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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第9章 「男の子と女の子のはざまで」
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第91話 姿を見せたパトロン

「ようやく会えたね、キリュウ君」


と言いながら、五十年配のオールバックの男が笑みを浮かべて手を差し出した。

ボクは、女の子らしく両手を男の手に添える。その方が今の格好には相応しいと思ったのだが、すかさずガッシリとした手で包み込むように握りしめられてしまった。


「柔らかくて細くて小さな手だ。それにしても普段からキミがこんなに女の子らしい格好をしているなんて想像していなかったよ」


男は津嶋宗徳54歳。あきつしまグループの持ち株会社あきつしまホールディングスCEOで、国内外に抱える関連企業数百社のオーナーだった。

ボクのために、傘下のホテルの高級フィットネスクラブや、総合スポーツ用品メーカーのコンピタンスポーツで特別に処遇するよう指示を出してくれている人物でもある。

そんな凄い人がいきなり目の前に現れたのだ。


「そ、それは・・・津嶋さんはボ、ボクがどういう格好でいると思ったのですか?」


ボクはびっくりしてしまい、お礼を言うことも忘れて言い返してしまった。


「そうだな。キミは女を強いられているから、普段は無理してでも男っぽい格好をしているんじゃないか、と考えていた」


津嶋氏は、よく日に焼けた黒い肌とは対照的な白い歯を見せながら、笑顔でボクを頭のてっぺんからつま先まで観察しながら言った。


「ご期待にそえていないようで、すみません」


この人は、ボクのことを男だと認めてくれているのだ。そのことが直ぐに感じられたので、自ら可愛い格好をしている自分が恥ずかしくなってしまい顔を赤らめる。


「謝ることはないよ。むしろ嬉しい驚きだ。キミがその気になっているのなら、私としてはキミが女性として成長していけるよう応援しようと思う」


そんなボクの様子をとても好ましく思ったのか、津嶋氏は一段と優しい声音で言った。


「ちょ、ちょっと待ってください。ボクはまだ女になろうって決めた訳じゃないんです」

「ほう?」


ボクの反応がとても意外だったのか、ちょっと驚いた様子だ。


「ボ、ボクはお医者さんが言うみたいに、この身体と頭の中の折り合いをつけるため、女の子でいたいと思っている別の自分がいるのかどうか試しているだけなんです」


再びボクを頭のてっぺんからつま先まで見つめる。


「そうか、なるほどな。だから自分から可愛い格好をしているわけだ」


しばらくして、そう言った。


「そのリボンで結んだ髪なんか、可愛い女の子そのものだものな」

「これは母がきつく結んでしまったので自分ではどうにもできなかったんです!」


ボクは、自分が女装した男と見られていると思うと、一層恥ずかしさが募ってしまった。


「ふふ。可愛いって言われたのに反駁するということは、まだ女の子の気持ちになりきれていないんだね。ま、頑張りたまえ。お母さんにも伝えたが、キミがこの世界に帰って来たときから、ずっと私はキミを応援しているんだ。長い間お断りしてきた学園理事の話も、学園長の桜庭さんからキミが復学したと聞いたので引き受けることにしたのだよ」

「どうして、ボクのことを応援してくださるんですか?」


とその時、秘書と思える男性が足早に近づいてきて、津嶋氏に耳打ちした。


「ふむ、残念だが時間になってしまったようだ。キリュウ君、その話は今度ゆっくりしてあげよう。ともかく、私がいつでもキミを見守ってあげられるポジションに就くことができて、よかったと思っている。お母さんを通じて連絡するから、今度いっしょにメシでも食おう」


と言うと案内役の先生たちを引き連れて、一陣の風が吹き抜けるように立ち去った。


「アラシ。いったいあれは何だったんだ?」


カッちゃんの声で振り向くと、男子部員たちが練習の手を止めて遠巻きにこちらを見ていた。


「あ、カッちゃん。よく分からないんだけど、わたしのことを気にかけてくれている人みたいなの」

「キリュウ。校長たちがペコペコしていたが、そんなに偉い奴なのか?」

「う~ん、どうなんでしょう。お名前は津嶋さん。あきつしまグループの方なんですって」

「津嶋・・・あきつしまグループ・・・おい! それって」


先輩たちが絶句してしまった。






「それで、津嶋さんはほかにも何か言ったのか?」


ボクが放課後部活であったことを話し終えると、父さんが尋ねた。


「ううん、今話したことだけ。だから、今度一緒にご飯を食べましょうっていうのが最後だったの」

「そうか。アラシの話だけじゃ、津嶋さんがどうしてそんなに気にかけてくれるのかは分からんな」

「いいじゃありませんの。きっと津嶋さんもアラシの大ファンなんですよ!」

「お前はそういうけど、相手は社会的地位の高い忙しい人物なんだぞ? 変だと思わないか?」

「綺麗だというだけで、女はチヤホヤされるものなんですよ、パパ」


と言いながら、母さんはボクの髪を愛おしそうに撫ぜた。


「だとしてもだ、アラシに何かよからぬ思いを抱いているのかもしれんじゃないか? だとしたら絶対に許せん!」

「まあまあパパったら。アラシのこととなるとホント見境がなくなるんですから!」

「それは女親であるママが、あまりに楽天的過ぎるからじゃないか!」

「なに言ってるんです。パパは変に勘ぐり過ぎなんですよ! パパのは空想というより妄想です!」


どうもこの夫婦の会話にはついていけない。ボクのことを話していながら、ボクがどう思っているのか、どうしたいのかには関心がないようだ。


「ママもパパもいい加減にしたら? 津嶋さんから連絡くれるって言うんだから、話はそれからでも遅くないと思うけど?」


ボクは、いかにも関心なさそうに言った。


「・・・ま、それはそうなのだが」

「・・・それは、そうなのよね」


トーンダウンした様子なので、ボクはここぞとばかりに話柄を変える。


「ところで・・・わたしのケータイ、機種変してもいいかなあ?」

「ん? どうしてだい?」

「いま使っているのって去年高校入試のときに、出先でもアラシと連絡つくようにって買ってあげたものよね?」


父さんたちが当然の疑問を口にする。ボクとしては3年前に買ってもらった感じでいるのだが、地球時間でいえば買ったばかりなのだから。


「そうなんだけど、その頃ってわたし、まだ男の子だったじゃない? なんだかいま使っているとゴッツい感じがするのよね・・・」

「それはいかんぞ!」

「アラシの持ち物はなんでも可愛いのじゃなきゃダメよ! 早速、機種変更しましょうね。いいですよね? パパ」

「ああ、もちろんだ。それでアラシは何か欲しい機種があるのか?」

「うん、まあね。・・・パパ、おねだりしてもいい?」


上目遣いで言ったら、父さんの顔がパアッと輝いてしまった。女の子をやっていると得することもあるんだと実感する。


という訳で、ボクはワンセグとフェリカがついた最新の機種を手にいれたのだった。これでサッカーやゴルフ中継をどこでも観れるぞ!






≪キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪≫


「それじゃあ、ホームルームを始めます」


翌日の6時限目、始業のベルと同時にオサゲで赤メガネの委員長が宣言した。

オサゲのほつれが浮いていて艶がないのは髪が傷んでいるからだろう。ボクは教壇の真ん前に座らされているので、目の前に立つ人はスミズミまでが3Dパノラマの豊かな立体映像で見えるのだ。


「岡崎先生お願いします」


教壇の横に立ちあがると、担任の岡崎が一同を見回しながら話し出す。


「学園祭お疲れさんだったな。皆のおかげで今年は例年以上に盛り上がった。なにせ2Cは動員もトップ、ミスコンもトップだったから、他の先生方からの怨嗟の嵐で俺も辛い立場だったよ。アハハハハハ! ということで辛いことの後には楽しいことが待っている。みんなも楽しみにしていた修学旅行の話だ。いよいよ出発が来月に迫ってきた。スケジュールが決まってっきたので、今日はその話をする」


≪うおおおおおおお!≫


教室中に歓声が響き渡る。でもボクは、きょとんとした表情で後ろを見回すばかり。


「え、来月修学旅行があるんだ・・・」

そうつぶやいたら、後ろと左右から速攻、反応が返って来た。


「な~に言っちゃってるの!」

「みんなで楽しみにしていたんじゃないの!」

「今年は沖縄だったじゃない!」

「お、沖縄? そんな話聞いていなかったけど・・・」


クルミ、ユカリ、サヤカが意外そうに顔を見かわした。


「そっか。ランちゃんは2学期からだったんだ!」

「聞いていなかったのよね」

「うふ、じゃあハッピーサプライズじゃないの!」


≪よかったわねえ~♪≫


3人にハモられてしまった・・・。


「こら、キリュウ。よそ見しているんじゃない!」


岡崎に注意されてしまった・・・。


「あの、先生」

「なんだ?」

「来月、修学旅行なんですか?」

「そうだが? それがどう・・・あ! オマエには言ってなかったかも」

「ひどいじゃないですか」

「スマン。でもまあ、そういうことなんだ。高校生活の楽しい想い出になるんだし、オマエも復学のとき挨拶で言っていたろ? 今から“キャッチアップ”して楽しめ」

「・・・でも、両親に話さないと」

「旅行費のことか? それなら大丈夫だ。復学の手続きで見えた際に、行方不明期間中の授業料の扱いを決めて一緒に旅行積立ての分も納めていただいた」

「知らぬはわたしばかり・・・」

「まあ、そう言うな。行先は沖縄だぞ? 11月だが昼間は半袖で過ごせるって言うぞ。オマエならノースリーブかタンクトップでもいいんじゃないか?」


≪おおおおおっ!≫


振返ると男子も女子も瞳を輝かせながらボクのことを見つめていた・・・。


「温水プールもあるらしいから、なんなら白いビキニでもいいぞ?」


≪それはセクハラです!≫

≪ひど~い!≫

≪キリュウ君がかわいそう!≫


女子たちから一斉に非難の声があがった。ボクは男だけど女の子でもあるから・・・やっぱりセクハラか。岡崎もしまったという表情に変わっている。


「うおっほん。では、旅行のスケジュールを配布する。オマエたちも高校生だから自由行動の時間も多く組まれているが、決して単独行動はせず、組になって行動するようにな」


配られた旅程表を見ると3泊4日だった。羽田と那覇空港間は飛行機、他はバスで移動だ。那覇で3泊することになっている。


「さてと、これが部屋割りだ。少し早いが同じホテルになるので決めてしまおう。3日間同室することになる仲間だ。オマエたちで決めてくれ」


と言うと、岡崎は教壇から降りて教員席に腰かけた。


「それでは、さっそく部屋割の方法について討議したいと思います。まず最初に」

「はい!」

「なんでしょう? キリュウ君」


手を挙げていたボクを委員長が指名した。


「やっぱり、わたしは男子部屋になるんですよね?」


≪おおお~っ!≫

≪やった~あ!≫

≪だめ~え!≫

≪そんなの認めな~い!≫


部屋中に歓喜と怒号が飛び交った。


「キリュウ。そのことならもう職員会議で決着済みだ。オレから答えよう」


岡崎が人差し指の先っちょで右目の横を掻きながら言い出した。


「キリュウは、女子部屋だ」


≪うわああああ!≫

≪よかった~あ♪≫


再び歓喜と怒号が飛び交う。


「でも、それって問題なんじゃ・・・まだ女の子と一緒に眠った経験なんてないんですよ?」


≪大丈夫よ!≫

≪キリュウ君自身が女の子なんだもの!≫


女子たちから一斉に声が掛かる。


「そうはいっても・・・まだ、男の身体の部分はあるわけで・・・」


≪きゃあああああ~♪≫

≪いやあだ~あ♪≫


女子たちが顔を赤らめながら黄色い歓声をあげた。それを横目に岡崎が厳然と言い渡す。


「反論は認めない。生活指導の三上先生、保健の水沢先生、ゴルフ部の大多先生の意見、それから2年女子たちからアンケートをとった上で、校長先生と教頭先生が総合的に判断した結論だ。それになにより、オマエのご両親の要望でもあるんだ」

「ウチの両親?」

「そうだ。アラシが男子と相部屋になるのはどんなもんだろうかってな。オマエもいろいろ言いたいことはあるだろうが、せっかく女の子になろうって努力し始めたんだろ?」

「それはまあ、そうなんですけど・・・」


王立女学院のときにも女の世界で暮らしたわけだが、地球の女子高生たちの話題は全然違うのだ。今現在、昼飯の弁当のときの会話ですらついていけてないのに、修学旅行中ずっと女の子たちと一緒だとなると相当に苦労するかも。カッちゃんとならゴルフやサッカーの話で盛り上がれるのに・・・。


「それじゃあ、部屋割りを進めます。え~と、お部屋のタイプは洋室4人部屋と5人部屋、和室が5人部屋と6人部屋ね。女子はキリュウ君を入れて全部で16人、同じ階で並んでとれるから和室にしたいと思います。いいわよね?」


≪さんせ~い♪≫

≪枕投げできるぅ♪≫

≪毎晩ガールズトークだね♪≫


「そうすると女子の部屋は、和室で5人+5人+6人ね。これはもう、くじ引きしかないでしょう。それじゃあ男子の方は残りの部屋で決めてください。副委員長、司会をお願いします」


ボクの意思とはまったく関係なく、ボクは女子として位置づけられてしまった。まあ、ボクは女の子なのだから当然なのだけど・・・。


とはいえ、楽しいはずの修学旅行も女子部屋で3泊するとなると気が重い。男子高校生としては大喜びしなくちゃならないシチュエーションなのだろうけど、今のボクは旅行中無事にやっていけるのかどうかで頭がいっぱいだった。






「カッちゃん。修学旅行に行ったら、わたしどうなっちゃうんだろう・・・」


部活が終わって帰り道、カッちゃんに送ってもらいながらボクは不安を口にする。


「今、アラシは女の子になれるかどうか試しているんだろ?」

「・・・うん。そうだけど」

「だったら、いい機会じゃないか。3泊4日女子の中で生活してみれば、いろんなことが見えて来るんじゃないのか?」


親友だからカッちゃんは、ボクの気持ちをちゃんと察して真摯に受け止めてくれる。

こんな身体になってしまっているので、ボクがセーラー服を着て女言葉で喋っていれば、他の人だったら一も二もなく女の子として扱うところだろう。

だけどカッちゃんは、ボクが女の子になれるかどうかを試しているだけで、中身は今でも男のままだということを理解してくれている。


「そうかもしれない・・・でも、不安なんだよね」

「不安? 例えばどんなことだ?」

「・・・お風呂」

「え?」

「カッちゃん、ホテルのパンフレット見た?」

「ああ。修学旅行用ということだが良さそうなリゾートホテルじゃないか」

「どんな館内施設があった?」

「岡崎も言っていた室内プールだろ、それからスパがあったっけな・・・あっ! 風呂だ」

「男子が部屋割りで激論闘わしている間、女子の方は部屋割り抽選会だったんだ。といってもわたしはクジ引かしてもらえなかったんだけど・・・。なにしろ初めから真ん中の部屋って決められちゃったから。わたしと同室になった女子は大喜びしていたな。それで、同室になれなかった子が可哀想だっていうことになって、女子は全員で大風呂に行くことって決まっちゃったんだ・・・」


≪むおっ!≫


「なあに? 今、なんかイヤラシイこと想像したんじゃない? ま、わたしも男だから、その気持ちは分かるけど・・・でも、こっちの身にもなってよ。これって相当に大変なことなんだからね」

「アラシ。オマエの心配はよく分かった。こりゃあ水沢に相談するっきゃないだろう。男の岡崎じゃあ頼りにならんものな」

「そうだよね・・・岡崎に言っても『よかったな! キリュウ、頑張れ!』って言われるのがオチだもの」


ボクは、いまどきの女子高生たちと3泊4日どう過ごせばいいのか、保険医の水沢に相談することにした。でも、その前にどうしても確認しなければならないことがあった・・・。






その晩、ボクは浴槽に浸かってほっこり身体が温まっていくのを楽しんでいた。

前にも母さんとふたりでお湯に浸かったことがあったけど、ウチの風呂は結構広くて充実しているのだ。洗い場には全身を映せる大鏡があるし、シャワーも水流調整のできるタイプが付いている。


女の子宣言してからというもの、ボクが自分でも身体を大切に扱うようになったので、母さんもボクがひとりで風呂に入ることには納得しているのだ。


よく泡立てた細かいシャボンで顔を洗い、丁寧に磨く様に身体をこすると、1日の間についた汚れが取れて清々しい気分になる。まだ髪だけは洗うのが面倒臭いのだが、ボクの髪質はとてもよいらしいので大切にトリートメントする。


よく女の長風呂って言うけれど、女の子はいろいろやらなければならないので大変なのだ。

以前は熱い風呂にザッと浸かるのが好きだったけど、この身体になってからはどちらかと言うと微温めの湯に長く浸かっている方が気持ちいい。そうか、それも長風呂になる要因だった・・・。


大分身体も温まり、筋肉もほぐれてきて、1日の疲れが消えて来た。


「癒されるなあ・・・さてと」


ボクは、おもむろに自分の下腹部に手を伸ばす。


「これをやるのは、ハテロマ競技大会のミスコンのとき以来だ。あの時は、裸の上に粗い網目で編んだ民族衣装を着なければならないので、これをやるしかなかったんだっけ」


睾丸を摘出する前は袋だったところの皮膚を手探りしながら探っていく。


「・・・えっと・・・このあたりにあるはずなんだけどな。何しろ星間ゲートを通過する際に素粒子レベルに身体を分解されてしまったんだもの。今回は再合成されたからいいようなものだけど、それでも左利きが右利きになったし、ホクロの位置も左右対称で入れ替わってしまったのだ。無くなっていたとしても不思議じゃない・・・!」


コリッとした突起を見つけた。


「あった・・・ということはこれと向かい合う位置に・・・凹側があるはず・・・見つけた!」


ボクの身体にヴェーラ博士が施した工夫は、しっかり残されていた。やっぱり凹凸が左右入れ替わっていたのだけれど、使用上で不具合はない。


ボクは、さっそく自分に残された唯一の男性の部分を、お尻の方に折り畳む。


「ここを押えておいて、皮で両側からソーセージクレープみたいに包み込む・・・よし・・・それで先ほど見つけた仕掛けをくっ付けると・・・」


≪プチッ≫


「しっかり固定できたみたい・・・後ろの方のも」


≪プチッ≫


「これでよしっと。これなら多分、隠れたはずだけど・・・」


ボクは、浴槽から出ると浴室の大きな鏡に自分の身体を映して確認する。膨らんだ淡い茂みの中に1本の筋が見える。


「・・・いい感じじゃない? これなら女の子たちと変わらないかも」


≪ガラッ≫


「!」

「アラシ。お片づけが済んだから、ママも入るわよ~♪」


と言いながら、母さんが浴室に入ってきた。


「お腹を痛めた母親としては、アラシの成長振りをこの目に焼き付けて置きたいのよね~って、アラシ! アナタのその身体! いったいどうしたの!?」


と言いながら母さんは固まってしまった。ボクの下半身から目が離せない様子で、瞬きもせずに見入っている。


「あ~あ。見られちゃったか・・・それじゃあ仕方ないよね」


ボクは、母さんにヴェーラ博士が施した工夫について、詳しく経緯から説明することにした。




「という訳でわたしの身体の中にこの仕掛けが埋め込まれているの。これだったら裸になっても女の子みたいに見えるでしょ?」

「ママ、とっても感動しちゃったわ! アラシ・・・アナタ、なんて美しいの? なんて綺麗なの? まるでヴィーナスみたい」

「・・・ありがとう」


実の母親に、女体となった裸身を見つめられ褒められている息子はどういう態度をするのが正解なのだろう・・・。


「まだ、アラシが女の子として生きたいと思うようになるかは分からないけど、その身体つきなら絶対男の子の部分がない方がいいわね! これでアナタが完全に女性の身体になったあかつきには、敵う女性なんて世界中どこを探したっていないわ。ママだって嫉妬しちゃいそうだもの・・・」


ううっ。実の母親に、女体化した身体を嫉妬されている息子っていったい・・・。


それはともかく、これで修学旅行のお風呂対策は整った。あとは同じクラスの女子たちと裸になることについて、ボクが心の整理をつけられるかどうかだ。

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