36.酒
鉄人の修復をしながらゴドレンの店で元の日常に戻る。
何だかんだ戦闘職じゃない自分には、応援するだけとは言え魔物との戦闘の疲れること。
坑道を歩いている最中は、やはり興奮しているのかどうという事もないのだが、店に帰った瞬間どっと疲れる……気がする。
一緒に行ってくれる戦闘職達が一流のお陰で、戦闘に巻き込まれる事すら殆どないはずなのだが、不思議なものだ。
やはり根本的に自分には戦闘は向いてないんだな~等と思いを馳せつつ、今迄知らなかった戦闘職達の苦労や苦悩や苦痛と言うものの一端を知れたのなら、今後の鍛冶に生かせるかもしれないとも思ったり。
今日は溜め込んだ通常クエストの包丁作りだ。
本来はこっちが自分の本職と言ってもいい。
何しろ数年前このゲームが一般公開されて、運よくこのゲームの抽選に当たってからずっとこればっかりやってる。
今では目を瞑っていても一級品の包丁が作れてしまう。
何しろ鉄の品質だけは良質で尚且つ大量に掘り出せるのだから【帝国】で一般的な品を作ればそりゃそれだけで、一級品にもなる。
品質によって値段も変わるが、はっきり言って自分が作った包丁につく値段はちょっと法外だし、そんな値段で売って買い手がつくのか?とも思うのだが、未だクエストがちゃんと続くのだから、今の所急な値崩れも無いのだろう。
まぁ、目を瞑っていても作れるのは実験済みだが、そんな物を売るのは忍びないので、ちゃんと一本一本丹精込めて作る。
不思議と鍛冶に集中した時の疲れは後に持ち越さないし、その時ばかりのものなので、全力で集中しても差し支えない。
ノルマの100本を作り終え品質も確認するが、自分に作れる現状最高評価の『究極至高』となっているので、多分問題ないだろう。
包丁だけはこの評価が出るのだが、料理をする知り合いが数えられるほどの自分には贈る相手も少ない。
精々は隊長、カヴァリー、ソタローとかそんなものだ。料理セットにくっつけて渡してあるが、多分皆それなりに上手く使いこなしてくれることだろう。
ゆくゆくは鍋にもこの評価を出して、色んな鍋を持たせてやりたいものだ。
寸胴鍋に圧力鍋にフライパン……目標は遥か遠く、だから飽きる事もない。
「お~い!クラーヴン!飯にしようぜ!」
一仕事終えたところにタイミングよく、クラブから声がかかる。
今日の飯はジャガイモとベーコンの香辛料炒め。ちなみに香辛料は輜重隊とは名ばかりの世界を股に掛ける【輸送団】隊長が仕入れて普及させた代物。
それにパン焼き名人と勝手に噂しているソタローの部下の実家から買い付けたパン。
そして色々適当にごった煮にしただけなのに、ちゃんと味のバランスの取れてる不思議なスープだ。
こればかりは、クラブのセンスとしか言えない代物。
いっそ料理屋になった方がセンスあったんじゃないかと思うほどに、バランスよく味を調える。
「なんか、今日は味濃い目だな!酒が進むぜ!」
親方がどこからともなく透明な酒を取り出し、飲み始める。
「その酒どうしたんだ?」
「こりゃこの前姪っ子が置いてったお土産だ。ドワーフには丁度いい喉の焼ける酒だぜ」
親方の酒を見ていると、クラヴとクラームも何か飲みたさそうにしている。
なんなら、自分も飲みたくなってきた。
まあ今日のゴドレンの店は大人の時間。
自分は既にやるべき仕事を終えているし、他の皆も同様だ。それなら皆で酒を飲んでもいいだろう。
アイテムバッグから取り出すのは【海国】で買い付けられるラム酒。
このゲームの物流状態はお世辞にもいいとは言えない事から、結構地域毎に手に入る物品に違いが出る。
つまり【海国】では当たり前に買える酒でも【帝国】ではあまり手に入らない何て事はよくある話。
じゃあ、プレイヤーが大量に買いつけてアイテムバッグに詰めて、他国で捌けば一儲け!ともいかない。
大量に買い付ける、逆に大量に捌く。
そんな事は個人の信用では出来ない。やるなら【商人】になって<取引>系のスキルを育てるか、運び屋になってポータルを使わない荷物の届け人になるか。
いずれにせよ一朝一夕にぼろ儲けとはいかない様になっている。
ちなみに一朝一夕どころか、きっちり時間掛けてスキルを育てれば、ぼろ儲けどころか異常な額稼ぐ奴もいるにはいる。
ただそんな真似をしなくとも、自分のようにコツコツ鍛冶をやっているだけでも、いずれは稼げるようになるし<錬金>と呼ばれる精霊の力を利用する生産系スキルならもっと早くに安定的に稼げる。
いずれにしても近道はないと思ってコツコツクエストやってりゃ、稼ぐは稼げるようになるので、あまりこだわらない方がいいって言うのが、最近の主流だ。
そんな【帝国】では希少なラム酒を出せば、親方も同僚もそりゃ目の色が変わる。
ちなみに自分が出したのは色合いから言って、多分ゴールドラムに類する物なので、割らずにチビチビいくのがいいか?
ただでさえ寒い【帝国】ならストレートでもいいと思うが、暑がりの親方はドワーフにも関わらず、意外とロック派なので、いつの間にか用意されたロックグラス4つにそれぞれ注いでいく。
上品な淡い琥珀色はそれだけで高級品を連想させるのだが、分けてくれた変人は幾らでも買える物だからと言う。
まあ、変人の言う事なので、大概当てにしてない。
口当たりの柔らかい甘みのある味は、癖こそあるがじっくり堪能するには丁度いい。
ドワーフで幾らでも飲める親方も、ゆっくり味わっているようで、ふとした静かな時間を過ごす。




