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24 中編09:ドラゴニアンズ・リバーサル




(随分と過激な方法を取っていたのだな)


 無論、それだけに有効だったのだろう。戦は急には止まらない。止まれない。相応の戦支度(いくさじたく)、準備期間を経て行うものだからだ。家によって違いもあるが、数日から場合によっては一週間以上かける(島津家は一日とも噂では聞いたことがある)。実際に刃を交えてからではなく、この準備期間より戦は始まるとの考え方もあった。

 それだけの覚悟と労力を傾けているのだ。生半可な事態では止まらない。


 ちなみにだが先に挙げられた中で最も大きな被害を出したのは、火山の噴火でも跡形もなく消し飛ばされた砦でもなく、谷であった。


 川は水という恵みももたらすため一長一短がある。

 噴火は確かに最中こそ危険極まりないが、終息してしまえば噴出した溶岩は冷えて固まり、すっかり無害と化す。

 砦は資源や労力、人間種全体の眼で見れば損失に間違いないが、国同士勢力同士の観点であれば、相手方の占拠は確実な損であろうとも手に入れたら入れたで奪い返されぬように防備を固めなくてはならず、実は完全な益とも言い切れない。損益上だけに限定すると、どちら側のマイナスとならぬ分プラスとも考えることができる。


 一方で、谷は交通の断絶を引き起こす。現在の衝突を回避するも、未来における人々の往来ひいては融和も妨げてしまう。


『皆が思い思いの手段を取ってヴォルレウスを後押してくれる中、我は反対派や非協力派と直接会い説得を行っていた』


「数は少ないけれど、特定の人間種や人間種全体を敵視する、或いはエサとしか見做さない龍族もいるものね」


「コレに関してはお互い様じゃな。人間種の中には我ら龍族を完全に狩りの対象としている者も多い。他のモンスターと妾らを同一視し、無遠慮に挑んでくる連中もおったものよ」


「そういう無謀な輩は仕方が無いとしても、極力死人を出さないようにと言われてたわよね」


「妾はその人物を殺すことで後々の死人の数を減らせるならと、容赦なく滅してやったことも何度かあったがの」


「万を救うために一を殺すってヤツね。そういうところはサスガなのよね。見習おうとも思ったけれど……、結局できなかったわ」


「ボクも」


「苦手なのに無理することもない。そういうのは妾の役目よ」


『皆の努力が実を結ぶ頃、我の説得も一段落がついた。協力こそ結局は得られなかったが、元々の人間種を嫌う同胞たちもヴォルレウスの決着が着くまでは、過度な殺戮や人間世界への干渉を控えると誓ってくれた。ここまでで10年余り。よくヴォルレウスはもってくれた』


「ようやくの反撃開始?」


『うむ』


 ガナハの確定めいた質問に返答する形で、ハークも会話に再度加わる。


「闇の集合体の実体部分を構成していた有機的混合物こそまだまだ代わりを貯蔵されておったようだが、根本的なエネルギー源は負の感情に捉われた魂から賄われる。龍族の活躍はその補充を大いに滞らせた。そして更に40年が経過し、形勢は遂にヴォルレウスの方へと傾く」


「ここまででほぼ100年かぁ……。それで、やっぱり勝ったんだよね?」


「勿論だよ、ガナハ殿。ここまできてヴォルレウスが負けることなど無い。彼は勝利し敵を、闇の集合体を撃破したんだ」


 そうしてハークは口を閉じた。


「…………ん? 終わり?」


「そうだよ」


「ちょっと、……アッサリ過ぎじゃない?」


 まぁ、そうだろうなとハークも思う。


「ヴァージニア、いかに壮絶な戦いとて、経過は複雑怪奇でともかくとしても、決着の瞬間は案外あっけないこともあるであろう」


「それは、まぁ、確かにそうよね」


 アレクサンドリアの取り成しでヴァージニアも納得してくれる。彼女の言ってくれた通りに、途中までどれほど手を焼こうとも、最後となれば何がしかの波乱も無く終結というのは、割と少ないことではない。


 しかしである。無論、当然に、このヴォルレウスと闇の集合体との戦いに於いて、紆余曲折の無い決着などというものはなかった。

 ちらりと視線を送れば、ヴォルレウスの眼もハークに真っ直ぐと向かっている。彼の視線には明らかなヴォルレウスからハークへの感謝が確かに宿っていた。


 ハークはあえて意識的に、戦いの最後の詳細を語ることを避けたのだ。

 これは、ヴォルレウスが自身での説明を続けることを断った2つ目の理由に抵触していたからであった。




 ◇ ◇ ◇




(そろそろ、か)


 数え切れぬほどの拳、そして蹴りを打ち込んでき末に、眼に見えて体積を減らした敵の姿を眼下に収め、ヴォルレウスはいよいよと覚悟を決める。

 端から端までを全て視界内に、というのはさすがに無理だが、全長数十キロと大凡(おおよそ)の見当はつくようになっただけでも大きな違いがあった。


 闇の集合体は、肉体の元となる有機体のストックこそ未だ余らせていたので、見た目上の体積を維持することは決して不可能ではなかった筈である。ただし、魂が通っていなければそれは何の力も発揮することはない。単なるハリボテだ。それに、本来のキャパシティ以上の肉体の維持は無駄な魂エネルギーの浪費を促すことにもなる。群生のような集合体とはいえ、そのような非効率的な見掛け倒しの手段を選択しなかったのだろう。


「むんッ!」


 ヴォルレウスは気合を発し、光の魔力で全身を包みこむ。

 今から突撃を行おうというのだ。表皮を打ち砕き、中心部まで飛び込み、闇の集合体に囚われている幼子たちの魂を開放するつもりなのであった。


「ぬぉおおおおおおおおお!! バッスタァアアアアアアアアア・ウォーーーーーーーー!!」


 脇目もふらず、渾身の特攻を仕掛けた。

 肉体の内も外も不退転の決意で固めた、何が起ころうとも自身の目的を達成するための強靭な拳が闇の集合体に到達し、同時に引き連れた魔力が爆発する。

 巨大な芋虫を星の数ほどまとめて絡ませ、練り合わせたかのような黒い物体の中心に、ぽっかりと穴が形成されていた。

 まるで漆黒の口が広げられたと幻視してしまう光景にも臆することなく、ヴォルレウスは内部に向かって飛び込む。

 直後、彼の視界は暗黒に閉ざされた。



 光が全く無いワケではない。ヴォルレウスは自身の魔力で光を生み出しているのだ。しかし、周囲に光を反射できる物体がほとんど存在していなかった。光が反射されなければ可視化はされず、暗闇のままだ。


(うっ……)


 以前とり込まれかけた時と同じように、子供たちの強烈な悲哀が伝わってくる。


「おぉい! 聞こえるか!?」


 ヴォルレウスの大声は周囲に反響する。何度も自分の発した声がリフレインするだけだったが、次第に遠くからザワザワとした声ならぬ反応が感じられる。


 上々であった。何を言っているか判らなくとも、無よりはマシだ。


「こんなところに居ちゃあいけない! 眼を醒ますんだ! 俺と一緒に外に出よう!」


 またもザワザワと振動のようなものが返ってきた。

 そのザワザワに、ヴォルレウスは全力で耳ならぬ意識を傾ける。何かしらの情報でも拾えれば、それが糸口のなるのではないかと思えたからだった。

 果たしてそのザワザワは、遠くからの子供が発する思い思いの声が混ざったかのように感じられる。かろうじて、誰? 何で話しかけてくるの? どうして連れ出そうとするの? のような言葉を聞き取ることができた。


「頑張れ! 君たちは闇の集合体なんかじゃあない! 捕えられているだけなんだ!」


 今度も反応がすぐに返ってきた。その意思を漏らすまいとヴォルレウスは意識を集中させる。

 どうして? 何でお外なんか出なきゃあいけないの? 誰も守ってくれないのに、おかあさんもおとうさんも、だれも。そんな声が聴こえた。


「ならば俺が! 俺が君たちを守る! 親として、父親として! 前世で与えきれなかった代わりに!!」


 突然に自身の口から出た言葉だったが、心に何一つ偽りは無かった。

 すると、今まで一番の反応があった。言葉では収まりきらないほどの反応が。

 中でも、中心部から今までにないほどの大きな反応があった。言葉にならないほどの。いや、言葉を知る前の意識体の。


 ここまで考えたところで、集合体のド真ん中に巨大な穴をあけられて群生体の意識統合が分裂、フリーズしていたと思われる敵の攻撃が再開された。内部に侵入した異物に対し、意識の浸食が効かぬのならば実力行使あるのみとばかりに無数の触手を体内でも形成され、ヴォルレウスへと向かわされる。





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