53 魔法が解ける時(ユリウス視点)
「久しいな、ユリウス。聞いておったな?」
気付くと、最期に会った時の祖父が目の前に立っていた。
「……お祖父様」
俺は懐かしい姿に立ち尽くした。
「『成人するまでに人を見る目を養うように』という言い付けは守ったようだな」
少し揶揄う様な物言いは、記憶の中にある祖父のそれと全く同じだった。
これが祖父の魔法か。
「どうでしょうか、まだ自信がありません」
俺は心の内を正直に明かす。
祖父の前では素直になれるのだ。
「あの娘はなかなかに面白いだろう?
お前は自分の目を信じて進むがいい」
祖父は満足そうに言った。
「ずっと、ご心配をおかけしました」
俺は少し泣きたくなる。
「お前は儂に似ているからな。
箱を解析すれば、この仕掛けも読み解けるだろう」
祖父は師匠として課題を出す時の顔で言った。
「やってみます」
俺の頭の中では、祖父に魔術を教えてもらった日々が早回しで再生された。
「して、お前は『自分にとって必要な人』は見つけられたか?」
「はい」
「そうか、安心した」
「お祖父様、ありがとうございました」
「お前は自慢の孫だ」
祖父は片手を挙げて、俺に背を向けて歩いていく。
後ろ姿が闇に溶けた。
祖父の姿にもう会えないというのに、悲しさよりも感謝の気持ちがまさった。
✳︎
瞬きをすると、俺は祖父の部屋にいた。
先程までの暗闇とは一変した景色に、俺は現実に戻って来たのだと認識する。
時間は……さほど経っていないようだ。
既に長い時間を過ごしたような気がして、感覚が少し混乱した。
部屋を見渡すとレイが座って、壁にもたれかかっている。
俺は静かに近付いて、彼女の顔を覗き込む。
目を閉じて、ゆっくり息をしている。
どうやら眠っているようだ。
祖父の魔法の影響だろうか?
長くて艶やかな黒髪が、床に流れている。
まつ毛が長いのだな、と思う。
眠っているところを初めて見たが、顔が整っていると改めて思った。
無防備な所為なのか、いつもより幼く見える。まじまじと眺めてしまう。
貴族の顔をした彼女と過ごすと、その大人びた振る舞いに忘れてしまいがちだが、彼女はまだ16歳の少女なのだ。
伸ばしかけた手を止める。
意識のない相手に勝手に触るのはまずいだろう。
いや、意識があっても本人の許可がなくてはだめだ。
そう思いつつ、彼女と話す時に自分は勝手に彼女に触れていたなと反省する。
彼女に近付きたいと思う先に、触れてみたいと願う自分がいる。
あんなに女性と距離を置いていたのに彼女は例外なんて。
『自分にとって必要な人』だからだろう。
祖父と彼女のやり取りを思い出す。
俺はどこまで彼女に近付けることができるだろうか?
できれば許可なく触れても良い位置まで、近付きたいと思っているが。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
また、ここまでお付き合い下さり、とても嬉しいです。
拙い文章ですが、登場人物の行く末を見守って頂けると幸いです。




