方法その9 全部バラしていっそどっ引きされましょう その2
「……はっ、そうだマリア、マリア、キミはどうだ!?」
「私、ですか?」
こっち来ましたか。
「そうだ!キミは何か覚えてはいないか!?」
「ちょっともー、見苦しいよー?」
「東雲先輩は黙ってて下さい!!」
東雲先輩が呆れた様に口を挟みましたが、東条先輩はそれどころじゃないみたいです。
「私は、むしろ個人的な事しか覚えていないので、あまりお役に立てないかと……」
「何でもいいんだ!何でも!」
「必死乙」
東雲先輩の心底侮蔑した様な言葉も、今の東条先輩には届かない様です。
困っちゃいました。
だって、あんまり話したくない事ではありましたから。
でも、学園の屋上であった事件の事もありますし、話しておくべきなのかも、しれません。
「私、“前に生きてた時”は、あまり長生き出来なかったみたいなんです」
皆さん、息を飲みました。
さーりゃん先輩だけは何か察していたらしく、ただ、真剣な表情でこちらを見ているだけでしたが。
「病気にかかって長期入院していたって事は覚えてます。印象に残っているのは病院の白い壁くらいなもので、さーりゃん先輩みたいに何か人に伝えられる様な事って、無いんですよね」
「その、病院の、技術的な事とか……」
「私が死んだのは、16歳……ちょうど今の歳ですね。正直、専門的な知識なんて皆無です」
あったらびっくりですよ。
あ、東条先輩、また崩れ落ちちゃいました。
「まーりゃんは、その、死んだ時の事ははっきり覚えているんだ?」
言いにくそうでしたが、さーりゃん先輩はそれでもはっきりと訊ねてきました。
「そうですね、すごく、印象に残っています」
「……病気を苦にした自殺?」
……やっぱ、わかっちゃいますよね。
「……正確には、母に……当時の母親が介護に疲れ果てていて、その言葉を聞いてしまって……」
「……そう」
沈痛な空気になっちゃいました。
“今の私”の事では無いので気にしないで下さい……と言ったところで無理があるのはわかるんですが。
自分の発言のせいとはいえ、少しだけ、居心地が悪いです。
「逆に、私は覚えてないんだよね」
「え?そうなんですか?」
でっかいびっくりです。
こういうのって、覚えているものなんじゃないんですか?
まあ、私の死に方がインパクトありすぎなのかもしれませんが。
「それは、最初から?」
気遣う様に、観月先輩が静かで優しい声で問いかけます。
「そうですね。どうやら同じ転生といっても、状況はともかく覚えている内容について、かなりの違いがあるみたいです」
何やら真面目な話になってきました。
「私は最初から―――生まれた直後から、自分が“他の誰か”であった自覚があった様に思います。ただ、その“誰か”という個人情報の部分は、すぐに消えてしまいましたけど」
「そうなの?」
「うん」
友美先輩との短いやり取りの後、先輩は再び語り出します。
「どうやって死んだか、何故記憶を持ったまま生まれたのか、今となってはもうさっぱりわかりません。逆にまーりゃんの場合は―――」
「私は、あくまで『私』です。説明が少し難しいですが……今の『私』の中に『過去の自分』がいる様な感覚―――が一番近いですかね」
自分の事は自分で話せます。大丈夫ですよ、さーりゃん先輩。
「でも個人情報は残ってて、過去の記憶や感情を強く揺さぶられると元の自分が出て来ちゃう、ってとこかな?」
「多分、そうだと思います」
さーりゃん先輩の言葉に、こっくりと頷きます。
自分でも、自分を無くすくらい、あんなにはっきり『昔の自分』が出て来るとは思いませんでしたけど。
「そうなんだ」
「個人によって違うのか。……不思議なもんだな」
どこかほけっ、とした様子で、東雲先輩と椿先輩が呟きました。
まあこんな話、普通実感湧かないですよね。
「個人情報はわからんと言ったが、人生が継続しているというのなら、少なからず影響があるのではないか?」
さーりゃん先輩に向けた空条先輩の言葉には、心配の色がありました。
シナリオが終わって結果が出た今、友美先輩第一だと思われる空条先輩ですが、後輩であるさーりゃん先輩の事も、やはり気にかけてくれているのですね。
そういう“ゲームでは見れない様な”リアルな人間関係から来る感情を感じ取れて、なんだか嬉しくなっちゃいました。
ちょっとだけ、羨ましくもありますけど。
「私、ですか?まあ無いとはいいませんよ。そのせいでこんな勉強魔になっちゃったんですから」
「そのせいなのか?そんなに必死に勉強するって」
よく分からない、といった様子で白樹先輩がさーりゃん先輩を覗き込みます。
「具体的な死に様は分かんないけど、どんな人間だったかはおぼろげながら分かるよ。というか、もはや染みついた強迫観念とでも言うべきか……」
でっかいトラウマですね?分かりますとも!
あ、白樹先輩が「そ、そこまで……?」ってでっかい引いてます。
「碌な人間じゃなかったのは確かだろうね」
「そ、そんなことないよ、櫻ちゃん!!きっと、とっても良い人だったよ!だって櫻ちゃん、今まですっごくすっごく優しかったもの!」
友美先輩の全力の否定に、さーりゃん先輩は、緩く首を横に振りました。
「“もう一度やり直せるなら、もっと上手に……”なんて思う人間が、まともな人生歩めたとは思えないよ」
それは、私も、きっと友美先輩でさえも初めて見るような、とても、とても暗い――――――きっと、闇を覗き込む時って、こんな表情をするんじゃないかって―――そんな自嘲的で、自虐的な、ひどく歪な表情でした。
「なるほどな……。にわかには信じられんが……話の辻褄は合う。……嫌になるほどにな。……だがそれでは、お前達が俺達の行動を把握出来た理由に足りんぞ?」
今までのシリアスな空気が、でっかい一変しましたです。
空条先輩って、やっぱりでっかい大物ですっ!
さーりゃん先輩っ、でっかい「えーっ」って顔してますっ!!「そこまで言わなきゃダメか」って、でっかい顔に出ちゃってますからっ!!
「どう説明したらいいもんかな……こう、直球で来られるとは思わなかっ……」
「おい」
「…………ええとですね、以前、天上さんには話したと思うんですが、“アレ”聞いてどう思いました?」
え?お話したんですか?
今まで黙って話を聞いてた天上さんが、何か思い出す様に顎に手を当てて少し考え込んでから、思い当たった様に目をぱちりと瞬かせました。
「あー、前に“相方さん”に話してた事?」
「そうそう、それです」
「ゲームとか、アニメの話……に聞こえたけどね。今の流れからして……当然それだけではない、ってところかな?」
「そうですね。共通点は……あるようで無いかな。正確には微妙に違うかも?」
「どっちなんだ」
先輩先輩っ、王様がでっかいお怒りモードですよっ!?
「『セー○ー戦士』は転生モノ。前世と今世は、世界は一緒でも別の文化。『○の手帳』は同一世界の繰り返し……主人公達の行動次第で世界のありようが変わる、ある意味パラレルワールド……」
先輩はまるで独り言でも呟くみたいに言ってますけど、聞く人が聞けば、それはでっかい説明でした。
聞く人、っていうか、私なんですけど。
「手帳と日記」
天上さんが先輩の言葉に続き、合いの手の様に短く口を挟みます。
「どっちも一緒ですね。『未来の事が記された』いわば『予言の書』。ま、『自分が書いた物』に予言も何もあったもんじゃないんですけど」
「これの事かな?」
天上さんが取り出した黒い小さな手帳に、さーりゃん先輩が「げっ!?」と呻き声をあげました。
先輩、仮にも女子なんですから……。
「おい、話が全く分からんぞ」
「ごめん、僕も」
空条先輩と観月先輩が白旗を上げて、椿先輩も同意するみたいにこくこく頷いちゃってます。
「もうっ、櫻ちゃん!そんなにわたし達の事、信じられないの?」
「あー、そういう事じゃなくってね」
じれたっぽい涙目の友美先輩に、降参したさーりゃん先輩は、両手を軽く上げて宥め始めました。
「ちなみに中身は」
友美先輩を宥めた姿勢のまま、さーりゃん先輩は天上さんに視線を向けました。
「見たけど、実に面白い事が書いてあったね」
にっこり。
その笑顔の後ろで何を考えているのか分からないところが、天上さんの怖いところですね。
今のででっかい良く分かりました。
「はあーーーーーーー」
先輩、でっかい溜息です。
友美先輩に伸ばされた腕は、力無くだらん、と下を向いちゃいました。
「どういうことなのー?」
「おい、もうそういうのはいいから、全部話せ」
東雲先輩と空条先輩が、むーっとした顔でそう言って、周りが苦笑してます。
「あああああああー」
でっかい頭抱えたです。気持ち良く分かりますよ、さーりゃん先輩。
大丈夫です、一蓮托生な人間がここに1人いるんですからね。
うがー、と呻き声を上げるのを不意にぴたりと止めた先輩は、真っすぐに空条先輩の方を向いて言いました。
「“この世界”、“私達”にとっては『虚構の世界』だったんですよ」
「どういう、事だ?」
空条先輩が顔をしかめました。
うーん、それだけじゃ、知らない人はよく分からないですよね。
「おとぎ話、創作、架空の世界。そんな感じです」
先輩、もしかして……。
「おとぎ話?この世界がか?」
白樹先輩が、でっかい首を傾げてます。
このリアルな現代社会の事を『おとぎ話』って表現するのは、確かにちょっと違和感ありますね。
「読み物でもなんでも、とにかく“誰かの描いた絵空事”で、私達は“それを見たから”詳しい事情を知る事が出来たんです」
「……なるほどな、お前が“事件”の時に、あれほどすばやく行動出来たのは、その“虚構の創作物”とやらのおかげという訳か」
空条先輩の言葉に、先輩でっかいほっとした表情です。
……先輩、出来るだけ『乙女ゲーム』って言葉使わずに済ませようとしてますね?
まあ、申告したくない気持ちはでっかい良く分かりますが。
黙ってる私自身、バレなきゃそれに越した事は無い、って思ってるって事なんですよねー、フフ……。
「…………“虚構の創作”って、それって具体的にはどんなもんなのさ」
うぐぅ。東雲先輩そこ、喰い付いちゃダメなとこですってば!
「いや、それは……」
「僕達の事、詳しく載ってたって事は、少なくとも読み物であったという事だろうね」
観月先輩、でっかい鋭い推理ですっ!?
「天上」
「言っていいかな?」
「止めて!『天上』に『腹黒属性』とか要らないから!!」
先輩先輩っ、でっかい内心ダダ漏れですっ!
「もしかして、『僕達の内の誰か』が主人公なの?」
ああっ!?東雲先輩っ!!それ以上はいけない、ですっ!!
ふあっ、天上さんが悪そうな顔で「くすっ」て笑ってますっ!?
「ふーん……『天上』に、『腹黒属性』、ね……」
あ、えと?白樹先輩?……でっかいブラック降臨中、ですかー……?
「割と最近、どっかで聞いた単語だなあ……」
「あ……あう」
つ、詰んだかも。
さーりゃん先輩の表情が、まさにそう、でっかい語ってます。
「で?それって漫画?それともゲーム?主人公は誰?もしかして櫻?……それか、そこの篠原じゃない?」
「え、ええええええええええっっ!!??わ、わたしっ!!??」
あーあ。
「丸く収まるかと思ったのに……」
さっきまでの東条先輩みたいに、今度はさーりゃん先輩がうなだれちゃってます。
あ、東条先輩、でっかい期待に満ちた表情してますね。
多分ですが、それってでっかい『空条の今後の事とか知ってるんじゃないか、うまく利用すればさらに発展出来るかも』って思ってません?
……早めに、言っておいた方がいいですかね、これって。
「あの……お話の期間は、もうとっくに終わっちゃってますから」
「え……?」
「ですから、もうとっくに……えと、2年近く前に、もう全部終わっちゃってるんです。“この話”は」
「は、あの?」
そんなに分かり難い話ですかね?
「さーりゃん先輩」
話しちゃっていいのか、一応確認、です。
先輩は「はあ」と1つ息を吐いて、それからこくんと頷いてくれました。
「この“お話”は、『夢恋☆ガーデンティーパーティー』という“ゲーム”で」
「ナニソレ酷いタイトル」
東雲先輩、でっかい五月蠅いですっ。
「……友美先輩が主人公の“ゲーム”でした」
「……入学式直後に、屋上行ったでしょ?あれが始まりだったんだよ」
さーりゃん先輩が友美先輩に向かって説明しましたが……何だかもう、でっかい投げやりですね?




