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A:「色々試してみたけど、結局丸く収まったんだから結果オーライだよね?」「そういう考えはでっかい良くないと思うんですが」←ツッコミ

 あの怒涛の1年も過ぎ去ってしまえばあっという間で、春休みになった今、私達はさーりゃん先輩達の進学した、空条先輩達も通う大学に遊びに来ていました。

 ……大学見学という名目で。

 まあ、ある意味間違ってませんが、私にとっては後1年も先の話ですし。

 日当たりの良いカフェテリアで、いつかの様に談笑する皆さんに、周囲の人達は興味津々の様です。

 ……正直視線がでっかい気になるのですが……。

 前世的な意味で元一般人仲間の筈のさーりゃん先輩は、この状態について何とも思わないのでしょうか……?そっと窺えば、隣ででっかい静かーにお茶を飲んでらっしゃいますけど。

 それとも慣れちゃったとかですか?……慣れ、ですか……。そう、ですか……。


 私の隣では、付き合い始めたばかりの彼氏……って認めるの、でっかいなんかヤなんですけど、彼氏の“ゆーくん”先輩が、にこにこしながらお菓子を頬張っていました。

 ……冬休み明けの学園で、付き合う事になったのがそんなに嬉しかったのか妙にテンションの高いゆーくん先輩に、何かそれっぽいからって理由だけで「あだ名呼びしようよー」ってしつこく付きまとわれて、半ギレぎみに「愉快犯先輩って呼びますよ」って言ったらその場で泣き崩れられたのは、でっかい良い思い出なんかじゃないです。

 もちろんでっかい大げさな演技だったりする訳ですが、周囲には当然人がいるんですよね。

 ……羞恥心に負けました。“アレ”はないです。……ないです。

 告白してくれたあの日、私の事考えてくれるって言ってくれてたの、あれってでっかい釣り針だったんじゃ……と最近では思う事もあります。でっかいヒドイ話です。


 思い出してでっかい溜息が出そうになって、気を落ち着ける為に視線を上げると、目の前には王者こと空条先輩と、のんびりやんわりお菓子を勧めて来る(どうしてでしょうか、拒否権がでっかい無い気がするのは)観月先輩に挟まれた状態の“友ちゃん”先輩がにっこりと笑っていて、その姿はまるで、天使の微笑みか聖母の慈愛の表情みたいでした。

 ああ、でっかい癒されますねえ。

 ゆーくん先輩と呼ぶ事になった後、それを知った友ちゃん先輩に「東雲くんだけなんてずるーい!櫻ちゃんだって“さーりゃん先輩”って呼ばれてるし、わたしもなにか別の名前で呼ばれたいなあ。もうすぐ1年経つのに、いまだに友美先輩っていうの、ちょっと距離感じちゃうかも。それって“でっかい”寂しいなあ」って言われたので、遠慮無くあだ名呼びに変更させてもらっちゃいました。

 “友ちゃん先輩”って、ちょっと可愛い呼び方ですよね?

 あ、それと“でっかい”は後輩専用なので。そこのところ、“でっかい”よろしくなのです。


 そんな友ちゃん先輩を抱え込んでいる空条先輩と、今主にしゃべっているのは白樹先輩です。

 話題は東条先輩の今後についてだそうで。

 さっきまでは、ゆーくん先輩と私の話だったんですけどね。

 確かに大学在学中の先輩方には、騒動に巻き込んだ者の義務といいますか、必要だったとは思いますが、正直でっかい恥ずかしい思いをしましたです……。

 でも、改めてゆーくん先輩が将来の事について真剣に考えてるって事が分かっただけでも、良かったのかもしれません。


 あれからゆーくん先輩は、なんと専門学校への入学を決めてしまいました。

 フードスタイリストになる、という当初の目標に向けて。

 その一方で、様々な資格の試験を受ける準備も始めたそうです。……起業する為に。

 なんでも将来的には、色々なスタイリストさんやコーディネーターさん、クリエイターさん達を登録したり、所属して貰ったりする、人材収集と派遣の会社を作りたいな、と考えているそうです。

 その話を最初に聞いた時、予想外というか、予想以上過ぎて……ちょっとだけ惚れ直しちゃったりしたのは、ここだけのでっかい秘密、です。


 そして今話題の東条先輩には、冬休み明けの始業式の日に改めて謝罪を受けました。

 それから以前の様に……という訳にもいきませんが(こちらも状況が変わったので……主に隣に人が張り付く様になったとかで)それでも何かと気にかけて貰っているな、というのは分かりました。

 罪滅ぼしの意識でもあるのか、たまにすごく申し訳無さそうな表情をされる時があります。

 あれだけの事があったのですから仕方ないのかもしれませんが、でも、あまり深く考え込まないでいて欲しいかな、とも思っちゃいます。……勝手ですかね。

 でも東条先輩がいつまでも引きずっていると、こっちもいろいろと思い出したくない事まで思い出してしまいそうで……。

 今度会ったら、あまり気にしないで下さいって伝えてみる事にしましょうか。


 で、今の話を聞く限りでは、私の意見が通ったというよりも、その方が余計な話をしなくて済むから、という打算的な部分が大きい様です。

 最後まで裏方に徹していたせいで学園内での評判がいまだに良いままの東条先輩を罰するのは簡単ですが、そうすると今度は他の生徒に対して説明するのに困るからなのだとか。

 私達の事情についても知っている人間という意味でも貴重なので、このまま卒業まで処分保留という形を取られるのだそうです。

 ただし社会に出た後は、空条の下請けか底辺部署からスタートさせると王様は申しておられました。大企業怖い、です。

 そして、そこから這い上がれるかどうかは、それこそ東条先輩次第なのでしょう。

 複雑な気持ちではありますが、優秀な人だという事は分かってますから、できれば頑張って欲しい気がします。


 余談ですが、その後文字通り叩き上げの現場を経てのし上がった東条先輩は、空条先輩に対して色々な案を出しては喧々諤々の議論の末、結果的に論破され、却下される毎日を送る事になります。東条先輩曰く、半分は演技だそうですが。

 そしてそのせいで空条先輩と対立していると思われ、よからぬ思惑を持つ人達や他企業の魔の手が向こうから寄ってくる事になり……元々策略家の一面があった東条先輩が、嬉々としてそれらを炙り出しにかかるのは、そう遠くない未来のお話なのです。


 空条先輩とさっきからずっとそんな話をしている白樹先輩は、さーりゃん先輩の隣という安定の位置なので、それはまあいいのです。

 ……問題は……護衛目的で空条先輩の隣に座っているはずの椿先輩が、全く真逆を向いて何やらかいがいしく世話を焼いている、というのが今一番のでっかい大問題な気がするのは、そこのとこどうなのでしょうか、ねえ、お世話されてるっぽく見える美々ちゃん。

 ……まあ、始終びくびくしているよりはよっぽど健全だし、微笑ましくも見えますから、問題無いと言えばそうなのでしょうね。

 そういえば、この1年で少しは男性観が変わったかと、余計なお世話ついでに一度聞いてみたのですが、案の定でっかいきょとんとされてしまいました。まだまだ恋愛感情を抱く、というところまでは行って無さそうですね。

 なので、各個人についての感想に切り替えたところ……こんな返事が返って来たのです。

「おねえちゃんは、確かにちょっとオカシイところあるけど、でも大事。真理亜ちゃんは、大好きな友達。たぶん、親友だと思ってる。そう、だよね?……でも、あの人は、ちょっと違う。怖いけど、怖くない。……安心、するの」

 少しだけはにかんだみたいに言った“あの人”というのが誰か、というのはでっかい言わぬが花、というやつですか?

 今こうして、見ようによっては2人でいちゃいちゃしているみたいに見えなくもない様子に、親友としては、このままでっかい上手く行って欲しいな、と思うばかりです。


 で、ですね、こうして皆で押し掛けたのは(主に私にとっての)無事(無事……ぶ、じ……?ええっと……)1年度が過ぎた事のお祝いと、次の年度から観月先輩が日本の大学……つまりここですね。……に戻るという事で、改めてのご挨拶、という事での召集でした。

 むしろわざわざこんな機会を設けて下さって、こちらとしてもある意味ちょうど良い報告の場になった気がします。

 そんな報告会兼お祝いの会状態のお茶会が和やかに進行して行く中、不意に私達のもとに、涼やかで凛とした声がかけられました。

「輝夜」

 訂正、観月先輩にご用だった様です。

 でも、この超見られている状態の中で堂々と呼びかけられるとか、でっかい心臓大きい人なのですね。

 そんな風に思いながら声がした方を向くと、そこには背の高いすらっとしたショートボブのお姉さまが立ってらっしゃいました。

 そう、まさに『お姉さま』です。

「輝夜?」

 怪訝な表情、とでもいうのでしょうか。空条先輩が観月先輩に訊ねると、当のご本人様は、見た事無い様な……そう“ゲームの中でさえ見せなかった”へらっとした表情で、こうのたまってくれたのです。

「あ、ごめんごめん、こちら“僕の(・・)彼女”のレン。羽瀬川煉(はせがわれん)だよ」

「よろしくおねがいします」

 にこっと微笑んだその姿に、一瞬で惹き付けられちゃいました。

 そんなお姉さまは、そつなくご挨拶を終えられた後、観月先輩に向かって「で、これってどんな集まりなの」って聞いてました。……でっかい分からないで話に参加したんですか。でっかい勇者様です。

「いやほらね?みんな話があるって言うから、僕も君の事紹介するのに丁度良いかなって」

 言いながらさりげなく隣の空いている椅子を引き、座る様に促します。でっかい手際良いですね、観月先輩。

「あの、もしかしなくても、その、この大学で……?」

 妙に固まったままになっちゃってる感じのさーりゃん先輩がおずおずと訊ねると、観月先輩は、ぱあっと顔を輝かせてにっこり満面の笑みを浮かべました。

「それがね、出会ったのは留学先で、彼女その時友達と旅行中だったんだよ。なんだかトラブってたみたいで、それを解決してあげたり、お礼にデートに誘われたりしている内に意気投合しちゃってさ。それで話を聞いたらこっちの大学だっていうから、ちょうど区切りも良い事だし、日本での資格の事も考えてこっちに戻って来たんだ」

 微妙にでっかい聞いて無い事まで答えてる気がします、観月先輩。

「そ、そーなんですか……」

 あのさーりゃん先輩が、でっかい動揺してます。

 でも確かにこれは驚くべき事態だと言えるでしょう。ゲームが終わった今になって、まさかのでっかい恋人宣言ですよ!?

 わあ、空条先輩や椿先輩、よかったな、なんてでっかい祝福してる場合じゃありませんって!

 友ちゃん先輩、さっそく仲良くしようとするのは良い事だと思いますが、こっちにいる親友さんと後輩さんの事も思い出して欲しいのです……っ!

「びっくり展開ー。僕も知らなかったとか、意外に輝夜もやるもんだね!」

「この場合、“シナリオ”とかってどうなってるんだ?……って櫻……?おーい?」

 白樹先輩、シナリオなんてなかった、だと思いますよ。

 だから今さーりゃん先輩がこんな状態で意識飛ばしちゃって……

「まーりゃん!!」

「はっ!?はいっ!!」

 急に肩揺さぶられました!?な、何でしょう、でっかい真剣な目つきです!……はっ、まさかこれも何かのフラグ……でしょうか!?

 ごくりと喉を鳴らした私に、さーりゃん先輩は静かな低い声でこう言いました。

「まーりゃん、君、絶対この大学受けなさい。そして絶対に合格する様に。これ、先輩命令だから」

「は、はいっ!!……はい?」

 え?

 話題の変化について行けない私に、さーりゃん先輩はぽつりと「黄薔薇」とだけつぶやきました。

 その一言だけで私は全てを察します。

「“スール”ですね!?」

 スール。妹、姉妹。

 この場合の意味は、いわゆる『個人的に結ばれた』『お姉さま上級生』と『妹分の後輩』の関係、になるのでしょうか。

 ……前世(むかし)呼んだ本の中に、その黄薔薇姉妹の物語があったのですよ。そして黄薔薇姉妹のお姉さまキャラクターのイメージが、レンさんと非常に良く似ているのです。

 先輩は私の肩を掴んだまま、力強く頷きました。

「落第、不合格は許さん!意味は分かってるね!?絶対に一発合格だよ!」

「分かってます!もちろんですよ!そして“グランドスール”“スール”“プティットスール”のそろい踏みやってやりますう!」

 先輩のその言葉に、私は握り拳を作って力強く返事をしました。

 正直この大学は私には敷居が高い場所ですが(偏差値的な意味で)、それでもきっとかつてないほどに、私達“姉妹”の心は一つになっていた事でしょう。

 先輩がいて、さらにその上の『お姉さま』まで出来るというのです。無理だ、無謀だ、無茶だ、なんて泣き事言ってられませんし、言いもしません!

「ちょっとー!?勝手に決めないで欲しいんだけど!真理亜ちゃんは将来僕のところに来るって、もう決まってるんだから!」

 あーあーあー、きーこーえーまーせーん!(∩ ゜д゜)

 それに勝手に決めるな、なら、でっかいこちらのセリフですっ!

「美々、あんたも来なさい!いいね!?」

「おねえちゃ、私、ここの大学狙えるほど頭良くな……」

 何かに気づいたみたいにハッとした後に、さーりゃん先輩はそう美々ちゃんに向かって宣言しますが、美々ちゃんは戸惑った様に首を横に振ろうとして……、

「勉強なら任せろー!!」

 ばりばりと何かを引き裂くジェスチャーをしたさーりゃん先輩に、全力で却下された模様です。

 そしてその横で白樹先輩がでっかい頭抱えていました。諦めて下さい。

「面白い子達だね」

「あはは……」

 くすくすと笑うお姉さまの隣で、同じ様ににこやかな表情を浮かべていた観月先輩のその表情が、どこか引きつっていた様な気がしていたのは、きっと気のせいでしょう。気のせいです。ええきっと。

「レンさんと櫻ちゃんとマリアちゃんが姉妹になるなら、じゃあ美々ちゃんはわたしの妹になる?」

「!!」

 わあ、それでっかいうらやましいかもです。いいなあ美々ちゃん。

「ぬう、美々の奴め……実姉を差し置いて胸ときめかせるだと……!?」

 さーりゃん先輩は私ででっかい我慢して下さい。それに実姉妹は実姉妹で良いじゃないですか。

 ああでもこれで私達の世界がさらに広がると思うと、素敵過ぎて何だかうっとりしちゃいますね。

 

「……お前ら、あんな連中が相手で本当に良いのか?」

 空条先輩がげんなりした様な声音でゆーくん先輩や白樹先輩に向けて落としたそのセリフに、すかさずさーりゃん先輩が突っ込みました。

「納豆とチーズ同列に語る人に言われたくないです」

 ……それ今、でっかい関係あるんですか?








これにて終幕です。

ここまでお読み頂いて、ありがとうございました!





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