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Hero Swordplay Showdown  作者: 大虎龍真
終章:Into Free
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66 一万年後の、帰還




『おお』


 自らくりぬいた隕石の外に出て、ハークはまず感嘆の声を漏らした。

 虎丸の記憶からある程度の状況は知識として持ってはいるものの、実際に自分の眼で拝むのとは大違いである。


 澄んだ青を基調とした柔らかな光はそのままだ。この光景だけでも懐かしさでハークの感動を誘う。が、今はこれだけではない。


 星の片側、太陽から見て裏側であるそちらは、陸地の一部分がきらきらと自ら光を放っていた。街が存在する場所だろう。それが、幾つもバラバラに点在していた。

 夜でも明るさが保たれているのだ。こういった場所は旧世紀でもごくごく限られてはいたものの、一応は存在していた。しかしそれは、星の内部に貯蔵されていたエネルギーの塊を、残量すら把握せぬままに消費する代償に得られていたものであった。


 つまりは有限の、言わば仮初の輝きであり繁栄であったとも言える。

 だが、今はそんなことはない。

 視線を移せば地球の周りには、一つの大きさがかつての闇の集合体と幅だけは同じくらいの巨大な鉄板のようなものが10枚、2枚一組の計5組で浮いている。そして、それらはそれぞれに宇宙ステーションと連結されているのだった。地上からであれば高度の関係から月と同程度の大きさに見えることだろう。


『あれが、5つの大国が持つエネルギー生成用の衛星ッス』


 虎丸がそう説明してくれる。


 結局、一万年経とうが人類は一つにまとまらなかった。

 現在の地球の大地は5つに分割されてそれぞれに統治されているようなものであり、まだまだ小さな国家も幾つか残存している。

 しかし、ハークは安定さえしていればそれも良いと思う。国家の数が減ればその分、国家元首の数も減る。当然に、取り巻きの数も同じだ。


 国の数が減ってもポストの数は維持できるなど幻想であり、詭弁の類だ。最終的な責任は運営の面から考えてもどうしても個人が負う必要がある。でなければ急を要する事態への対処が致命的に遅れてしまうからだ。である以上、同じポスト何人分を用意しようとも最終的な指示を行った者以外はお飾りであり無駄でしかない。何なら決定を鈍らせる障害とも化すであろう。


 平時とて、部下の混乱を助長する。

 意見や考え方、思想が違うことは本来、悪いことではない。が、全く同じ立場の人間が全く別の指示を出した場合、部下はどちらを優先すべきか判断を迫られることになってしまう。ここまで来ると弊害と表現して良いほどだ。


 むしろ分割された方が責任の大きさも分けられて丁度良いくらいになる、そんな効果もある。

 人間全体の命運を自分が一手に引き受けてまったと勝手に思い詰めた挙句、誰かが人類の業を背負わなければならないなどと言って暴挙を行う必要もなくなるだろう。


 関係が相互という形で構築できてさえいれば、特に問題は無いものだ。無理に全てを一つにする必要は無かった。

 実際、ここ2千年あまりは大きな人類間の問題はほとんど起こっていない。ハーク達が地球を離れたばかりの頃とは雲泥の差である。今は問題が起きたとしてもハークたち超常の存在が手を出す必要は無く、彼ら自身で全てを解決していた。


 おかげで、ここ最近のハークは情報収集を虎丸の分体に任せっきりで、自身の分体を起動してもいない。つまり状況は伝聞してはいても経験はしていないのである。この違いは大きいものだ。


『あの10枚のパネルで、人類全体が使う電力をすべて賄っておるのだったな』


『そッス! 理論上は、ッスけどね』


『理論上? 実際にはまだ足りぬのか?』


 虎丸は手と顔を横にブンブンと振った。


『違うッスよ! 地熱や水力の施設もまだ地上に残っていて、そっちも現役で使っているッス! だから、完全に100パーセントってワケではないッス!』


『成程。そういうことか』


『電力転送用の法器もまだ余すところなく全部100パーセント送電、ってコトでもないみたいなんで、まだまだ改良の余地ありって聞いたッス。それでも現状で、全力稼働すれば今の全人類の150パーセント分までは賄えるらしいッスよ!』


『むしろ、充分に余っているのか』


 良いことだ、と思う。


『今や食糧生産にも電力ッスから、アレがある限り、もう人々が飢えることはないと言えるッスね!』


『はは、そうかも知れんな』


 現実はそうそう甘くはない。不測の事態は常にあらぬ方向から不意をついてやって来る。油断すれば、死神はすぐ隣に訪れるのだ。それがこの世界の非情さでもある。

 想定の範囲外だった……、未曾有の……、起きてみれば脆い……、想像力が足りていなかった……、この反省を次に……、そんな弁を幾度聞いたことか。そして、同じような台詞を何度吐いたことか。


 だが、もう彼らは違う。生き物のように余剰を常に備え、完璧というものが存在しないことも知りつつもそれを目指している。


 実際、あれに連結されている5基の宇宙ステーションには整備、修繕、特に魔力を送って補強を常に交代制で行い続けるための人員が大量に常駐している。彼らの家族まで含めると1基につき、それぞれ100万人が住み、生活しているらしい。つまりは、かなりな規模の大都市が5つ宇宙に浮かんでいることになる。


 そして彼らは、全員エリート中のエリートであるらしい。外で作業を行う際は人間を十倍にした機械の巨人のような見た目の、これはゴーレムの技術を発展させたものであるようで、それに乗り込むのだが、もし無くとも24時間、則ち丸一日くらいは呼吸さえ確保できるのならば生命維持に問題は無いという高い生体レベルの持ち主ばかりとのことだ。これであれば、何かあったとしても救助が間に合う。具体的には生体レベル50超からであるらしい。


 そんな彼らが全力で護る施設はどれも、注視すべきほどの速度ではない宇宙から飛来物、いわゆる普通(・・)の速度で飛んでくる石ころ(・・・)程度ではびくともしない。

 だからこそ安心して行かせられるのである。


 この60日間、家としていた隕石の上に立って地球を眺めていたハークと虎丸は、視線を合わせてから同時に両足を離す形で離脱した。


『ばいばい、ッス』


 ほんの少しだけもの悲しさを含んだ虎丸の声が伝わる。蒼い星に向かって消えゆくそれに、小さく手まで振っていた。

 その姿を見てハークは、虎丸の人間的な情緒の成長を実感するが、別段、今回が初めてではない。


 これと同じようなことを、広い宇宙を旅する中で2人は定期的に行っていた。

 宇宙というものは極端なもので、戦闘であれ何であれ何がしかの事が起これば地球時間で数日、場合によって数年間かかりっきりになる反面、特に何も起こらない時はそれ以外の時の何倍、何十倍何百倍何千倍も長く続く。

 この間、ずっと飛んでいるだけであればハーク達は特に疲れもしない。


 しかし、精神的には疲弊する。これは地球で生まれた生物の名残とも言うか、弊害とも言える現象だった。

 長期間、何も無い空間をただ進み、身体に何も触れないというのはハーク達であっても多大なストレスになったのである。

 どんなに雄大な光景であっても慣れれば同じことであるし、移動するだけの暇な空き時間となってしまうものだ。だが、何よりも壁が無い、横でも下でも何も無いという方が彼らにとって問題であり苦痛であった。これに気づいてからのハーク達は時々、岩石惑星を見つけてはちょくちょく立ち寄るようにしたものの、地面は岩だらけの殺風景、大抵の空は今までと変わらぬ真っ黒であり実際はあまり気の休まるものではない。更に当然、休息中はその星に留まり、旅も中断ということになる。


 そこでハークは、今回のような小さな宇宙に漂う岩石に細工をして、即席の家、兼宇宙船と仕立てるようになったのだ。

 なので、今回のも全く初めてではない。数年ごとに行っていたので、数えればもう何百代目といったところである。


 ただし、60日間も籠ったのは本当に初めての経験だった。あまり速くては地球の人々から危険物と認識されて対処されかねないし、人型そのままでは更に問題だ。もし移動中に発見されでもしたら大混乱を巻き起こしてしまう。それくらい今の人類は太陽系内に根を張り、点在している状況なのだ。だからこそ60日も岩の内部で大人しくしている必要があった。


 とはいえ、その期間の長さの分、情が湧いたのだろう。手を振って見送るなどは初めてのことだった。

 既に内部の様々な生活用品は始末してある。このままいけば何にも接触することはなく、地球落下軌道に乗って大気圏内で爆発四散し跡形もなく消えることであろう。


 と、その岩石が地球の重力に掴まったところで、地上から視線を感じた。


〈ヴォルレウスか〉


 ハーク達を今回、呼び戻したのは彼だ。一番に気づいて当然だろう。

 見上げると、彼は即座に飛翔する。ハーク達に向かって本当に一直線であった。まるで一万年前のあの日と状況が一緒であると気づき、ハークは懐かしさを覚えて微笑する。


 が、一つだけ違う点もあった。傍らに何者かを伴っていたのだ。

 前回を上回る速度でこちらに近づいてくるヴォルレウスとその何者かは、待つ暇すら与えることなくすぐにハーク達の眼前に到達した。


『よぉ、ハーク。虎丸ちゃん』


『うむ。久しいな』


『……誰ッスか?』


 挨拶も吹っ飛ばして虎丸の第一声がコレであった。

 だが気持ちは解らないでもない。ハークもどこか見覚えがあるのだが、確証が全く無かった。

 赤い甲殻の龍人形態を解除したヴォルレウスが全く変わらぬ姿の一方で、傍らは魅力的な青い髪と同じ色のサマードレスに身を包んだ美しくも成熟した人間種の女性に見える。


〈青い髪か〉


 これだけがハークの心に引っかかった。

 と、いうのも、一万年経って人類は髪の色が大幅に増えたものの、まだ青い髪は誕生していないのだ。無論、染めれば良いのだが、(つや)やかで(あで)やかなそれは生来のものにしか見えない。


『ボクのことが解らない?』


 すると、その女性が落ち着いた雰囲気を崩すようにして笑ってみせる。

 悪戯っぽい笑みと、その言葉遣いでハーク達はいっぺんに気づいた。


『まさか、ガナハ殿か!?』


 もう一度、その女性は肯定という意味の微笑みを見せた。





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