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71.阿空と刀

 見本市はてっきり一日で終わるものと思っていたのだが、地元の有力者の口添えと言う名の、客寄せの催しものとして数日続いた。


 砥ぎに関しては時間がある時だけでいいと言われ、割と自由にやらせてもらったが、タイミングが合った客達には概ね好評だったので、一安心と言った所か。


 そして夜中に刀を見せてきた阿空だが、翌日からバイトに汗をかいていた。


 慣れない仕事だったようだが、汗をかくことを厭わない性格なのか、いつも小走りで細々とよく動く。


 バイト料は鉄のショートソード一本で良いと言うのだから安上がりだと口走ったら、MoDのメンバーに口止めされた。


 阿空は大して気にした様子もなく笑い飛ばし宿に戻っていったが、流石に悪いので泊まる所と食費くらいは出すとしよう。


 ちょくちょくと話す機会があり、生い立ちやら旅に出た事情なんかを聞くと、ちょっと冷や汗を各場面もある。


 何しろ、阿空が旅に出た理由は【森国】の守護者として大事な儀式に当たる戦いで負けたからとか。


 まぁそれだけなら、応援するだけの事だが、何故自分が作ったショートソードに思い入れがあるかという事と、その儀式に密接な関係があった。


 なんでも自分が作ったショートソードを持った異邦人に斬られて負けたらしい。


 その時使っていた得物は阿空も敵も特殊な秘宝に相当するような業物だったようだが、それで負けたという事は完全に腕の差だと深く落ち込んだらしい。


 阿空はずっと剣に道に没頭してきて、あまり世間を知らないままだったらしく、心機一転するため全く知らない土地を旅して回る事で己を鍛え直そうとか言う、なんとも真っ直ぐな主人公気質で、本当に応援したくなる男だ。


 問題はこの主人公気質ないい男を斬った敵、相手は一国の重要人物なんだから華の一つも持たせてやればいいのに、全く気にしない危険思想の変人。


 【帝国】は【古都】所属の隊長だ。


 自分が作ったショートソードを愛用していて、尚且つ邪神の化身戦直前頃に業物と言わざるを得ないチート武器にアップグレードしていた男は、それ位しか思いつかない。


 何しろ、霊亀の加護を受け尋常じゃない耐久力とブロック能力を持ち、霊鳥の加護を受け剣を抜いている間は常時自然回復し続けるとか言うふざけた仕様だった筈。


 霊とか頭につく生物は確か神に変わって世界を守ったり管理する一柱と呼ばれるクラスの生き物で、会うだけでも奇跡的な話なのに、そのうちニ柱から加護を受けてる剣とか完全におかしい。


 そしてそんなおかしい武器を持っていたら、ちょっとは他人の事情にも忖度してやればいいのに、平気で振り回すのだから性質が悪い。


 そんな不利な状態だったにも関わらず、素直に修行する阿空の印象が良くなって然るべしだろう。


 なんでもそれまで使っていた小太刀を師に一旦預けて、友人に打って貰った打刀一本持って【森国】を飛び出したんだそうな。


 何の変哲もないただひたすら堅牢で造りがいいだけの打刀らしいが、自分が見る限り何度見ても真心のこもったいいモノだと分る。


 刀については余り詳しくないが、折角なのでこの機会に色々と教えてもらうと、どうやら単独ではそこまでの攻撃力は出ないらしい。


 術とセットで使うのが基本で、構えからの刀術を初期に習う。


 そして自分のスタイルと相性のいい刀を探して、刀の主となる為に色んな試練に挑むのだとか。


 元々使っていた小太刀は、普段は二刀流で使っていて、いざ開放となれば刀の軌道に刃の残像が実体として残る。


 説明だけではよく分らないが、質量のある残像だと思っておこう。


 構えから術を発動と言うプロセスを踏む所為か、型を非常に大事にしていて、見本市が始まる前の早朝なんかによく刀を振っている姿を見るが、本当にどこからこんな情報を引っ張ってきたのかという程見事だ。


 何なら剣の師範かなんかの動きを全てトレースしてAIに型としてインプットしているのではないかと言うレベル。


 う~ん……こりゃチート武器じゃなきゃ勝てないかも知れん。


 ますます刀に興味が湧いてきたぞ。


 刀使いの知り合いと言えば……隊長のライバルに剣聖の弟子とかいうのがいたな?


 名前からして何か凄いのだが、見た目は完全な優男と言うか美少年アバター。


 しかし見た目にこだわりがある風にも見えない、危険な戦闘狂だと聞いている。


 なんでも、強い相手にPKを仕掛けるのが趣味とか何とか。


 一応ゲーム上PKは許されている。NPCに故なく攻撃を仕掛ければ強制的に数日間ゲームから放り出されるらしいが、プレイヤー同士なら割となんでもあり。街中や何かだと流石に多少制限もあるようだが……。


 しかし、全く話の分らない人物でもなかろうし、もし縁があれば刀の事を聞きたい。


 何しろ隊長とライバルだと言うなら、お互い自分の剣と刀で戦って貰ったら、作り手としては胸熱展開じゃないか?


 隊長は余り凝ったギミックの武器よりシンプルに丈夫で扱いやすい物を好むし、真逆の癖強刀で戦ってくれないもんか?


 いや、その前に刀を作れなきゃ意味ないか、刀を作るには玉鋼が必要だろうし、保留だな。


 妄想は程々に、砥ぎに精を出す。


 一期一会、プレイヤーもNPCも連日列を作っても砥ぎを待っていてくれるのだから、自分も汗を流さない訳にはいかないだろう。

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