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Hero Swordplay Showdown  作者: 大虎龍真
終章:Into Free
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69 リング・オブ・ライフ




『スゴイんだよ! 画期的で、今までになかった魔法なんだ! 特に優れているのが安全性でね、ハーク達の使う分体の技術も流用して、一部を活用しているんだよ!』


『ふうむ。言葉から察するに、何がしかを呼び出す魔法かな?』


 まくし立てようとするガナハに、ハークはまず根本的な質問をする。


『あっ、そうだね。まずはそっちの説明からだよね! これはね、元々はヴォルレウスの過去の記憶を大元にしているんだ!』


『ヴォルの?』


『おう。って言ってもよォ……、概念的なモノっていうか、完全に想像上のモンだったんだがな。正に『魔法』っていうか……』


『ああ、旧世界の頃の知恵、というか知識か』


『そういうことだよ』


 ヴォルレウスは少し恥ずかしそうに肯いた。

 旧世界の頃の魔法というのは今の現実改変能力は全く無い、有用性皆無の完全なる想像上の概念でしかなかったからであろう。

 とはいえ、だ。同じく想像上の存在であった筈の、火を吹き大空を駆けるドラゴンを始めとした魔物たちが実在する今の世界においては、無用だの有用だの概念だろうと想像上であろうと運用してしかるべしの大切な要素の一つ以外の何者でもない。


『どういったものだったのだ?』


『聞きたいのかよ?』


 枕にわざわざ、という言葉を加えたいような意図を感じる。


『無論だ。ガナハ殿がここまで強い興味を持っておられるものを、儂も是非に知りたい』


『……そうかい? 別にそんな大したモンじゃあねえんだがな……。色々と細かい違いはあるが、大体が魔力を使って術者自身よりも強え存在を呼び出すんだ。神とか、それに準じた力を持つ魔物とか魔獣とかな。そして、一時的にとはいえ助力してもらうのさ』


『ほう。そう聞くと、陰陽道の式神を想起させられるな』


『あ~~、言われてみりゃあ……似てんのかな?』


『何がしかを対価に人間以外の存在を呼び出すというところだな。儂も門外漢で詳しくはないが、向こうの対価は形のある物品そのものであり、完全なる使役というところも違うようだが』


『へぇ……、なるほどな』


『ふむ。ということは、召喚魔法とやらはヴォルやガナハなど一部の強大な力を持つ者らの許諾を得ることにより、それら分体を術者が魔力を糧に呼び出して、力や知恵を一時的に借りることのできる魔法といったところか』


 ヴォルレウスとガナハ両名の眼が同時に見開かれる。ハークが『可能性感知ポテンシャル・センシング』を使った気配がまるで無かったからでもあった。


『驚いたな。相変わらず察しの良いことだぜ、ハークはよ』


『ホントだよね! この魔法のスゴイ所はさ、強力な魔法が無作為に広まるのを根本から防げる点にあるんだ!』


 ピンときたのか思うところがあるのか、虎丸が可愛く挙手を行う。


『発言をわざわざ儂に許可を求める必要はないよ、虎丸』


 ハークとしては笑うのを堪えたつもりだったが、右の口角が僅かながらに上がってしまっていた。


『はいッス! それってつまり、使用するにはまず召喚したい相手と実際に会う必要があるから。だからそこで、ある程度の危険思想の持主だとか、要注意人物を見抜いてそもそもの線引きが可能、ってコトッスね?』


『まったくその通りだよ、虎丸ちゃん!』


『けど、人間は変わるものッス。特に今の人間は千年生きることも珍しくなってきたッスよね? それだけの時間があれば、出会った当初から心根が随分と変化してしまうことも決して少なくないッスよ』


 確かに、であろう。ハークもそう思う。男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉があるが、これは良い意味で評価を改める必要性を説いている。ただ、人間というものは悪いことに成長だけでなく堕落もするものなのだ。


 これは、分体でとはいえ、一万年の長きに渡りハークの代わりとして断続的に虎丸が強い責任感の元に人々と向き合い続けた経験からの結実であると言えた。


『へぇ……、すげえな虎丸ちゃん。その手のツッコミはハークからだと踏んでいたんだが……、しばらく会わねえうちに見識を大いに広めた、ってヤツだな』


『しばらく……って、一万年経っているッスよ?』


 虎丸は誇るでもなく淡々と指摘する。

 ちなみに虎丸は一万年前と違い、相手がハークでなくとも例の下っ端言葉で話す。この方が相手に与える印象が良いからだそうだ。こういうところも、一万年で大きく変わった点であった。


『あ、そうだよな……』


『あはは、確かにね!』


『面目ねえな。まァ、けどよォ、そういった面にも対応可能さ。なにせ分体にも意識はあるんだからな、召喚される側の存在とそっくりそのまんまのよ。虎丸ちゃんだって、良く知ってるんだろう?』


『あ、そうか! 元々の存在が残虐な行為や無用な殺戮を好まないのであれば、召還を受けたとしてもそういった面での心配は全く必要がないってことになるんッスね!? 分体もそれぞれ独自の判断で行動ができるから!』


『ほう……。そういうことか』


『ああ。契約して召喚を受けたとしても、そこに絶対的な拘束力があるワケでもねえからな。ある程度は術者の願いに準じるようにはインプットしてあるが、自由意志も普通に介在するのさ』


『成程。確かに安全性において画期的な魔法だな』


 ハークも太鼓判を押すしかない。術者側のモラルに依存しない点は、非常に優れた点であると評価できるだろう。

 言わば、魔法自体が物事の善悪を自動的に判別可能かのようなモノなのである。危険な技術や魔法の元とならぬよう、伝える知識に苦慮していたエルフ族の成れの果てであるハークとしては感慨深いくらいな方法だった。


『だろう?』


『ただ、な……。この魔法は召還する者の倫理観には左右されないものの、される側の方にはかなり影響されることとなるのではないか?』


 幾分、気分の良さそうなヴォルレウスとガナハに水を差すような質問ではあったが、老婆心ながら敢えてハークは訊いてみる。


『ああ、解るよ。ハークが考えているのは、アイツ(・・・)のことでしょう? 心配いらないよ!』


『ほう』


『ガナハの言う通りだ。ヤツの近況はそのうち判るとして、予定通りにいっていれば、もうすぐハークに見せたかったモンがやってくる筈だぜ』


『予定通りに?』


 ハーク達一行は既に月の衛星軌道上のラインを通り過ぎている。この辺りから先は、今の人類にとって庭のようなものであった。

 ヴォルレウスとガナハが再び地球の方向へと顔を向けた。ただし、僅かに右へと視線が逸れている気がする。


『おう、見えてくるぜ。君らを呼び戻した理由がさ』


 そうまで言われては気になる。ハークも彼らの視線を追いかける形で眼を凝らした。暗い暗黒の宇宙に数個の明かりが見て取れる。更に普段可視化していない視覚に切り換えることで、それが巨大建造物の輪郭を示す灯火であると理解する。


『超巨大な……宇宙船、か?』


 先ほど見た太陽光発電用宇宙パネルに匹敵するほどの大きさであった。ハークの感覚はその背後に細かい意匠などが異なる同系艦が無数に続いていること掴ませる。大船団だ。


『木星圏での鉱物資源採掘はこのためか』


 空の彼方に浮かぶ計5つのパネルも相当な巨大さであることは今更言うまでもない。しかし地球、更にはその周辺も合わせればそれら鉱物資源を枯渇させてしまうほどのものではないだろう。

 先程述べたように木星圏は、地球周辺とは比べ物にならぬほどに危険地帯である。一万年という長きに渡って研鑽を続けてきた人類が、未だ超越者である龍の庇護を必要とするほどにだ。


『そうだ。危険を冒してでもこの大船団を完成させるために必要だったんだよ』


『移民……? いや、違うな』


 ハークは自身で発した疑問を己で否定した。

 これも先にある程度述べたように、今の地球圏と人の世界に行き詰まりや差し迫った危機などは全く無い。寧ろ、大きな余裕すらも維持している。

 他の場所に住む場所を移す理由など、今現在はどこにもないのだ。


『その通りさ。こいつは差し迫った危機に対応したものじゃあない。純粋な学術的興味に基づいた、調査船団さ』


『調査船団……? 待った、数にして数百万の気配がするぞ? 単なる学術的興味からこれだけの人員を……!?』


『ああ。確かに今は差し迫った危険はない。だが、遠い遠い未来は解らねえ。なら、今からやっちまおうっていうのさ。ハーク、君と同じだな』


『……そうか。もう追いついてきたか、人類は』


 感慨深いものがあった。

 ここまでで、ハークは己が地球に呼び戻された理由を悟っていた。が、それは確信にはまだ早かった。


『今日が進宙式だったんだぜ。感謝してくれよ? 彼女たちの晴れ舞台だったんだからな』


『彼女?』


 言われてハークは船団の最も先を進む艦の中に、良く知る者の気配を複数感じ取った。

 瞬時に透過し、フォーカスする。ハークの視界にはすぐに麗しき美女と、その傍らの存在が映し出された。


『まさか……、ウルスラに、日毬か!』


 ハークにとって忘れ得ぬ恩人にして絶対的な庇護対象が、進む先を希望に満ちた表情で見つめ、そこに居た。





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