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Hero Swordplay Showdown  作者: 大虎龍真
終章:Into Free
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68 古きもの、新しきもの




 つまり、ヴォルレウスの先の台詞、まずは決めていた通りに俺たちのことからだ、の俺たちとはハークらも含めた常識を超えた存在、言わば超常の者たちのことを指していた。


『どのくらい増えたのかね、今、我らと同じく生命の軛を突破した者は?』


 ガナハは勿体ぶることなく即座に返答した。


『ボクを含めて龍族が4、人間種が1で、合計5人だね』


『ほう5人か。わずか一万年でそれほどに』


 ハークは嬉しさを隠すことなく破顔した。一万年で5人が多いか少ないかは各個人の見解が分かれるだろうが、ハークにとっては間違いなく前者と思えた。


『あ~~~……、うちの娘を人間(・・)の範疇に留めていいかどうかは語弊があるけどなァ』


 ヴォルレウスがどこか申し訳なさそうに吐露した。


『いいじゃない。彼女は外見上だけじゃあなくって、内臓器官の働きまで全くの人間そのままなんでしょう?』


『でもなァ、構成している細胞の一つ一つは、そこらの龍族のものより強靭なんだぜ?』


『今では一国の中枢にて大切にされていると聞いておるよ。積極的に後進を育てているのだったか?』


『ああ。まァ、政治には直接関わっちゃあいねえんだがな』


『フフ、だが彼女の弟子たちのほとんどが実際の中枢を担っておるのだろう? 悩めば相談することもあるだろうからな』


『ムゥ……』


 一万年後の世界では、龍族と人間種は和解している。

 より正確な表現を行うとすれば、人間種と関わり合いとなる龍族の数が段違いに増えたと言うべきであった。その数、10や20の違いでは収まらない。


 そんな両種族の間を表向き取り持ったのが、今や龍の巫女とすら呼ばれる、ヴォルレウスの愛娘クロであった。実際に彼女が仲介することにより両者間が安定したのは確かである。だが、彼女はそう呼ばれることを嫌がって、現在は表舞台に姿を現さなくなっているらしい。


『まぁいいさ。他に、誰が?』


 予想はつくが、聞いてみる。


『アレクサンドリアとヴァージニアだよ!』


 矢張り、であった。

 つまりあの時、およそ一万年前に勃発した闇の集合体とハークとの最終決戦時に立ち会った者達、もしくは目撃(・・)していた者が全員軒並み己の限度を超えてみせたということである。喜ばしい限りなのは勿論だが、あの出来事によって言わば生命体としての危機感を強く抱かされた結果でもあろう。龍族に於いてアレクサンドリアに次ぐ年長者のキール=ブレーメンが、生命の限度を未だ跨いでいないのはこの証明でもあった。


『お二方はどこにおられる?』


 ハーク達は現在、月の衛星軌道上付近に位置しており、そこからゆっくりと地球に向かって真っすぐに近づいていた。この距離であれば、相手側がもし隠そうとしても良く知った者の気配を感知することは容易である。

 しかし、ハークの探知に彼女らの反応は無い。


『アレクサンドリアは火星、ヴァージニアは木星の重力圏だね!』


『火星は、いわゆるテラフォーミング中。木星の方は資源調達だ。木星の衛星から金属を運んでる。その人間たちを指導し、守護しているんだよ』


『ほう……。本当に今は人間と協力しておるのだな……。龍族の長自ら陣頭指揮を執っておられるとは』


『はは……。本人に直接それを言うと、そのように大げさな物言いをするでない、って睨まれちまうんだけどな』


『そう聞くと、何だかあんまり変わってない気がするッス!』


『ふふ、そうかも知れぬな』


 虎丸の言葉にハークから思わずの笑みがこぼれた。

 本当に彼女の言う通りだ。アレクサンドリアは誇り高く、何より責任感が強い。逆に言えば意地を張りがちでもあり、そうハークは思う。


『残念だったなァ、あいつら。今日、本当に帰ってくることが分かってたら地球に帰ってきてただろうによ』


『あはは、そうだね! 特にアレクサンドリアは、次にヴォルレウスと会ったらゼッタイ文句を言ってくるに違いないよ!』


 その場面を想像したのか、ヴォルレウスの表情がややゲンナリしたものへと変化する。


〈何か相談せねばならぬ案件でもあったのかの? ……いや、彼女はもはや龍族だけではなく、口では何と言おうと人間種全体をも統括する立場だ。元人間である儂に聞きたいこと、意見を求めるべき事案はそれこそ山ほどある筈か……〉


 ハークは自分の気の利かなさ、至らなさを痛感する。コレに関しては、何千年単位のブランク云々の話ではない。元々のものであった。


『火星は今、強力なモンスターの巣窟になっているって、知っているよな?』


『ああ』


 ハークは肯く。


『そっか。なら話が早えが、これはテラフォーミングを始めた当初、移動用に使われた宇宙船に魔物の肉体組織の一部が付着していたために、現在の地球よりも過酷な環境の火星に適応して繁殖しちまった結果だな』


 元々、魔物は旧世紀末期の実験によって偶然呼び出された遠い宇宙からの外来生物と地球の動植物が融合した結果生まれた生物である。この魔物の要素、いわゆる魔素に感染し、世代を重ねて受け継いだのが魔獣であり、この魔獣の遺伝子の一部を人為的に取り込んだのが今を生きる人間の元となった人々だ。当時の地球は生物の住環境として絶望的な状態にあった。その当時の地球より、火星の方が当然に生物にとっては余程過酷である。


 そして、そういった環境の方が魔物はより強く進化するのだ。

 このため、エネルギー問題としては無尽蔵にも近い現地調達としてのストックは得たものの、太陽系の岩石惑星でも指折りの危険な惑星へと変貌してしまったのである。


 魔族が滅びたこともあって、今や人間は龍族に次ぐ種族第2位の地位となった。集団としても、個々としても、だ。無論、個人差はあるが。

 しかし、呼吸する大気が無くとも戦闘が可能なほどに強靭な者はまだいない。

 居住区が襲われるなど、もし失えばリカバリー不能な事態に備えているのである。


『お陰で、以降はどんな小さな資源用ロケットでも細部までの確認、洗浄作業が必須になっちまったぜ』


『木星圏の方は……、ハークなら言わなくても解るかな?』


 ガナハからの問いにハークは即座に首肯する。


『うむ。地球圏に住む者たちにとって、木星圏から外側は外宇宙と変わらん』


『そうだね、その通り! ボクも行ってみたけど、ホントあっちは危ないよね!』


 木星はその質量と重力によって、誕生以来、実は自身より内側に太陽を回る星々をその身で護ってきた歴史がある。もし木星が無かったとしたら、地球に飛来する隕石の質と量は今の倍どころではなくなってしまい、生命の発生を妨げ、或いは発生した生命が充分に進化する前に絶滅を繰り返す羽目となっていただろう。


 言わば、木星圏は太陽系の防波堤なのである。当然にそこは、ただ生活しているだけで天変地異が振って来るような場所であったりする。生きるには超越者の保護がまだまだ必要なのだ。


『……ってかよォ、よく今日帰ってこれたよな。正直、俺らは無理だと思っていたぜ』


『ウン! そうだよね!』


 ヴォルレウスのいきなりな台詞にガナハが同意する。呼んでおいてやや無責任な物言いかも知れないが、彼らが虎丸を見つけて伝言を託したのが約120年ほど前なのだ。

 120年というと普通に考えればかなり長い年月だが、広大な大宇宙を移動する年数と考えたら大した期間ではない。


『急な話題だな』


『良いじゃねえか、気になってたんだよ。アレか? 結構近場をぐるぐる回るようにして、周辺の危険物を調査していたのか?』


『いや、儂と虎丸はこの天の川銀河の中心に向かって、ひとまず真っ直ぐに進んでおった。貴殿からの伝言を聞いたのは、……そうだな、中心部まであと5千光年といったくらいであったよ』


『何!? じゃあどうやって帰って……、いや、まずその前に銀河の中心部まであと5千光年って、ここから2万光年以上先じゃあねえか!! 計算が合わねえぞ!? まさか、速度の限界値である光速を遂に超えたのか!?』


 ここで虎丸が得意気に口を挟む。


『ふふふ、聞いて驚いて欲しいッス! ご主人はなんと、瞬間移動ができるようになったッス!』


『ええっ!? すごっ!?』


『マジかよ!?』


『それでは簡単に言い過ぎだ、虎丸。それに瞬間、とまでは言えん。敢えて表現するならば量子化加速移動、といったところであろうな』


『量子化加速移動?』


『ヴォルの言う通り、物体は光速を超えることができん。だが、物体の範疇にない量子の状態にまで変われば別なんだ』


『うわぁ、すごいね!』


『おい、ちょっと待った……。それって死ぬほど分裂、いや、分解してるってことじゃあねえのか!?』


 素直に感嘆を表すガナハと違って、ヴォルレウスはハークが言った事柄に対する危険性を逸早く感じ取っていた。この辺りは超越者としての一日の長とも言える。


『ああ、さすがだな、ヴォル。ご明察というやつだ。どうあっても死なぬことを利用しておる』


『えっ、そうなの!?』


『量子といったら、細胞どころか原子より小せえんだぜ? もう空間と同化しているようなもんだ。……そうか、物体じゃあなくなるから物理法則には縛られなくなる、っていうことだな? でもよ、えらく危険な技なんじゃあねえか?』


『無論だ。量子化後の再結合時はHPも魔法力も全てゼロからとなってしまう。つい先程まで死んでおったのだからな。解除した地点で危険な天体でもあれば詰みかねんよ』


『となると、知っている場所ならともかく、先に進むためには前方の脅威を確認できる位置までが限界ってことか』


『そうだ。おまけに極限までバラバラになった肉体を再構成し直すのは非常に手間だし、各部位の位置をほんのわずかに誤るだけでその箇所を丸ごと失いかねん』


『うお、マジか』


『ああ。だから貴殿らにはまだ教えられん。下手に使用すれば数百年から数千年単位で再受肉の必要が出てくるぞ』


『うへえ、自分で自分を封印しちまうようなもんかよ』


『なぁ~んだぁ~。残念』


 ガナハは本当に、至極残念そうに語る。確かに一瞬で好きな場所に移動できるのは人間だけでなく、全ての知的生命体にとっての夢のようなものであろう。まだまだ自由自在には程遠いが。


『さてと、それじゃあ次はボクたちの番だね! ボクたちだって何もしていなかったワケじゃあないよ! 君らの分体を基礎に新たな魔法を生み出してみたんだ! 名づけて、召喚魔法だよ!』


『召喚魔法?』


 ハークにとってみれば不思議な単語であった。





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