閑話その4:心底どうでもいい話
状況の詳細は特に秘す。
「すんませんっした」(DOGEZA)
「………………」(何故か顔が真っ赤で涙目の状況)
「あの、ホントこの通りなんで」
「………………」(半泣き怒りモード)
「……ダメ?」(上目づかい)
「……かわいくないし」(友美以外は認めん)
「悪かったな」(あっ)
「…………」(顔を赤くしたまま涙目で睨んでいる)
「…………う、いやあの……反省してますんで」(おたおた)
「…………はあ」(溜息)
「う」
「…………(指折り数えて)4ケ月?大事にするとか言っておきながら、半年保ってないとかどういう事なの」(ちくちく)
「……ホント、すんません」(返す言葉がない)
「……いいけど」
「マジ!?」
「早っ!?HANSEIしろ」
「すんませんっした」(再び頭を下げる)
「…………」
「なあ、いい加減機嫌直してよ」
「……」(ぷいっ)
「……ヤじゃなかっ」(ばすん、と何か柔らかい物が勢い良くぶつかる音)
「死なす」
「いやホント、ゴメンって!!」
「……もういいもん」
「は?」
「……もういいもん。現実なんてこんなもんだって、分かってたもん。現実の去夜君が微妙にハズしてる事なんて、日常茶飯事だもん。加糖足んないのなんて、いつものことだもん。欲しかったら別のトコ行けば良いだけだもん。……くやしくなんか、ないやーい」(うにうにといじける)
「ちょ!?堂々と浮気宣言とかやめてくんない!?当てつけにしても酷ぇ!」
「2次元は浮気に含まれないんですぅー!別腹なんですぅー!!」
「あんたの乙女ゲーに向ける情熱は、毎度毎度行き過ぎなんだよ!何度も言うけど、俺からすれば立派な浮気だからな!?ソレ!」
「ちっ」
「(舌打ちとか……)」(いらっ)
「……ま、いいけど。最近はあんま乙女ゲームしなくなったしね」
「そういえば、あんまその話しなくなったな。……今何やってるんだっけ?」
「えーと、弟達に付き合う形で始めた某大手のネトゲでしょ?(注1)それから定期的にやりたくなる系の牧場経営ゲーム(注2)後はケイタイのレストランカフェ経営ゲーム(注3)……かな?」
「シミュとRPGか……」(フーン)
「………………」(あえて無言を貫く)
「つかさ……ゲームの俺ってそこまで言うほど甘いの?」
「あーあ、夢恋☆ガーデンティーパーティーが現実のゲームだったら目の前でプレイして爆笑してやれたのに。残念だったねぇ」(胡散臭い作り声)
「全力でいらね。え、そんな?」
「まあねえ、いわゆる『2番手(キャラ)』とか言われちゃうくらいだしねえ。“他キャラ”よりは確実に優遇されてたよ」
「2番手……優遇……」
「ちなみにメイン中のメインは空条先輩だった」(きっぱり)
「あ、それはなんとなく分かる。つーかこの場合、光栄だ、とか言えばいいの?」(複雑)
「そこは……気にしなくていいんじゃない?」(気を使った言い方)
「櫻はさ」
「ん?」
「その“そういう事”言われたいの?」
「“そういうの”って、つまり何かのセリフとか、って事?」
「……“そいつ”が何言ったか知らねーけど、“そういうの”言って欲しいのかなって」
「んにゃ、全然」
「全然っ!?」
「???何で驚くかな?普通でしょ?そりゃあさ、言って貰えたら嬉しいと思うよ?イベントが再現出来たら、やっぱ“ここ”は“ゲームの世界なんだ”って実感出来て嬉しいと思う。まあ実際、“当時は”そんな感じだったしね。でも今それを再現してくれるって言ったところで、結局それって本心からのじゃない訳じゃない?」
「あー、まあ、演技、って事になるよな」
「でしょ?ならいらない。それにさ、やっぱ全然別モノなんだよね」
「別?」
「“ゲームの去夜君”と“今の去夜君”は全然別物。だって、“厚み”も“重み”もあるもん。3次元的な実際の体積、とかの話じゃないよ?ずっと一緒にいて、ゲームじゃ出来なかった他愛無い日常の話をして、触れて、触れられて、ゲームじゃ知らなかった事も随分分かって、何かある度に“ここ”は現実だって思い知らされて。……これで2次元のキラッキラしてた“あの子”と完全に一致、なんて、もう思えない」
「……」
「だから“今目の前にいる白樹去夜”が、“ゲームの白樹去夜”のセリフを真似たところで“似合わない”って爆笑すると思うよ」
「ばくしょー……」
「うん。もうとっくに“基準”は“今目の前にいる人”になっちゃってるんだ。だから多分、同じセリフ言われたとしても……感情籠ってれば嬉しく思うかもしれないけど、『無茶しやがって……』とかしか思わないと思う」
「そう、言って貰えるのは嬉しい……かもだけど、俺ってそんなヤバいセリフ言ってたんだ?」
「んー……確か。つか、皆多かれ少なかれそんな感じだよ?君だって知ってるでしょう?乙女ゲーがどんだけなのかって」
「……やべぇ、想像したくないかも」(gkbl)
「それがいいかも。ある意味本人にとっては黒歴史みたいなもんだしね……。『知らない方が幸せな事もある。……シェイクスピアだよ』あ、リンゴ無いや」
「いや、シェイクスピア関係ねーし」
「ネタだっつの。まあそんな事言う言う私自身もう、ろくに覚えていないんだけどね」(遠い目)
「え?」
「まだ記憶がはっきり残ってた頃に覚えてる内容急いで書き写してたりしてたから、こんなだったなー、っていうおぼろげな部分は何となく分かってるんだけど。昼間言ったでしょ?18年だよ?細かい内容なんて、とっくの昔にすっぽ抜けちゃってるよ」
「あ、そうなんだ?」
「セリフとかもね、イベントの要所は抑えていたとしても細かい日常会話とかは、さすがにもう覚えてないなー」
「意外、だな。もっときっちり情報整理してるかと思ってたのに」
「うん、私もそう思うよ。“あの頃の私”も、いちいちセリフ回収まではしてなかったみたいだしね」
「……」
「だからね、“そのままでいい”んだ」
「え?」
「私は、“今の”去夜君の気持ちが“そのまま”去夜君自身の言葉で聞けたら、その方が断然良いと思う。それで“偶然同じ言葉が出てきた”っていうなら、そりゃあそれですっごく嬉しい訳だけど。でもね、そんな事よりももっと大事なのは……今もうこの状況で……『ゲーム』が終わっちゃって時間も経った今、そう、“今さら”ゲームがどうの、とか言われても、もう私には『同じ様には思えない』って事なの。で、これは相手が去夜君でもそうでなくとも言える事で、他ゲーでもそうなんだけど、いくら2次元から3次元に向かって何度も好きって言われても、その相手は結局のところ“私自身じゃない”訳でしょ?2次元の“保証が付いた”告白よりも、リアルでお付き合いする方がドキドキもハラハラもするのは、至極当前だと思うよ」
「……ははっ、なんだ、そっか」
「これでちょっとは安心?」
「……ん、さんきゅ」(ぎゅってした)
「よしよし」(なでなで)
「でも、『ドキドキ』は分かるけど、『ハラハラ』とかするんだ?」
「するよー!当たり前じゃん!ウカツな事言って見捨てられやしないかって、いつだってハラハラだよ!」
「ぷはっ」(ウケた)
「むー。お互いだと思うのー」
「まあ、はは、お互いだよな」
「ウカツが多いのは人の事言えないと思うのー」
「それって“ゲームの俺”と比較して?」(ニヤニヤ)
「その話はもういいのー!」(ぷんすこ)
「ははっ、そう怒るなって」
「むむう。でもね、ホントだよ」
「?何が?」
「ホントにドキドキビクビクしてるよ」
「いやビクビクって……」
「ヒワイな意味じゃなくて」(怒)
「アッハイ」(ビシッ)
「……私は、“元の自分”が“そのまま”“今の自分”になってるじゃない?」
「あ、ああ」
「だからね、自分がどんなに酷い人間か、イヤになるほど分かってるよ」
「……」
「卑怯でずるくて楽したがりでウソつきで、そのせいで人間関係破綻してて。具体的な記憶なんかないくせに、そこんところだけ呪いみたいに、ずっとどっかこびり付いてるの。こんな風には絶対ならない、なっちゃダメだ、ってね。……勉強ばっかしてたのもね、止めたらやらなくなるっていうのが、自分でもイヤになるほど良く分かってたせいなんだ」
「……」
「たまにね、まーりゃんや友美の事うらやましいなって思う時あるよ」
「え?」
「だって、自分が“どんなだったか”知らなくて済んでるんだもん。まーりゃんだって、自分と過去の自分は別物だって意識がある。同じだって、一つの人生がずっと続いてるって意識があるのは、私だけなんだ」
「……」
「“ずっと私”って事はね、“どうあがいても変われない”って事なんだよ。どんなに“別の人間になりたい”って思っても、心底から変われる訳じゃない。それはきっと、どこまで行ったとしても本質からかけ離れた演技にしかなりえないんだ……。で、そんな人間が周りからどんな風に見えるかっていうと……。例えばさ、グズでのろまで人の気持ちなんてどうでもいいやって思ってる様な人間が、別の人間に見える位に変わりたいって闇雲にあがいていたら……やっぱ、哀れっぽいでしょ?」
「…………馬鹿、そんな訳、あるかよ」
「そんな訳あるよ。だって、ヤでしょ?“本当の去夜君”は、友美みたいな純粋な良い子ちゃんの事好きになってた“筈”だもん。だから私みたいに、びんぼ○ちゃまの『ハリボテ装備』の性根の人間と付き合ったとして、いつか――――――」
「待て待て待て待て、あんたなあっ!」(いらっ)
「!?」(びくっ)
「さっき、ゲームと現実は別、って言ってたんじゃなかった?舌の根乾かないの、どっちだよ」(怒)
「……あ、えと、でも」
「……ふーん?つまり“元の俺”の好みの人間じゃないから、付き合ってく自信が無いって事?」(冷視線)
「う、や、そのっ」(焦)
「……」
「………すんません弱音吐きました」
「よし」
「……えと」
「いっとくけど今のセリフ、“今の俺”の好みに対する侮辱だからな」
「え……?」
「“今の俺”は、あんたの事が好きだよ。どんなにずるくて卑怯でも、偏った趣味の事しか興味が無くて、面倒臭がりの楽したがりで、家族や親友の事とても大事にしてて、人間関係破綻させまいと一生懸命なあんたが好きだ。……ずっと隠し事されてた事と例の件については正直ムカつくけど、でも、今のでそれも解消されたし。だから……あんたが今それを持ち出して全部否定すんのだけは、絶対止めろよな。そしたら、人の目の前で寝オチするくらいは大目に見てやる」(疲れてるのとか安心する理由とか色々察した)
「う……うん。……うん……っ」(涙線にキた)
「返事は『ハイ』、な?」(ブラック)
「は、はひっ」(一番最初の状態に戻る)
「あのさー、ところでさ」
「何?」(ご満悦)
「扉の向こうで散々鳴いてたり、カリカリしてたの静かになったみたいだけど、ほっといていいの?」
「え」
「自分の寝床に戻ってるならいいけど、下手すりゃ扉の前で全裸待機とか―――」
「あーーーっ!ぴーすけ!!」
注1:結構な数のイケメンNPCが出ます。中でも一番のお気に入りは魚人のイケメン剣士。
注2:好きな異性の好感度を上げてイベント起こせば、結婚して子供まで生まれちゃう!最近では恋人としてのお付き合いを経てから、というパターンが多い。告白は条件を満たせばどちら側からでも可。しかも気に入らない場合、相手は振らないけど、こっちは振る事も可能と来た。セリフ回収の為だけに振る未来の鬼嫁も多い模様。
注3:ときめき……いやいや、普通に経営ゲームとしても遊べますよ?(多分)
びんぼっち○まの例えは、あくまでイメージです(笑)




