47 前公爵様の魔法
「お目にかかれて光栄です、クローディア前公爵閣下。なぜこのような真似を?」
「久しいな、アレキサンドライト。一度しか会ったことのない私の魔法の気配を読んだか?」
「状況から閣下の魔法と考えました。目の前の方が実体か否かは、触れた気配で判断しました」
「ふふふ……客観性が上がったな。だが思考が飛躍しないのは面白みに欠ける」
「お会いしてから11年経っておりますから、私も大人になりました。ところで閣下、話をはぐらかしておいでです」
「ふふふ……ユリウスのことが気掛かりでね。最後のお節介だ」
「それにしては大掛かりなことをなさる。魔術と魔法を組み合わせるなんて、常人ではできない芸当です」
「もともとは君のアイデアだよ」
「あの時の私は魔法も、魔術のなんたるかも分からずに言っておりましたから」
「先入観や常識に囚われていると、画期的なアイデアは生まれない」
「その通りです。しかしそれを実現する技術は別です。これが完成したということは、亡くなった奥様にはお会いすることができたのですか?」
「いや……。彼女の最期の言葉は聞くことができたが、会うことは叶わなかった。
君にも分かるだろう?
失ったものは二度と戻らない」
「はい」
「まあ、その研究のおかげで一時的に私の思念を遺すことができ、こうやって君と話ができる」
「しかしこれは本来ユリウス様のためでしょう?」
「だとしたらどうする?」
「閣下の想いが、ユリウス様に伝わると良いと思います」
「またユリウスのことか?
君も自分のことをもっと大切にした方が良い」
「ユリウス様はなくてはならない方です。大切に思うのは当然かと」
「それは自分にとって?国にとって?」
「全てにとって」
「そう言う割には、あれと距離を置いている。側に置かないのか?」
「……」
「剛胆かと思いきや、意外と臆病なのだな」
「自分でも承知してます」
「しかし側に置かないと、分からないこともあるぞ」
「存じております。けれど私には勇気がありません」
「ない想像をしてどうする?望まなければ、知ることはできない」
「では閣下は耐えられたのですか?
奥様を亡くされ、自分だけが残された時間を」
「ああ」
「強いのですね。私には耐えられません」
「私には妻との思い出があったからな。君は誰かを側に置く前に、その者を喪失した後のことばかりを考えている。ユリウスを選んでから、いつか来る別れを恐れても、遅くはないだろう?」
「そうでしょうか?」
「こればかりはやってみないとわからないぞ」
「……」
「ユリウスの何処が気に入っている?」
「……優しいところです」
「容姿に目を向ける者が多い中、変わっている娘だ」
「ユリウス様は確かに美しいですが、それは彼の一部であって本質ではありません」
「それを言ってやってくれ。あれは自分の容姿のせいで引き起こされることを、意外と気にしているからな」
「大胆と思いきや、意外と繊細でいらっしゃる」
「まあ、私の孫だからな」
「閣下のお気持ちを、ユリウス様に直接お伝えしては?」
「孫のことをよろしく頼む」
✳︎
「レイ、レイ」
誰かに声をかけられて、私は気が付いた。
私は部屋の壁にもたれかかっていて、目の前にはユリウス様がいた。
「大丈夫か?」
「はい」
頭がボーっとするが、意識は段々と覚醒している。私は何をしていたのだっけ?
「すまない、レイ。少し眠っていた様だが?」
「いえ、こちらこそ、眠ってしまいすみません」
なんだか大事な話をしていた様な気がするけど思い出せない。
「何か覚えている?」
「えぇと、細工の箱の中を見たところは覚えています」
「そう」
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




