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方法その8 ナイスなボートは乗船拒否で! その4 



東雲「ゆるさない、ぜったいにだ」




「しななきゃ」


 今までの騒ぎに一切口を挟まなかった彼女の第一声が“ソレ”だった。


 ―――しななきゃ?


 ―――死?


「そんな事無いよ!」

 即座に否定したのは、我らが友美(ヒロイン)

「もう終わったの、大丈夫だから!」

 隠れる様に身を縮込ませていた美々も、様子のおかしな友人に語りかける。

 しかし、いきなり「死ななきゃ」って……。

 高所恐怖症の限界突破か、それともさっきまでのあの様子で『彼女』に洗脳でもされたか……。

 はたまた暴走しののんのせいか!?

 最後のはともかく、普段しっかりしてるから、暗示なんかにはかかりそうもなかったけど……。


「私なんて、いらないの」

「真理亜ちゃん!何でそんな事言うのさ!」

 『定子』が退場して元の精神状態に戻ったらしい東雲君の、その悲鳴みたいな叫びに、まーりゃんが相変わらずぼんやりとした様子のまま答えた。

「“いつまで”って“言われた”」

 え?言われた?

「“いつまで”?」

「“いつまで、生きてるのか”……って、言われた」

「そんなの、気にする事無いよ!」

「こっち、戻って来て!」

 友美と美々が呼びかける中、私はその言葉に引っ掛かっていた。

 “誰”が言った?定子だろうか?

 いつまで、って、それってまるで、ずっと長い事『いなくなって欲しい』って思ってたみたいな……。

「“はやく、死ねばいいのに”……って」

 ……やっぱりだ。

 まるでドラマの中に出て来る様な、介護に疲れた嫁みたいなセリフ……。

 そんな事言う人が、彼女の身近にいたって事?

 それに何だか……彼女の様子が変。

 いや変は変でも、こう、普段と違うっていうか……いやもう普段通りでは無いんだけど!そうじゃなくて!

 まーりゃん、こんな言い方だった?

 いや、意識朦朧としてるっぽいから……そのせいで余計危ないんだけど、そうじゃなくて、そのせいでいつもと違う風に見えるのかな?

「だからっ、そんな事誰も思ってないってば!」

「真理亜ちゃんっ!!」

 淡々と呟くまーりゃんの、あまりにも悲しいその言葉に、優しい2人はついに涙をぼろぼろと零し始めてしまった。

 ああ、この状況、早くどうにかしないと!

「それって『あの子』がそう言ったの?」

 般若の様な顔つきで東雲君が問いかける。

 けれど、その答えは違う物だった。

「……“おかあさん”」

「「「「!?」」」」

 ここにいる全員に、衝撃が走った。

 彼女の母親が、そんな事を――――――?

「おい」

「いえ、『彼女』の家で、虐待等があったという報告は受けていません」

 空条先輩が視線だけで天上さんに確認を取ると、問われた方も困惑した表情で報告を述べる。

 ってか、仕事早いな。まーりゃんまで調査対象になってるとか、さすがに思わなかったぞ。

「何度か会っただけだが、そんな事があったにしては明るい印象だったな」

「誤魔化したり演技してた……って訳じゃなさそうだね?」

「そんな事があったら、とっくに気付いてるよ!」

「俺にも、そんな様子は見えませんでした」

 他の皆も、次々と彼女の言葉に対する違和感を告げる。

「なら、何だ?被害妄想か?」

 先輩は首を傾げる。

 でも私には、一つだけ心当たりが思い浮かんだ。

 さっき感じた違和感の説明も、これならば理由になる。

 ―――けど、きっとこれは“私”にしか思い当たらないだろうな。

 まさか、という思いでいっぱいだったけど……。

「おねーちゃん!」

 考え込んでいたら、混乱して泣きじゃくる美々に、助けてと腕を掴まれ揺すぶられた。

 ん、考えるのは後回しかな。

 直感を信じて声をかける。

「ねえ、“君の名前”は何?」


「…………前園(まえぞの)瑞穂(みずほ)


「違う!!」

 ある意味予想通りだけど、望んでいなかったその返答に、私は間髪入れずに否定する。

 周囲が動揺してたけど、構うものか。

「名前は!?」

「……まえ、ぞの」

「だから違うっつってんでしょ!?思い出せ!“君”は“君”じゃ無い!!“昔の君”はもうとっくに“死んでる”んだよ!!“君”は生まれ変わって今ここにいる!“この世界”に!“今の君”の名前は何だ!?」

「…………」

 考え込んでいるらしく、黙り込んでしまった彼女。

 周囲も固唾を飲んで見守っている様で、誰もが皆黙り込んでしまっていた。

 そうしてようやく、彼女は口を開く。

「私の、名前……なまえ、は」

「マリアちゃん!!」

「真理亜ちゃん!?」

 天使が2人、耐え切れなくて呼びかける。

 けど、結果的にはそれが功を奏した、のか?

「まり、あ?……違う、私は、まえぞの、みずほ……で」

「合ってるよ!君の名前は神山(かみやま)真理亜(まりあ)、聖母の名前だよ!!」

 東雲君も必死に呼びかける。

「お願いだよ、戻って来て真理亜ちゃん!!こんな訳の分からない状態のまま君と終わってしまうなんて嫌だよ!仲良くなりたいんだ!君のこと好きだから!!」

 おいおい、フライングフライングー。

 ったく、堪え性が無いというか、こういう所がある意味東雲愉快(じらいキャラ)らしいといえばらしいんだけど。

 うっかり気が抜けそうだったけど、気を取り直して引き締める。

 よし、寛大な心で今のセリフは聞かなかった事にしてやろう。

 まーりゃんはいまだにぼんやりしているし、もしかしたら気のせいで済むかもしんない。

 ………告白はタイミングとシチュエーションが大事。

 こんなところで勢いで済ませるなぞ、この私が許さん。

 ……って、今はそれは置いといて。


「名前は」

 もう一度、問い直す。

 さっきまでと少しだけ様子の違う彼女の、揺れる瞳を見つめながら。

「名前は!?」

「ま、りあ?」

「フルネームは!?」

「あ……“私”……?」

「言いなさい!」

「“私”は、えと、真理亜……神山、真理亜、で……」

「歳は!?」

「16……」

「住んでる場所!!」

「びょう、いん?ちが」

「違う!!」

仁羽(にわ)市の、自宅?」

「通ってる学校の名前は!?」

「学校……?ええっと……通ってた……?」

「がんばって!!」

「真理亜ちゃん、負けちゃダメだよ!!」

 天使達の力強いエールに、さっきまでのぼんやりした様子から、まーりゃんの表情がはっきりしたものに戻って行くのが分かった。

「君は、“誰”?」

 止めの様に問う。

「かみやま、まりあ、です、さーりゃんせんぱい」

 まだ少しだけぼんやりしてるようだったけど、いつもの敬語と私のあだ名が出て来たところで、ほっとして力が抜けた。

「櫻っ!?」

 へなへなとその場にへたり込んだ私に、去夜君が慌てて駆け寄って支えてくれた。

 うん、ありがたいね。

「もう、だいじょうぶ。――――アナタはもう、だいじょうぶだよ」

 去夜君にはへらっと笑って、まーりゃんには微笑みを。

 ……笑ったついでにネタ仕込むあたりが私だよなあ……。



【まーりゃんside】

 目の前でさーりゃん先輩が座り込んじゃいました。

 腰が抜けた、みたいな状態です。それでも、安心させてくれるみたいに微笑んでくれましたけど。

 かくいう“私”も力が抜けてしまって……慌てた様子で椿先輩と知らない白い服の男の人が、私の両脇を支えて移動します。

 ……私今、何処にいましたか?

 そっと後ろを確認しようとしましたが、さりげなくなく白い服のお兄さんに首を固定されてしまいました。

 でっかい記憶がありません。

 何があったんでしょうか?

「真理亜ちゃん!!」

「良かった!無事で、ほんと、に、良かった……っ!!」

 美々ちゃんと友美先輩、すでに顔中涙まみれですっ!?

 ぎゅっと抱きしめられました。……私、何やらかしちゃったんでしょうか……?

 状況がよく分かって無くて、されるがままに茫然としていたら、少し離れた所から、ドカッ、という鈍い音が聞こえました。

「おい、東雲!?」

「しののん!?」

「愉快!」

 見れば、拳を握り締めたままの東雲先輩と、ほっぺたを抑えたまま尻もちをついた様な格好で座り込み、びっくりした表情で見上げている東条先輩の姿が。

 え、東雲先輩?

 “あの”東雲先輩が……普段明るくて賑やかで、実は策略家の東雲先輩が……体格や腕力的に不向きなのもあって、決して暴力なんか振るわない、そういうのは他人(ひと)にお任せ、って公言する様な人が――――――殴っちゃった、んですか?

「いきなり何をするんですか!?訴えます……」

「反省が必要なのは、君の方だと思うけどね」

 でっかい声ひっくいです!?

 こんな声、ゲーム時代にも聞いた事ありませんでしたよ!?……多分。

「失うかと思った。絆も、心も、全て。すっごく、怖かった。……今なら“あの時”の白樹の気持ちが分かりそうな気がするよ」

 周りが静かに見守っているせいで、白樹先輩「余計なお世話だ」って小声で突っ込み入れたの、でっかいバレちゃってますよ?

「……もし、全てを知った『彼女』が、それでも許したとしても――――――僕は、絶対に許さないから」

 震える声。

 煌々と照らされたこの場所で、先輩の握り締めた手が震えているのがよく見えました。

 でも、私にはその表情が何の感情を宿した表情か分かりません。

 きっとそれは“ゲーム”ではなく、“現実”の“この世界”で初めて見た表情だったからだと思います。

 そっと手を引き、左手でかばうように包み込んだ東雲先輩に、へたり込んだままのさーりゃん先輩が「手、痛めた?大丈夫?」

 と声をかけました。

 ……状況は良く分からないですが、本当に、大丈夫ですかね?

「ともかく、これですべてお終い、か?」

「撤収作業、始めますかね」

 空条先輩と白い服のお兄さんが、改めて周囲を見回しながら、そんな風に言い出しました。

「お前らは先に出ていろ。俺はカギを返して来る」

「待って、僕も一緒に行くよ、三十朗。連絡も入れなきゃだしね」

 椿先輩と、優しそうな男性……服装と先輩方との仲の良さから、恐らくこの人が観月輝夜(みつきかぐや)さんなのでしょう……その人が断りを入れてからこの場を後にします。

「櫻、立てるか?」

「うん、大丈夫。美々、友美、まーりゃんは任せた」

 白樹先輩に促され、立ち上がったさーりゃん先輩は、美々ちゃんと友美先輩に私の事を頼みました。

 私、任されるほど何かしましたか……?

「ん」

「うんっ、任されたよっ!!」

 2人が返事をしたところで、空条先輩が友美先輩に近づいて来ました。

「あまり無理はするな?」

「あっ、明日葉さん。えへへ、みっともないとこ見せちゃったけど、もう大丈夫です。元気、戻って来ましたっ!」

「友人の為に泣けるのは、お前の良い所だ。みっともなくなど無いだろう?」

「はいはーい、いちゃつくのはそこらへんにして、撤収ですよー」

「もうっ、櫻ちゃんたら!!」

 あっという間に2人の世界を作っちゃったお2人に、さーりゃん先輩が呆れた声を投げかけます。

 ふふっ、こんな時に何ですが、でっかいなごんじゃいました。

「おい、貴臣」

「はっ、ハイッ!?」

「しばらくは行動を共にしてもらう。お前の処分はそれからだ。いいな」

 東条先輩は……何でここにいるのでしょうか。

 それにどういう訳か、怒られているっぽいのです。

 気が付いたら目の前に皆さんがいた私としては、どう判断したらいいのか、でっかい良く分かりません。

「そんな、ボクは……!!」

「話は後で聞く。どうせこの事件、関係者全員から話を聞かなければならんだろうしな」

 そうですね、事情説明、私もでっかい必要です。


 その事情説明とやらで、でっかい秘密の暴露大会になるとは夢にも思いませんでしたが……。


 ともかく、こうしてクリスマスの夜は更けていったのです。

 はっ、そういえばそもそも、空条先輩のクリスマスパーティに行く筈だったのです。

 この場合、今後でっかいどうなるんでしょうか!?



新旧主人公さん達は、いよいよ年貢の納め時のようですよ?


2/26

ご指摘があった点修正しました!

修正ついでに少しだけいじってます。


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