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59 後編22:END of GAME




 全長100キロメートルを超える超巨大物体が、ついさっきまですぐそこに存在していたとは思えぬほど綺麗さっぱりと消え去って、同じ時間帯に天空の彼方に立ち昇る光の柱が地上からも見えたことだろう。

 目撃した人々はこの日の光景を語り継ぎ、幾世代にも渡って議論を行うことになる。何十年、何百年と。或いは数千年の長きに渡って。


 いつしかそれは、宇宙(そら)への興味となって、彼らを誘うことだろう。


〈楽しみなことだ〉


 宇宙への純粋な学術的研究というものは、人類の発展と平和の象徴である。ある程度以上の余裕が人類全体になければ、貴重な知識層の上澄み中の上澄みを直接的な利益を生み出さないような研究にいつまでも従事させておくなどできないからだ。


 そして、ここまでに達するということは、人類全体の余裕という意味でも文明段階がまた一つ進展したことも表していた。

 そのまた先の一つ上の段階に人類が発達するにはまた何百年、何千年、或いは万を軽く超える年月が必要となるかも知れないが、最早今のハークにとっては時間など些細な問題であるし、一体どれくらいかかるのかと気長に待って答えを確かめるのも良いものである。


〈おっ〉


 ここで相棒の虎丸が引き連れる形で、今回の事の詳細を知る言わば歴史の証人となるであろう龍族たちがハークに近寄ってきていた。待ちきれなかったのだろう。

 最初に語りかけてきたのはヴァージニアであった。


『ハーク、闇の精霊……集合体は……』


『全て消えたよ。ひとつ残らず、綺麗さっぱりとこの世からな』


 ハークの返答にヴァージニアは胸を撫で下ろす仕草をする。

 彼女の動きが一々人間くさいのは生まれ育った環境もあるのだろうが、何より龍族が一万年前にその当時の人間から枝分かれした種族であるからとも考えることもできる。


 彼女に続き、アレクサンドリアの威厳を備えた口調が響く。


『将来への禍根がまた一つ解消されたか……。ハーク殿には感謝しかないな』


『では、パース=キャンベラ殿にも、同等の感謝を』


『む?』


 疑問を顔の表情で表すアレクサンドリアに対し、ヴァージニアがフォローに回る。


『闇の集合体を残らず全て消し去ることができたのは、彼が中枢を務めてくれたから、だということ?』


 ハークはコクリと肯く。


『その通り。加えて言えば、彼が対ヴォルレウスを考えてここ(・・)まで追いかけてきてくれなくては、儂はあそこまで力を振るえなかったでしょうな』


『え? どういうこと?』


 ヴァージニアは自身の息子の名が急に出たことでも驚きを示した。逆に、第三者であるアレクサンドリアは察しが早い。


『む、そうか。ハーク殿が最後に使用した技、最終奥義と申されたか? あれを地上で放てる訳がない。そういうことですな? いや、先程ハーク殿がご披露されたありとあらゆる技巧が、どれも地球上で実行するには危険過ぎる代物だ。海が割れ、大地が避けるどころではない。今シュミレートしてみたが……、大地は砕けてひっくり返り、海が沸騰しかねん、か』


『……私も凄い結果が出たわ。地球環境がガラリと変わっちゃうわね』


『それは向こうも同じ。あそこまで巨大な集合体では、地球に重大な被害を及ぼさずには戦えない。更に同じ程度の実力と戦闘をすることとなれば、加減もままならぬでしょうな』


『なるほど。元々あやつはハーク殿ではなく、対ヴォルレウスとの戦闘を想定しておったのでしたな。……とすると、あやつ……!』


 ヴァージニアも同じく気づきを見せた。


『まさか、あいつ……、事前にヴォルレウスの居場所を把握していたの……!?』


『うむ、そうであろうな。我らがこの場に到着した頃には既に戦闘が始まっていたことから考えても確実じゃろう。ヴォルレウスに対しては弱点(・・)も含めて、あれの性質をよくよく把握済みであったようだしの』


『……確かに。でも、そういうことならあいつ、どうしてあの子の不意を突こうとしなかったのかしら……? 機会など幾らでもあったでしょうに!?』


 答えはハークが語った。


『決まっておる。地球を過度に傷つけたくなかったのですよ。ヴォルともし地上でやり合ったとしても人間種を絶滅、もしくは絶滅寸前にまで追い込むことは可能だったでしょう。しかし、それでは別の種族にも甚大な被害を与えることになる』


『あやつも、自分の生まれた星を愛していたということか……』


『そして憎んでいたのは人間種だけ。でも、広義の意味で語るなら我々も同じ人類、だったなんてね……』


『ねぇ、ハーク……?』


 ここで、今まで黙していたガナハが発言を行う。


『何か? ガナハ殿?』


『パースは……、あいつも、あいつの魂も跡形なく消えちゃったの……?』


 つい先程までパースをエルザルドの仇として殺意と憎悪を痛烈に向けていたというに、もうその相手の行く末を気にかけている。


〈優しいな、ガナハ殿は〉


 心より思う。本当に優しい者とは自身への損得勘定抜きに他者を思い遣れる者なのだ。


『大丈夫だよ、ガナハ殿。…………』


 ほら、そこに。と伝えようとしてハークは止める。自分以外にはまだ見ることはできないからであった。


『魂は無事だ』


『えっ!? 本当!?』


『ハーク殿のお言葉だ、疑いたくなどないが……。妾もにわかには信じられん』


『当然でしょうな。通常であれば闇の精霊の寄生からは逃れられん。たとえ魂となっても、だ。しかし、残らず全ての破壊に成功したことで、どうやら本当にギリギリで魂の歪みは食い止められたようです』


 実は、ある一定の大きさより下であればあるほど、破壊というのは難しくなっていく。逆なようにも思えるが、生物とて一見脆弱そうな小さきものの方が温度変化、毒や劇物に対して強靭であったりもする。

 破壊とは言わば分断、分割なのだ。元々小さなナノマシンから進化した精霊は、これ以上の分割が適わぬほどの極小さである。最大出力が発揮できたからこそ消滅できたのだった。


 ハークは続ける。


『無論、死によって記憶は完全に失うでしょうが……。敵対したとはいえ、彼もこの星の行く末を真剣に考え、自らを顧みず行動した言わば儂の同志。救える確率は決して高くはなかったのだが、運が味方したようですな』


『ありがとう、ハーク』


『礼を言われるほどではござらんよ、ガナハ殿。結局、儂も彼を殺すしか手が無かったのだからな』


『いいえ、パースに関しては、……私が語るべきではないのかも知れないけれど、辛い記憶を有したままで生きるよりも、失ってしまった方がずっと幸せなのではないかしら』


『ヴァージニアに妾も賛成じゃ。幼年期の過去もそうじゃが、何より同胞を奸計により手にかけた事実の方があやつにとって己を苛む記憶となるであろうからな。改めて妾からも感謝申し上げる、ハーク殿』


 ハークは手を振る。


『いや……、しかし、致命的ではないとはいえ、歪みはありましたからな。次の転生は2千年からそれ以上先となりそうだ』


『2千年より先か。今度こそあやつに苦労はかけたくないな。我ら龍族も、そろそろ若いやつらの安全と教育を整えるシステムの構築に着手するべきじゃな』


『そうね』


『賛成だよ!』


 アレクサンドリア、ヴァージニア、ガナハの様子に、次のパースの転生は幸多きものとなることを確信し、ハークは安堵した。


『ところでハーク殿。1つお聞かせ願いたいのじゃが……』


『ん?』


 急にアレクサンドリアの眼力が増した。

 今まででも充分に真剣な話をしていたというのに、更にである。だからこそハークは訝しがった。


『貴殿はこの後……どうされる、いや、どこに行かれるおつもりか……!?』


『ぬ?』


 質問に一瞬だけ拍子抜けしてしまったが、よくよくと改めて相手の立場となって考えてみれば、確かに重要な懸念事項である。


〈そうか。もし未来のどこかでボタンが掛け違えば、今回とは逆に儂が彼女たちの敵となる可能性もある。そう考えたのだな。今の儂の力は龍族全体であっても対抗し得ぬほどだ。その儂の動向を今の内に把握しておきたい、というのはこれから同胞をまとめるべき彼女にとっても極めて重要であるということか〉


 得心したハークは、先に虎丸に対して話した内容と似たようなことを伝える。


『心配は要りませぬ。この先、地上に戻る気はござらん』


 その瞬間から3柱が結託したように、考えを改めるよう迫られることとなるのだが、最後にはハークがもう地上で力を振るう訳にいかなくなったと納得し、引き下がってくれるのではあった。




   ◇ ◇ ◇




 3柱が虎丸の作った空気層に乗って、ゆったりと地上に降下するのを見届けてから、しばし2人だけの時間が流れる。その短い時間の後に、虎丸から改めての念話が寄越された。


『大変だったッスね、ご主人』


『ん? まァ、少し、な』


 これはパースとの最終決戦ではなく、直後の話し合いに対するものだった。

 実際は言えるほど少し、ではなかった。強硬に反対するガナハとヴァージニアを何とか説き伏せ終わったと思ったら、今度は何故かアレクサンドリアがハークについてくると言い出したのである。


 今の生命としての段階を突破したハークと虎丸に並行するのは、いくら最強の龍族であっても至難であるとどうにか諦めてもらったものの、これには結構な時間を要した。


『アレクサンドリア殿、かなり食い下がってきたッスよね』


『ああ、そうだな。確かにあれは、儂を間近で監視したいという、執念みたいなものを感じさせられたな』


『……ご主人、きっとそういうことじゃあないと思うッスよ……?』


『ん?』


『イヤまぁ、今は良いッス。ところでご主人、これからどこに向かう気ッスか?』


『ふむ。まァ、ちょっと待ってくれ。どうせ話すならば彼も加えたい』


『彼?』


 虎丸は首を傾げた。あの3柱の中のどれかを呼び戻す必要でもあるのかとも思ったが、()に相当する対象がいない。

 そんな戸惑いを見せる虎丸に対し、ハークは悪戯っぽい笑顔を見せた。


『ああ。そろそろ姿を現してくれるか、ヴォルレウス!』


『ヴォルレウス!?』


 虎丸が驚きの言葉を発したとほぼ同じタイミングで、空間から粒子が集まるように、最後に消えた際の光景を逆再生させたかのように筋骨隆々の巨漢がハーク達の前に姿を現した。





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