89.顧問らしい
会議でよく分からん国の代表と思える連中の話を聞きながら、おおよそ概要を理解した。
つまり隊長が見つけてきた大霊峰の向こう側との貿易や開発の会議だ。
そしてそれに必要なのが、まず根の国と言われる一年中暗い土地の食糧問題。
少ない食料と限られた水で羊を育てながら細々と生活しているらしいが、平坦な土地はかなり余ってるらしい。
話を聞く限り、水のない気候の安定した広い荒野で食糧生産出来る態勢を作るために、食に困っている【帝国】民を入植させる計画らしい。
食に困ってるところに食に困ってる国民を連れて行ってどうするのかと思うが、どうやら気温の低い地域がほぼ手付かずらしく、水さえあれば【帝国】特産の雪深い地でも作れる謎の生態をもつ〔凍麦〕なら作れるんじゃないかって言う話だ。
確かに【帝国】も年中暗いし、気温もこれでもかと言うほど低いが、水だけはある。その水が問題なんじゃないかという所で、隊長の計画があった。
「解決手段は二つだと思ってる。一つは根の国の上には海ほどの水があるからそれを引っ張ってくる。何度も言うようだけど、根の国が暗いのは上に世界樹が集めた分厚い海みたいな雲の所為だから。最終的にはそれで賄う気だけど、その前の段階として北端の氷の壁の向こうに行けば、大量の氷があるかもしれないし、溶かせば幾らでも水を運んでこれる可能性がある」
何か途方もない事言ってるんだけど、当の根の国を担当させられそうな【帝国】重臣は別段驚いてもなければ、前向きにその計画を遂行する気らしい。
「【鉱国】の者だが、その……根の国では我が国より宝石類がよく<採掘>されると聞く。そっちの値崩れの問題は?」
「解決できないね。勿論いきなり全力で放出して自分だけ稼ぐなんて事は絶対にしない。ただ今後も邪神勢力と戦っていく上で精霊の力を使える品質の高い宝石類を世間に流さねば戦力が整わないって言う側面もある。そうなるともう国家間で流通量なり使用目的をある程度限定するようにして〔宝樹の根〕みたいな戦略物資として上手く管理するしかないね。なので偉いヒト同士で決めて!自分は根の国のヒトが不当な扱いを受けないかどうか監視するだけにする。何度も言うけど根の国のヒトから信用を失うようなろくでもない事するヒトには軍務尚書!厳しく対応して!駄目なら……まあ言わなくてもいいか」
「そうなると、隊長に何の旨味もないように思うけど、まずは貴方の権利が守られるべきだと思うわよ?」
「ああ、それについては考えてあるから、各国よく考えて承認して欲しいんだけど、自分の予想では北回りと南回りで大霊峰を経由せずに回りこめるルートがあると見てる。だからその探索権が欲しい。って言うかくれなくても勝手に探索するから出した方が得するよ」
「少なくとも【森国】【海国】【砂国】【帝国】は既に同意しております。ご随意に」
なんて言うか、超我侭なんだが、いいのか?いいんだろうな。だれも反対してないし……。
そして、次の議題が天上の国。どうやら根の国も天上の国も原初のヒトと呼ばれるエルフがいるらしいが、厳しい環境で生きる為に二手に分かれたようだ。それぞれ陰精の【巫士】と陽精の【巫士】が代表だったとか。
「天上の国について一番の問題はシンプルにどうやって行くかなんだよね。根の国はポータルで行けば最低限ヒトは送り込めるし、自分の予想が正解なら交易路も作れる。天上の国に行く方法は今の所、大霊峰を登るだけなんだけど、もう一個輸送ルートに当てがある」
「そうね。わざわざ私を呼び出すんですから、そろそろ話を聞きたかったわ」
一際目立つ女性が口を開くが、何故か皆ちょっと遠慮がち。レディと呼ばれる【王国】の海運業のお偉いさんだとか?
「そうだね。まず皆が大河って呼んでるあの河だけどあそこの水って天上の国から流れ込んでるって知ってた?」
途方もない話にポカーンと口を開けて、どこともなく見つめる会議出席者達。
「大河ってあの大河ですよね?あれだけの水量が天上の国からですか?」
「間違いないよ。自分は天上の国から帰ってくる時、流されて大河に辿り着いたんだから」
今更ながら世界樹の巨大さとそれが集める海のような水というものの膨大さを思い知る。
「んでね。簡単に言うと大河を逆流すれば天上の国に行けるわけだけど、いくつか難所があるのは分かるよね?巨大な滝と、自分が流されるほどの水流を逆走するだけの動力船」
皆が黙ってしまったので、勝手に話を進める隊長。しかしここでやっと自分が顧問として呼ばれたのか分かった。
「つまり、俺がその動力船を作ればいいんだな。滝を持ち上げなきゃいけないって事はサイズはそこまで大きくなくていいんだろ?」
「いやいやいや!待ちたまえ!【帝国】も動力船は持ち合わせている。氷河を突き進む必要がある我が国ならではの技術だが、それにはかなり大きな機関が必要だし、スピードも知れている。激流を逆走など……」
「クラーヴン的にはどう?いけそう?」
「できるぞ。回転機構は既に作れるしスクリューは簡単に出来る。どうしても急流を逆らうのが難しいなら浮かしゃいいだろ?ホバー方式も試したきゃ作ってやる。問題は余り大きい物だと逆に俺じゃ難しいかもしれんって事だな」
「大丈夫。洞窟みたいな所を通ってる水道だから外洋船みたいなデカイ船は逆に無理だから。開発はクラーヴン、量産はレディって感じで、上手くやれる?」
「ええ、問題ないわ宜しくね」
「ああ、こちらこそ頼む」
その後も会議は進むが、本当にあっさりつつがなく進行するのは予定調和なのか、余計な事で争わないクラスの人物達の集まりなのか?
まぁ面倒事に巻き込まれず、船の動力開発だけでいいなら、いくらでもやるがな。




