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70.見本市終了と 

 「じっくり話を聞いた所『ギルドシュミート』の差し金だったみたいです」


 一騒動のあとはつつがなく砥ぎの仕事に追われたのだが、程よい時間で休憩の声がかかったので、木陰でそのまま一休みしていた。


 まだ仕事は残っているので酒を一杯とはいかないが、何か甘いお茶を出されたので、それを啜っていたら、さっきのクレーマーについてマリーが教えてくれた。


 「ギルドシュミートっつったらMoDのライバルクランだったか?」


 「ライバルなんて言うには向こうの方がかなり規模が大きいです。手広く素材収集生産職を雇って、職人を大量に抱え込んで、プレイヤー装備の大半を担ってるって言われるくらいです」


 「そりゃまた、なんでそんな大層なクランが俺の武器の見本市ごときにチンピラ風情を送り込んできたんだか」


 「さぁ?零細に圧力かけて陰で笑ってるんじゃないですか?よくある嫌がらせですよ」


 「ふーん、逆に今回あんな追い返しかたしちまって、あとから文句つけられたりとかしないのか?」


 「別にうちは元々ちょっとダーティなイメージがついてますから、アレくらいでいいんですよ」


 「ほー?」


 「クラーヴンさんの方こそ、あんな所で顔を出さなくても……今後やりづらくなったりしませんか?」


 「俺は元々【古都】の常連の装備以外はMoDからしか受けてないし、他はNPCから来る依頼ばっかりだからな。特に困る事はないぞ?何ならギルドシュミートの方が【古都】に来づらくなるんじゃないか?」


 「向こうは特に気にも留めないと思いますけど、クラーヴンさんの【古都】での立場ってそんなに凄いんですか?」


 「いや、たださっきのクレーマーは面と向って【古都】を蔑んできただろ?そうなると俺より理性が足りない連中が、何するか想像できないんで、知り合いなら【古都】に近づかないように忠告してやってくれ」


 「え?ああ……噂はかねがね……」


 そんなこんなマリーと世間話で休憩時間を潰し、砥ぎを再開。


 次から次から持ち込まれる武器の数々に、このゲームの武器種類の豊富さに驚くと共に、どうやってこれだけの資料を集めてきたのか、開発陣の力の入れどころが謎だ。


 夜までヒトの流れが途切れる事無く、気がついたら夜闇の中、カンテラの明かりを頼りに砥ぎをしていた。


 申し訳ないが間に合わなかったヒト達は解散してもらい、今日はお開きとする。


 どれくらいの武器が売れたのかよく分らないが、ヒーロー達もMoDのクランメンバーもぐったりとしていた。


 余った武器だけさっさと片付けて、一旦撤収を伝えると皆気力を振り絞って大急ぎで片づけを始める。


 元気なのはカーチだけだが、まあよく働く子だ。


 自分も片づけを手伝おうとした所で、宵闇の陰からヒト影が一つこちらに近づいてくる。


 木陰から零れる月の明かりで、江戸の浪人風とでも言うのだろうか?着流し姿の男だと分った。


 その場の空気が凍りつき、ヒーロー達が得物の柄を掴んで動きを止める。


 ゆっくり近づいてきた男は刀を持ち、両手で掲げるように自分に突き出し、一言。


 「これを見ていただきたい」


 武器を見て欲しいと言われて断る理由もないので、両手で受け取り丁寧に鯉口を切る。


 手指伝わる感触で、鞘の鯉口もハバキも完璧な具合に仕上げられているのが分り、それだけで期待に動悸が高まる。


 ほんの10cm程度抜くだけで刀身の美しさが際立つが、刀なら何寸とかの方がいいのか?


 生憎と西洋剣ばっかり作ってた自分には詳しい事は分らん。


 全部引き抜いて確認した方がいいのだろうか?


 正直な所、ほんの少し刀身が見えれば全体像が想像できるほどに完璧に整ったいい刀だと思うのだが?


 変に引き抜かず、また鯉口を戻して男に刀を返す。


 「専門じゃないが、いい刀だ。眼福だった」


 すると男はニヤニヤと笑い、両手で受け取った刀を腰に差す。


 鞘尻を妙に下に向けると言うか、殆ど地面に垂直に差す姿は、気取らず攻撃的とは真逆でいながら、この男からは尋常じゃない空気を感じ取った。


 「お褒めに預かり恐悦至極」


 「言葉よりもずっと自信を感じるが、もうちょっと感想が必要か?」


 「もし出来るのなら」


 たいぶ砕けてきたようなので、はっきりと感想を述べる。


 「専門じゃないのはさっき言った通りだし、造りやなんかでとやかく言う気はない。見た瞬間いいモノだと感じた。付け加えるなら石がいい」


 「石でござるか?」


 「ああ、仕上げ砥か?よっぽどいいモノ使ってなきゃその刃はつかん。どこの職人の作かも分らんが、運命の砥石だろう。仮に奪っても同じ仕上がりにはならんぞ?運命ってのはそういうもんだ」


 「そうでござるか。作者にそのように伝えておく。【帝国】の一流職人のお眼鏡にかなった事も含めて」


 「別に俺はそんな大層なもんじゃないが、刀に興味を持つには十分以上の作だった。いずれ【森国】も訪ねるとしよう」


 「何をおっしゃるか!【古都】ゴドレンの店の鉄包丁と言えば、世界中の料理人憧れの的!金があれば拙者も一本剣を所望したかったが、生憎修行し直している身で必要以上を持たない生活をしておって……」


 「ふーん、ところでなんでさっきからそんなちょっと無理した喋り方なんだ?」


 「気づいてたのかよ!いや旅慣れないんで、ちと緊張してたんだ。相手は業界じゃ有名人だしな。俺は阿空【森国】の守護者にして、ただの修行者だ」


 「そうか、俺はクラーヴン【古都】の普通の鍛冶屋だ」

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