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60.食料不足

 地下道から外に出るにはコレと言って、問題なく済んだ。


 何しろすぐ隣の部屋に大型リフトがあり、それに乗ればあっさり川沿いに出た。


 【帝国】北側を流れるチーリィ川、一年中いつでも寒い【帝国】にあって凍りつく事無いこの川は重要な水源として大事にされているらしい。


 川沿いに大型リフトと言う事は、川を使って荷物を運んでいたとか?


 地下道は輸送路として作られたようだし、地上から物資を運びこんでもおかしくないだろう。


 まだ地下の全貌を知らない自分にはこの程度の予想しか出来ないが、まあロボさえ直せればそれでいいので、十分だろう。


 その日の内に帰還するのは距離的に無理そうと言う所で、例の作業部屋と思われる場所でログアウトした翌日。


 カヴァリー、ビエーラ、カーチはログイン時間が少し早いので、先に帰ってもらった。


 自分は鉄人と一緒にのんびりと物見遊山をしながら【古都】を目指す。


 物見遊山といっても大抵は雪に埋れた田舎村や町ばかり、それでも特産品と言われるものがあったりする。


 それこそやたらビビットカラーの人参やら縞模様が美しい玉ねぎとか、そんな物ばかりだが、好んで探せばそれはそれで面白い。


 そんな事も、ずっと【古都】に引き篭もっていた自分は知らず、カーチと出かける様になってから知った。


 そしてとある町で、宿を探していた時の事。


 「すみません旅のヒト、もし食料をお持ちでしたら売って頂けませんか?」


 数人の若者を引き連れた初老の男性に声を掛けられ、何事かとつい知り合いを探してしまうが、今は鉄人との二人旅中、頼れるのはよく分らないロボだけと言う状況に不安を感じてしまう。


 「多少は持ち合わせがありますが、何かありましたかね?」


 何しろ相手は見知らぬ初老の男性、普段から見知った顔とばかり話している自分には、少々ハードルの高い相手だ。


 現実では一応客商売しているが、そう畏まった商売でもない。


 鍛冶屋として見知らぬNPCとコミュニケーションを取るというのは微妙に難しい。


 これが店なら『いらっしゃい!何の用だ?』で済むのだが……。


 「いえ、この国が今内乱中である事はご存知かと思いますが、それに伴って少々食事が心許なくて……」


 「ああ、そういう。それなら鞄にある分ならお売りしましょう」


 ある程度日持ちする食材を適当にアイテムバッグに詰めているだけだが、それで助かるヒトがいるなら売ってしまってもかまわないだろう。


 世の中にはアイテムバッグを改造して、食材の保管期間を伸ばして大量に持ち歩く奴もいるが、そんな事をするのは余程遠隔地や辺境地へ行く一部のプレイヤーくらいのもの。


 普通は数日分、日持ちする食料をログアウトする村や町ごとに購入しつつ、携帯食料と呼ばれる日持ちだけを突き詰めた食料を齧りながら、深い場所を探索するものだ。


 しかし、本来こういう商取引は【商人】じゃないと出来ない筈だ。


 勿論個人で使う分に関してはその限りじゃないが、自分の様に工房で勤めていて店で使う分として大量に買うのとは違う。


 本当に個人対個人の取引の場合、一気に大量の取引が出来ない、というかNPCのほうが買い取ってくれないし、売ってくれない。


 何をするにも信用とジョブと呼ばれる職分がついて回る。


 だからこその【商人】と言う存在に意味があるし【組合】やら【協会】やら所属する拠点にも意味がでてくる。


 何が言いたいかというと、こういう特殊な大量取引は一時的なクエストボーナスと捉えてしまってもいいだろうという事。


 普段なら出来ない大儲けチャンスだ。


 勿論バックストーリーがあるのだろうし、NPCに感情移入するなら詳しい事情を聞いて解決に向けて手伝いを申し出れば、別途報酬がある可能性もなくはない。


 ただ自分はしがない鍛冶屋だし、鉄は食えないので農具が足りないとかなら協力できるが、内乱じゃどうにもならない。


 そんな事を考えている内に、自分が【古都】に帰るまで必要であろう最低限を除いて全部売った。


 それなりの額にはなったが、正直自分は普段から金を持て余しているので、別に無料で渡してしまっても良かったのだが……。


 宿を紹介してもらい、宿泊の手続きをする。


 「何でも食料を売っていただけたとか?そういう事ならお代は結構ですよ」


 「いや、そういう訳にはいかんだろ?食料が心もと無いってんなら、自分で勝手に食べるし、宿泊代も払うぞ。内乱もいつまで続くか分らないんだし、色々入用だろ?」


 「はぁ、それではありがたく」


 助かったと言う顔をしつつも、やはり浮かない表情につい興味が湧く。


 「内乱って言うのはそんなに状況が悪いのか?」


 「戦の影響で民間人に被害が出る事は滅多に無い様ですが、食料不足ばかりはどうにもならなくて」


 「なる程な~。食料関係の【商人】には伝手がないな。どこかで大量に買い付けられるとかそういう噂はないのか?」


 「なんでも宰相派の方はかなり食糧事情がいいらしいです。元々宰相派が現皇帝陛下を排斥したのが、原因ですし、分かっていて予め食料を買い占めたとか」


 「ほう?それで寒村の者が餓えてると……」


 内乱なんて自分には関係ないし、放って置いて巻き込まれないようにしようとだけ思っていたが、ちょっと引っ掛かるな。


 まあ多少の物資不足は元々有った事だし【輸送】する者がいなけりゃ、仕方ない事なのかもしれないが。

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