなたは私に数々の嫌がらせをしました。その責任をとって、今すぐこの学園をお辞めなさい!」

ちょうど学園に到着したゲパルト公爵夫妻は、ヘイデン嬢のリシ―嬢を断罪する姿に顔面蒼白。

やってもいない罪で裁こうとしているのだからそうなるわな。

制服を切り刻まれたとか、教科書を池の中に落とされたとか、俺に馴れ馴れしくしてるとか。

リシ―嬢はその性格から、クラスメイトたちと仲いいぞ。

ヘイデン嬢の金切り声にイライラした俺やクラスメイトたちは、すべて反論できないくらいの正論とリシ―嬢のアリバイをヘイデン嬢に叩きつけた。

あっ、ゲパルト公爵夫人が倒れた。

顔面蒼白なゲパルト公爵も倒れそうだ。

ゲパルト公爵夫妻を気遣った父は、ヘイデン嬢を断罪しこの場をすぐに解散させた。


こちら側にとって、都合の悪いことを隠すべく王城のとある一室でヘイデン嬢とその他が集められた。

自分を『その他』扱いもどうかと思うが、ヘイデン嬢にとって俺は絶対に『その他』扱いだ。

さあ、ここから俺の番だ。

国のために、俺は王太子を辞退しよう。

次期国王確実と言われる俺が辞退しなければならない理由は、『ヘイデン嬢と結婚する者だけが次期国王』という呪いのため。

ヘイデン嬢が公の場で王妃として活動するなら、絶対に困った事態になる。

それを回避するのが、俺が王太子を辞退し弟が王太子になることだ。

弟は可愛いのだが、少々と言うかかなり歪んだ思考をしている。

ランベールの婚約者から見れば、ヘイデン嬢に惚れていて監禁願望があるように見えるらしい。

ヘイデン嬢限定で、監禁願望か。

これはいいこと聞いた。

次期国王は、君だ。我が弟!

頑張って、ヘイデン嬢を監禁してくれたまえ。

お兄ちゃんは、応援しているぞ。

そんな想いを胸に、俺は父である国王陛下に俺の王位継承権を剥奪するように迫った。

「アイザック、考え直さないか?」

「申し訳ありませんが、国王陛下。ヘイデン・ゲパルト公爵令嬢の犯した数々の罪を考えると私には荷が重すぎます。

ここは、ヘイデン・ゲパルト公爵令嬢を押さえ込むことが可能な弟ブラックが王太子になるべきです。

私には、婚約者がいるような高位の男性たちに次々と色目を使うふしだらな女性の手綱を握る技量はございません」

「なら、ヘイデン・ゲパルト公爵令嬢を」

「それはなりません。国王陛下。王家とは国民に尽くす者。国民を危険に晒すような真似はいけません」

「うむ。そうか...」

「ですので、私は彼の地。エッグリモーネに赴任したいと」

「あの、海沿いの地か」

「はい。あの地は、重要と思われていないのか過疎化が進んでいます。いずれ、あの地は重要な地となるでしょう」

俺は、口八丁手八丁で父を説得しにかかった。かなり必死になって。

いやだって、ランベール、アランベルト、グラハルト、カレブの無言の圧力を感じるからだ。

俺たちは、『ヘイデン・ゲパルト公爵令嬢(キチガイ女)から逃げる会の会員』だしな。


「アイザック、王位継承権と王籍を剥奪する。そして、エッグリモーネへの赴任を命ずる。

ブラック、ヘイデン・ゲパルト公爵令嬢の新たな婚約者になることを命ずる」

国王陛下は、悲痛な表情をして言った。

「兄上...」

「気にするな、ブラック。不甲斐ない俺のせいで、お前には迷惑をかける」

「迷惑だとは...」

「そこで、お兄ちゃんからのプレゼントだ」

俺はそう言って、隣国である魔術大国に特注した犬の首輪(もちろん、リード付き)をブラックに手渡した。

ブラックは俺の意図をくんで、その犬の首輪をヘイデン嬢の首にあっという間に付けた。

「ありがとうございます。兄上。とても素敵なプレゼントです」

弟は、ものすごく満足げな笑顔を浮かべてそう言った。

お兄ちゃんは、そんな弟の輝くような笑顔にドン引きだ。

そうして、弟はヘイデン嬢を監禁すべくこの場を後にしようとしたのだが、ヘイデン嬢が抵抗した。

「うそよ。うそよ。うそよ。こんな展開、乙女ゲームではなかったわよ。なんで、アイザックが王位継承権を剥奪されるのよ。彼は、王族じゃないといけないの! 逆ハーレムルートに入ったはずなのに...ここで、隠しキャラが出て本当の逆ハーになるはずじゃない!」

ヘイデン嬢が訳の分からないことを叫びだした。

そもそも、俺が王位継承権の剥奪を国王陛下に迫ったのはお前が原因なんだからな。

俺がお前の婚約者である限り、お前は男たちを侍らす夢を見続けて現実にしても良いと思っているんだろう。

俺の良心のために、被害者を増やすわけないだろう。

キチガイじみたことを叫び続けるヘイデン嬢を無視して、ブラックはヘイデン嬢をお姫様抱っこしてこの場を後にした。


俺たちは、エッグリモーネへ向かう。

俺と一緒に行くのは、ランベール、アランベルト、グラハルト、カレブ、家を継がないクラスメイトたち、ヘイデン嬢の被害に遭った商人たちや農民たち。そして、隣国の第三王女とその婚約者。

数年後には、エッグリモーネは一大都市へとなった。

みんなで力を合わせて頑張った結果だ。

そして、ヘイデン嬢はというと公式行事以外は公の場に出ないで安全安心にブラックに監禁されている。

今度、ブラックには商人と隣国の第三王女と力を込めて一生懸命開発したヘイデン嬢対策のお薬を送ってやるからな。

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