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Hero Swordplay Showdown  作者: 大虎龍真
終章:Into Free
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67 一万年後の、帰還②




『なんだ、ハークともあろう者が気づかなかったのかよ?』


 ヴォルレウスが勝手なことを言う。


『儂とて常に『可能性感知ポテンシャル・センシング』を使用している訳ではないぞ』


『そりゃ分かってるが、ハークだったら……と思ってなァ』


『……ヴォル、前にも言ったが儂を全知全能扱いするのはやめてくれ』


 ハークの苦笑まじりの台詞に、ヴォルレウスも同じ表情で返す。


『だったなァ。ンで、一万年ぶりの地球はどうだい? けっこう発展しているだろう?』


『ああ。見違えたよ。だが、変わらぬものもあって、安心もしている』


『そうか』


 語り合い笑う2人の隣で、別の2人も言葉を交わす。


『見違えたッス! ガナハのおねーさん、随分印象が変わったッスね!』


『そうかなぁ。変わったのは服装くらいだと思うけど?』


 ガナハはサマードレス風の服の裾をつまみ上げた。龍麟が凝縮されたものにしては滑らかで柔らかく見える。


『はは、毎日見てる者とそうじゃあねえ者との違いだな。俺もそんなに変わったとは思ったことなかったよ』


『随分と大人びた印象、といった感じだな』


 ハークの記憶の中で、ガナハの人化形態の姿は外見上成熟してはいても拭いきれぬ少女感ともいうべき内面の幼さ、無邪気さというものが現れ出でているように感じられた。

 しかし今は、紛うことなき大人の魅惑的な淑女、といった雰囲気をその外見から醸し出している。


『あはは、だとしたらボクも成長したってコトだね!』


 ガナハは屈託なく笑った。

 だが、本当にそうなのだろう。龍族が人化した姿はその存在が人間として産まれた場合の姿そのままある。その外見に変化があったということは、彼女の言う通り成長があった、せざるを得なかった過去の証明に他ならない。つまり、彼女も色々あったのだろう。


『うむ。我も見違えたぞ、ガナハ。どうやらお前も、生物としての限界を突破したようだな』


『え!? この声、エルザルド爺ちゃん!?』


『うむ、我じゃ。本当に久しぶりじゃの、ガナハよ』


 懐かしき声を聴いた所為か、ガナハの表情が子供のように感じられるものへと変わる。先程といい、あまり本質までは変わっていないと思えた。


 千年から一万年くらいの間でハークの意識の中に融けると言われていたエルザルドであるが、予定の期間を過ぎても未だ存在したままである。

 これはしぶといなどの理由ではなく、ハークの意図的な処置の所為であった。


『苦労をかけたようじゃな。だが、元気そうで嬉しいぞ』


『ボクも、爺ちゃんにまた会えて嬉しいよ!』


 溌溂とした笑顔を、ガナハは見せる。

 前述の通り、そのままであればエルザルドはハークに全ての持てる知識を移した時点で、彼の中に溶け込み吸収される筈であった。

 しかし、ハークはこれを寂しく思って、3人寄れば文殊の知恵という言葉を隠れ蓑に、自分から離して『天青の太刀』の()にエルザルドの意識を移す選択を実行したのである。


 どうしても2人だけの遥かな旅路を寂しいと感じてしまう、人間の頃の残滓がハークにもまだまだ存在している証左とも言えた。


 とはいえ、である。あれほどに満面なガナハの笑顔を見れるならば、あの時の選択も間違っちゃあいないと思えるのだった。


『さて。では、ヴォル。我らを呼び戻した理由を聞かせてくれないか?』


『おいおい、もう本題かよ? 久しぶりに会ったんだぜ!? なんせ一万年だ一万年。もう少しゆっくりよ、お互いの近況っつーか今までの状況でも伝え合ってさ、こう、旧交を温め合うってェのが筋じゃあねえか?』


『む』


 確かにそうかも知れない、とハークも言われて気づく。


『そんなに急ぐ旅路でもねェだろうよ。さすがのハークも万年過ぎて、せっかちになっちまったのかぁ? それともよ、あんまりにも宇宙生活が長過ぎて、人の世の機微ってヤツがすっかり抜けちまったか?』


 ひどい言われようだが、だいぶ的を射ていた。

 後半の指摘は特に、である。何しろハークは直近の2千年間、相棒の虎丸以外はまともなコミュニケーションどころかコンタクトすら取っていなかったのだ。


『ふむ。では、ヴォルにガナハ殿。しばし儂のリハビリにお付き合いをいただけるか?』


『おうよ!』


『モチロンさ!』


『まずよ。今の人間の世界が5つの国家に分かれているのは知っているんだよな?』


『ああ』


 ヴォルレウスは、ハーク達が分体を駆使して故郷の情報を定期的に仕入れていることを知っている。

 そもそも虎丸の分体を自力で発見することに成功し、伝言という形で今回の一時帰還を促したのはヴォルレウスなのだ。

 ただ、その伝言が、今帰ってこなければ後悔するぞ、という些かに脅しめいたものではあったのだが。


『んじゃあ、まずは決めていた通りに、俺たちのことからだな』


 ヴォルレウスの言葉に、ガナハが朗らかな表情のままで首肯した。


『ウン、そうだね! 虎丸ちゃんの分体は、主に人間世界を旅する形で情報を得ているんだよね?』


『そうッスよ! ひとっところに留まっていると、色々と疑われちゃうッスから! いくらエルフが増えたとはいえ、ッスね!』


『寿命とか無いもんね。じゃあ、ボクらのことは話に聞いただけなんだよね? 実際に見ると聞くとじゃあ大違いだよ。丁度、もうすぐ見えてくるだろうしね!』


 ガナハが後ろを見やすいようにと身体の向きをハークに対して横に変えた。そうしてから片手をかざした指の先には、自転する地球がある。


『丁度?』


 ハークが聞き返すとほぼ同時に、回る地球の輪郭線に奇妙な突起物が現れた。

 当然に、地球の大地には数々の山があり、これも突き出た面とすれば突起物と言えるのかも知れないが、地球の大地を一つの画角に収められる距離からではほぼほぼ判別不可能である。麗しくも蒼き星を彩るささやかな模様に映るのみだ。

 しかしながら、それは肉眼ですら充分に判別可能な大きさだった。


 地上にも先の太陽光発電パネルのような超巨大建造物が存在しているのかとハークは思うも、太陽の光によって照らし出された全容に確かな見覚えがある。


『巨大な……龍? まさか、あれがロンドニア=リオ殿、か?』


『うっわぁ~~~! 大きい大きいとは聞いてはいたけど、ホントに大きいッスね!』


 知識としては持っていた黄金色の巨大龍。ハークが地球を離れる時点で最も単体で巨大な生物であったそれは、健在どころか更に群を抜いて成長していた。

 月から可視化可能な物体の限界は大体100キロメートル前後であるらしいが、匹敵するどころか勝るとも劣らぬ程である。だからこそ、即座に気づけた。


 一万年前も一つの街を覆うほどであったようだが、今では小さな国を丸ごと包んでしまえるくらいである。四ツ足で姿勢を低く保っているから良いものの、首だけでも上に伸ばせば頭はすぐ成層圏に達してしまうだろう。


 さすがに驚きがあった。更に巨大になったと聞いてはいたのだが、さすがにここまでとはハークも予想だにしていない。何でもかんでも『可能性感知ポテンシャル・センシング』を使用するクセをつけると思考能力がだんだんボケていってしまうのを防止する処置が、良い意味で思わぬ誤算となって自身に還ってきたような形だった。


 そのロンドニアと眼が合う。地球の全長を遥かに凌駕する距離だが、驚くべきには値しない。

 彼も眼の前のガナハ達と同じく、既に生物の限界、地球で生まれ育った者の頂上の先を乗り越えているのだから。





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