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方法その8 ナイスなボートは乗船拒否で! その1



side使い、降臨。




 あの、勢いだけで叫んでしまった「耐えられません!」事件から、少しの時間が過ぎました。

 もう12月です。どことなく落ち着かない空気の漂う時期になりました。

 きっとうかうかしていたら、すぐに年末になってしまうでしょう。


 あれから、嫌がらせの頻度は見事にがくっと落ちてくれました。

 校内では警備員さんが、主に放課後を中心に巡回を強化してくれるようになりましたし、また生徒達にも居残りを原則禁止にする通達がなされ、肝心の“あの人”に対しては、行き過ぎた行為や目に余る行為が余りにも多すぎた為に、とうとう保護者説明の上での謹慎処分が出たそうです。

 噂によると、あの嫌がらせの先輩……『定先輩』は、前にも似た様な事件を起こし、その時もやはり同じ様に保護者が出て来る事態になったとか。

 今回学園側がここまで大きく動いたのは、さーりゃん先輩達の働きかけや、生徒会からの要望があっただけで無く、私のクラスからも無関係なのに巻き込まれた被害者が出てしまい、普段自主性に任せている教師や理事関係からも「対策を」という声が上がったかららしい……とは情報通の友人談、からなのですが。

 前科があるなら仕方がない、むしろ何で退学にならないんだ、というのが友人達含むクラスの大半の人の感想らしいです。これもやっぱり友達から聞いた話ですが。

 私の事については今のところ同じ被害者どうしだと思ってくれている様で、正直ありがたいとさえ思うほどですが、とはいえかなり迷惑かけちゃってますからね……。次はさすがにこうは行かないでしょう。

 いつ出所(でてくる)……登校するのかはまだ分からないそうですが、その時にまたヒドイ事が起こらなければいいのですが。


 …………などと、その時の自分は随分とのんびりした事を考えていたのだなあ、と、後で思い知る事になるのです。



 東雲先輩は、あの日から本当に会わなくなりました。

 メールも電話も一切無しです。

 自分の言った事とはいえ、言い過ぎた、とも思うのですが、どうやって仲直りすべきなのか自分でも分からなくて、実はとても困ってるんですよ。

 素直に「ごめんなさい」って言えればいいんでしょうが、向こうもこちらを避けているらしく、本当にお会い出来ません。

 3年の教室まで行こうかとも思ったのですが、それはさーりゃん先輩に止められてしまいました。

「今の状態で会ったとして、それは君の気が済むだけでしょう?東雲君は『本気』だよ」

 そう、言われてしまいまして。


 

 あれから、東雲先輩は変わりました。

 まず、身辺整理なのか、周囲に女っ気が全くと言っていいほど無くなっちゃいました。

 これは友達の間でも急に起こった大事件として、しばらくの間折に触れ、話題に上がっていたほどです。

 それに授業も真面目に聞いてるのか、期末テストで上位に食い込むほど。

 やれば出来る人だという事は『知って』いましたが、今までの東雲先輩では、でっかいあり得ない事です!

 私、ですか?この精神状況でいい成績など取れるはずもなく、案の定だいぶ順位を落としてしまいました。

 それでも、恐らく一人で勉強していたら、もっと悲惨だった事でしょう。

 毎日の様に美々ちゃんの家に招かれ、さーりゃん先輩と友美先輩と一緒にお勉強に混ぜて頂いた結果なのです。……ふがいなくて申し訳ないです。


 東条先輩は、あれからもちょくちょく顔を出してくれます。

 優しくて親身になって下さるのはありがたいのですが、文化祭の『アレ』をいまだに引きずっている私はどう接していいのか分からなくて、そのせいで悶々としてしまったり。正直、成績不振の原因の一端にしてしまいたいくらいです。

 ……八つ当たりだって、分かってるんですけどね。

 そういえば寒い日の朝、東条先輩と私がばったり会ったところに東雲先輩が通りかかって、でっかい鉢合わせした事がありました。

 お互いどうしてそう、でっかいケンカ腰になるんでしょうか……。

 しかも東雲先輩、その日に限って帰りに送る、とか言い出しますし……。本当に先輩の考えている事、でっかい良く分からないです。

 いえ、善意でありがたいご厚意なのは分かるんですが、そもそもですね、私、車で登下校しているので、一緒に下校とかそもそも出来ませんから!

 気が付いたら何となく周囲からも遠巻きにされている様な状況になってましたし。

 そろそろ私の顔、皆さんに覚えられてしまってるんじゃないでしょうか……。

 もしかしてこれ、学園生活(じんせい)でっかい詰んでませんか……?


 そんな中、良い事もありました。

 何とさーりゃん先輩と友美先輩のお声がかりのおかげで、空条家主催のクリスマスパーティに、でっかいご招待されたのですっ!

 クリスマスパーティといえば、そうっ!『あの』友美先輩の『コイツは俺の婚約者だ』イベントですっ!!キャー!!(照)


 …………起こったの、一昨年の話なんですけどね。


 でもですねっ、今までお会いした事のある人達全員はもちろんの事、春にはお会い出来なかった当時(ゲーム)の攻略キャラ『観月輝夜(みつきかぐや)』さんも参加されるという事で、すっごくすっごく、その日を楽しみにしていたのですよ!

 まあ、当日の組み合わせが『空条先輩×友美先輩』『白樹先輩×さーりゃん先輩』ここまではいいとして……どういう訳かの『椿先輩×美々ちゃん』だったりしまして。

 つまりですね、消去法で私が東雲先輩のパートナーに決定してしまっているのですよ。

 観月先輩ですか?パティシエとしてのお仕事があるのだそうです。……ですよねー。


 でも、これはいいきっかけかもしれません。

 落ち着いている今なら、言い過ぎたって、ごめんなさいって、言えるかもしれないです。

 逆に今を逃したら、今度次いつ機会があるのか分かりません。

 最悪、そのまま先輩は卒業してしまうかも……?

 それは、何だかとても嫌です。

 でっかい、もやっとするのです。

 

 私は今、東雲先輩の事をどう思っているのか、いまいち良く分からなくなっていました。

 初めて会った頃の様な、強烈な嫌悪感というものはありません。

 でも、だからと言って好きか、と聞かれると、答えに困ってしまうのです。

 ただ分かるのは『今さら嫌いになりたくない』という気持ち。

 そして『東雲先輩にも嫌われたくない』という気持ちだけでした。

 ……不思議ですよね、今まで散々、あんなに近づいて欲しくなかったのに。


 いつの間にか私は、あの人がそばにいない事の方に、違和感を感じるようになっていたのです。


 だから、せめて謝りたいのです。

 あの時は自分でもいっぱいいっぱいだったとはいえ、暴言を吐いた事、申し訳なく思っているのだと、せめて知って欲しいです。

 さーりゃん先輩にはまた、止められてしまうかもしれませんが。


 ―――そんな風に思っていたのです。

 まさかその日、あんな事が起こるとは夢にも思わずに――――――




 そして――――――




 空条グループ主催、総合クリスマスパーティ当日。

 空条クラウンパレス、ダイヤモンドセンターホール―――クリスマスパーティ会場にて。


【櫻side】

「遅い」

 空条家のパーティに呼ばれていた私達は、もうすでにドレスに着替え終わっており、控えのロビーに集まっていた。

 ……ただ1人を除いて。

「何かあったのかなあ」

「……ケイタイ、さっきから繋がらない。……心配」

 友美と妹の美々も、かなり気を揉んでいるようだ。

 つか、今このタイミングで携帯繋がらないって、それって実は結構マズいんじゃ……。

 言い知れぬ不安、とでもいうのだろうか。さっきから足元がスースー冷や冷やするみたいに落ち着かない。

「どうだ?」

「まだ来てないよ」

 女3人で最後の1人を待っていたら、空条先輩に1人遅れる旨を伝えに行った男連中(観月、椿両先輩含む)が戻って来た。

「どうしよう……」

「困ったね。三十朗、どうにかならないかな?」

「自宅を出たのは確認済みなんだが……。今念の為、実家の方を当たっている。しかし、人を派遣しようにも現在地が掴めないのではな……」

 憂い顔の友美に、困惑した表情の観月先輩。

 答える椿先輩も、やっぱり困った顔だ。

「GPSって、電源入って無いと意味無いでしたっけ」

「それ以前の問題だろ?勝手に位置を特定するには手続きが必要だしな」

「まーりゃんには、そういうの必要ないと思ってたからなー」

 去夜君の言葉に『しくった』と口の中だけで小さくつぶやく。

 確かに最近学園内でごたごたに巻き込まれてたけど、まさか学園外で、こんな風に所在不明になるとは思わなかったし……。

 脳裏をよぎるのは、去年の初めの『篠原友美誘拐事件』

 でも、彼女自身は『ゲームヒロイン』でも何でもないし、『イベント』めいた事はあったけど、それだって最近はそんな話聞かなかった。

 その一方で、何かに巻き込まれたのではないかと連想してしまう要素が無い訳じゃない。

 10月末頃、やけにもったいぶった言い回しで、何がしかの取引を持ちかけて来たあの男……。

 結局あの後どういうつもりなのか、何の音沙汰も無かった訳だけれども。

 ちらりと東雲君の方を見る。

 珍しく、黙ったままの彼を。

 …………まさか、ね。


 どうしようかと皆で頭を付き合わせ、もう一度相談しようとしていた、その時。


「こんな所にいたんですね」

 声を掛けられて全員が振り向く。

 そこにいたのは、あの文化祭の日、やけに芝居がかった言い方で人の神経逆なでしたあの男、東条とかいう2年の後輩男子だった。

 ま、この場所にいるだけあって、後輩って感じは微塵も無いけどね。どこのセレブ坊ちゃんだよ……って実際セレブだったか。

「何か用?」

 椿先輩がそれとなく友美と美々を後ろに庇い、白樹君が警戒する中、私は口を開いた。

 幾分か、つっけんどんな言い方になったのは仕方ないと思う。

 けど、彼には余裕があるみたいだ。

 まるで舞台俳優みたいにわざとらしく両腕を軽く開き、自信ありげな深い笑みを浮かべる。

「いやですね、そんなに警戒しないで下さいよ。それよりも皆さんここで何をしているんです?もしかして“どなたか”お待ちなんじゃないですか?」

 その言葉に、ぴくりとこめかみが引きつったのが分かった。

 いやこんな表現してるけどね、リアルではそうそうないよ~?ホントにピクッてなるとは自分でも思わなかったもん。

「どうしました?」

 ……の野郎、わざとか?さっきから何っか腹立つ言い方するなあ。

「……1人、まだ来てない子がいてね」

「おい、櫻」

「何か知ってるなら、教えてもらえないかな?」

 白樹君の制止を振り切って交渉に入る。

 捜査っていうほどでも無いかもしれないけど、手がかりが何もない現状、正直少しでも情報が欲しい。

 すると、待ってましたと言わんばかりに彼の口が大きく歪んだ。

「おやあ?央川先輩なら“知っている”と思いましたけどねえ」

 あからさまな嘲笑に、私よりも周囲の方がいきり立った。ちょっとちょっとー、キレるにはまだ早いと思うよー?

 唯一静観しているのは、さっきから無言を貫く東雲君くらいだ。

 つか、いい加減まーりゃんと仲直りして欲しいなあ。

 怒るのは分かる。……つか、似た様な事やらかした経験がある人間としては分からなくもないが、それでも、私達にまで当たる事無いでしょうよ。

「……知ってる訳無いじゃない。そもそも知ってたらとっとと行動起こしてる。……あのさ、先々月くらいから急に何なの?一体何の話がしたい訳?」

 まあ、そんな事言ってる私も十分キレてるんですけどねー。ですよねー。

「……」

 そこで初めて、彼の表情が意味深な笑みからいぶかしげな表情(モノ)に変わった。

「……本当に“分からない”んですか?」

「うざい。知らないし分かんないよ。ねえ、用が無いならもう行っていい?こっちは連絡取れなくて困ってるんだけど。探しに行きたいの、無事を確かめたいの。回りくどい言い方する人に、これ以上付きあってらんないから」

 ドレスコードのある様な、しかも周囲に大勢の人がいるこういった場で、今みたいな物言いが宜しく無いのは重々承知の上だ。

 でも、さすがに何か巻き込まれちゃってるらしい後輩ちゃんの事を、このまま放っておく訳にはいかないし、心配でいてもたってもいらんなかったもんで、つい。

 なんて、ごく普通にキレッキレなだけですが何か?

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 引き留めようとする彼を振り切り、とりあえず空条先輩に相談しようと踵を返しかけたその時。


「何だこの騒ぎは」


 いつの間にか囲まれていたらしい集団をかき分け現れたのは、我らが頼れるリーダー、空条先輩でした。







当分の間“は”シリアスですので、よろしくです。



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