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28 中編13:バレット・モンスター②




『我が轟炎にて燃え尽きるがよい! 『龍魔咆哮(ブレス)』!!』


 ボォオオオオオオオオオオオン!!


 輝く爆炎が紅蓮龍の口より発せられる。

 本気で放ったのだろう。成す術なくマトモに受けた正面の一体は灰と化して消し飛び、周囲の5体をも巻き込んで半身以上を焦がす。

 火力は明らかにエルザルドのものよりも高かった。

 だが、ハークが真に感心したのはそこではない。


『彼女、戦い慣れておるな』


 ハークはそうエルザルドに念話を送る。


 アレクサンドリアは『龍魔咆哮(ブレス)』を放つ瞬間、逆制動を一切かけなかった。無論ワザとである。

 敵は集団、一糸乱れぬとまではいかぬとも隊列に似た行動もできていた。その中で彼女は僅かに突出した先頭の魔物に攻撃を仕掛けている。

 つまりは敵の集団に対して文字通り手を突っ込んだ形となった訳だ。普通なら周囲の敵から袋叩きの目に遭うだろう。

 が、しかし彼女は、地上ならば両足を踏ん張り空中ならば翼をはためかせるところを敢えて行わず、強烈な『龍魔咆哮(ブレス)』の反動によって後方へと下がったのである。


 これによってアレクサンドリアは危険域を無傷で脱出。しかもあわよくば、自身を狙いにくる他の弾丸の魔物を、より数多く『龍魔咆哮(ブレス)』に巻き込む算段であり、その目論見はものの見事に成功していた。

 加えて、位置が下がることによって射角を広げてもいる。弾丸の魔物たちの反応が今一歩()ければ、更に多くの敵を巻き込めたに違いない。


 実に理に適った行動だ。参考にしたいくらいである。


『うむ。アレクサンドリアは若き頃、かなりの武闘派であったからな。戦闘経験に於いては、生前の我も及ばぬよ』


 確かに、元々のセンスも多分に持ち合わせているだろうが、多くの実戦で培い昇華したであろう的確で淀みの無い攻撃だった。

 自身の耐久力を信頼してもいるのだろう。危険を当然に伴うとしても、成功報酬は大きい。


 彼女が撃ち込んだ(くさび)、敵陣営に開けた大穴を更に広げるべく、大小2体の龍が続く。ヴァージニアとガナハである。


『『尾旋槌(テイルハンマー)』!!』


 アレクサンドリアの体躯にも劣らぬその巨体を、ぐるんと一回転させて勢いをそのまま利用したヴァージニアの尾の一撃が、全身の60パーセント近くを焼かれて怯んだ敵の躰を粉砕した。


『『両翼斬突(ウイングスラッシュ)』!!』


 そして前の2体を追い抜く形で、ガナハがアレクサンドリアとヴァージニアのそれぞれに最も近い位置にいた、同じく半身近くまで焼かれた弾丸の魔物2体を、闘気を籠めた翼ですれ違いざまに斬り裂いた。


 悲鳴も発すること無くアームごと本体の大部分を分断されていても、通常の生物とは内部構造が異なるのであろう。弾丸の魔物はしぶとい。

 体積を半分近く失い、残った躰の体表もほぼ全てが炭化していてなお襲いかかろうとするが、彼らの命運をアレクサンドリアの魔法が終わらせる。


『焼け焦げ、爆ぜよ! 『灼熱地獄インフェルノ・フォール』ッ!!』


 彼女の巨躯に迫る大きさの火球が放たれる。大破状態の2体をあっという間に焼き尽くし蒸発させ、続いて付近の敵を次々と呑み込んでいった。


 存在する属性魔法の中で威力随一の火炎系最高魔法を、最強のドラゴンが使うとどうなるか、という証明かのような威力である。地上で使用すれば天災認定されるだろう。


 余談だが、宇宙空間では空気が無いため通常の燃焼は起こらない。

 現在のハーク達がいる高度も大気圏外近く。ほぼ宇宙空間と言って差し支えないが、虎丸が生成した限定空間内は地表とほぼ同じ大気を維持されているので、アレクサンドリアの使うブレスや魔法も全く問題は無い。

 ただし、魔力を使った精霊が引き起こす発火現象は酸素を消費せず、熱エネルギーにも近いために攻撃力自体は宇宙空間でも失われることはない。燃え広がり難いということはあるが。


「あ~~……。完全に出遅れたッス」


 一方で、虎丸が主人の横で嘆いている。

 アレクサンドリアたちが撃破した弾丸の魔物の内、入れ物だけが破壊されて闇の精霊の結合が完全に解かれず残ったものに、直接光術を至近距離に発生させて一つ一つ処理していたハークが、そんな彼女に向いて言う。


「お主の足であれば今からでも問題無いさ。行ってこい!」


 敬愛する主人の言葉に、虎丸は途端に溌溂(はつらつ)とした表情を取り戻した。


「了解ッス、ご主人! 行ってくるッスウ、ゥ、ゥ、ゥ、ゥ~……!」


 そして明るい雰囲気そのままに駆け出す。ドップラー効果を残して。

 ふふ、とほんの少し笑みを漏らしながら、ハークは逆隣りのこちらは未だ直立不動を維持したままのヴォルレウスへと顔を向ける。

 視線を受け、ヴォルレウスがやれやれといった様子で応えた。


「ちぇっ、俺も出遅れたなァ」


「ヴォルはでんと構えておれば良い。何かあれば、すぐにでもフォローに行けるよう備えておれば良いさ」


「む。そうか」


 そんな会話の間に、一番援護が必要な状況となりそうな者がいた。

 たった今飛び出していったばかりの虎丸である。先に飛び出した龍族3人娘とは全く別の方向から、援護も考えず敵集団に向かって一心不乱に突っ込んでいこうとしていた。

 これに対し弾丸の魔物たちも対応する様子を見せ、無策に近づいてくる虎丸へと狙いを定める。


 そして前列の6体が腹と背中のアームを動かし、8つの爪を再び本体の前方正面に集めた。初撃で突進してきた時の弾丸の形態へと戻ったのである。

 すると、彼らの突撃速度が急に上昇した。


〈ほう〉


 興味を惹かれ、ハークは弾丸の魔物へと注視を行う。主人格の意向を察してエルザルドも分析を開始し、程無くして結果が出る。


『成程、そもそも奴ら、あの爪のような部位の後方部分より噴射剤を放出することによって、飛行能力を得ている訳か。その爪を一つに繋ぎ合わせたあの弾丸形態となることで、一時的に前方の一方向のみではあるが急激な速度能力上昇の効果を得る、か。面白いな。分割形態時よりも旋回性能こそ数段劣るものの、儂には無い発想だな』


『だが、原理自体は我らのものと非常によく似ておる。参考にされてしまったか?』


『どうだろうな。我らの飛行能力も、元々はガナハのものを参考にして生み出したものだ。翼に当たる器官を造らなかったのも、刀を振るのに邪魔であっただけで儂の単なる我儘から来ておる。宙間戦闘でむしろ有利というのは偶然の産物だ。……ん? 奴ら一つ一つ試しておるのか? だから第2派到達まで時間が空いた?』


 ハークの言葉はつまり、試行錯誤と開発の時間を要したがために、敵の攻撃第1派と第2派の間に過度な時間間隔が空いたのではないか、という予測を示している。


『かも知れん。いずれにせよ、戦力を小出しにしておる時点で()の最終目的は2通りか、或いは両方に絞られた』


『……そう、だな』


 胸に去来する憐憫の情は、自身の内に未だ残る人間の残滓なのか。

 と、ハークが思っていると、ヴォルレウスが指差しているのが見えた。指している方向にいるのは虎丸である。


「あのコは援護しなくて良いのか?」


 無策で突っ込む虎丸を心配している。

 確かに2、3発くらいは貰いそうだ。しかし頭の片隅で、そんな(やわ)なタマかという声がする。ハークはそちらの声に従った。


「問題無いさ、虎丸ならな」


 先行していた龍族3人娘も気づいて、声をかけようとする。それぞれ『無茶だよ』とか『いくらなんでも危険だ』とか言いかけていた。


 だが、次の瞬間、向かってくる弾丸そのものと化した複数の敵にも怯むことなく、明るい調子で元気良く言い放った虎丸の台詞が、こういった心配全てを老婆心だと悟らせる。


「面白いッス!」


 虎丸は更に加速しつつも前方に高密度の空気断層で作った道を造り出す。今の虎丸が全力で踏みしめてもビクともしない道だ。加速のための道筋である。

 生成した道を飛ぶが如く駆け、駆けるが如く飛び、彼女は今の形態での最高速度へと達する。





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