最終話.エピローグ『都会のオムライス』
「ねぇ、チカちゃん?大丈夫?だから島とは違うんだよって言ったのに……」
季節は春、明らかに入学式終わりと分かる初々しい制服に身を包んだ少女と、そのスカートを掴んで放さない更に幼い少女。
「だって、人がいっぱいだし……」
「来る前にもそういったはずなんだけどなぁ……。それにこの辺はまだ人も少ないほうだよ?駅から離れてるし、大きいお店とかもなさそうだし」
「え?でも、車もいっぱいだし、人もいっぱいなのに?」
「う~ん……そうだよね~私は受験前から何度か来てるからあれだけど、チカちゃんは島から出るの初めてだっけ?」
「ううん、船で港までは何度も行った事ある」
「そっかどうだよね。私も小さいころから港までは連れて行ってもらったっけ……皆でご飯食べに行ったりとか……でも、どうする?怖いならホテル戻る?」
「ううん、オムライス食べる」
「そこの決心だけは変わらないか~……でも、テレビで見たお店はもっと人いっぱいの場所だけど、大丈夫?」
その言葉にギョッとする少女、自分がそれまで生活していた環境とは似ても似つかぬ土地、そもそも建物と建物の間に隙間が全くなく、辺りを見回しても壁だらけ。
今自分がどこに居るのかも一瞬で見失いそうな迷路のような空間に、早足で行き来する人々。
知識で知っていることと、その場に立ってみる事とでは大いにその受け取り方に違いが出てくる。
理想と現実のギャップに苦しむという事は、ある意味子供が大人になる為のプロセスと言っても過言ではないのかもしれない。
その時、チカちゃんと呼ばれる少女のお腹から盛大にグ~っと音が鳴った。
それもその筈、彼女はテレビで見たオムライスに憧れ、無理を言って幼馴染の高校入学式についてきた。
しかも万全の状態で、お腹いっぱい食べるため、朝ご飯まで抜いてくる念の入れよう。それはお腹も空く。子供なら尚更だろう。
しかし、ここで大きなジレンマが発生する。
何しろ産まれてこの方、見たこともない環境で、これ以上人がいっぱい行き来するような場所に行かねばオムライスが食べれないという事。
でもお腹は空いているし、オムライスも食べたい。
頭の中をぐるぐると駆け巡る超難問に、頭痛までしてきた。
「チカちゃんもゲームの中なら人がいっぱいいても、モンスターがいっぱいでも平気なのにね~」
「だって、ゲームだもん!モグラちゃんもモーちゃんもパオンちゃんもレオちゃんもいるもん!」
「そうだよね~ゲームなら相手が大人だろうが、今のチカちゃんなら倒せちゃうもんね~」
そうは言っても、スカートから一切手を放さず、立ち往生している状況は変わらない。
高校に入学したばかりにしては妙にしっかりとした女の子は、ふと一軒の店が目に付いた。
「ねぇ?アレってご飯屋さんじゃない?」
そう言うと、小さな少女もそちらを向く。
そこには島育ちの少女でも馴染むような古き良き食堂然とした建物がある。
二人してその店に近づいてみると、昨日島を出たばかりなのに既に懐かしさすら感じる煮つけの匂い。
何故それが煮付けの匂いかと分かるかといえば、本日の日替わりがカレイの煮つけと書いてあったからに他ならない。
「どうする?この店にする?」
「うん!」
そう言って二人で店に入ると、
「いらっしゃい」
やや気難しげな雰囲気の男性の声が聞こえた。
その声にちょっと緊張しつつも、高校生の少女が尋ねる。
「えっと、二人です……」
「ああ、好きに空いてる席に掛けたらいい。入学したばかりなんだろ?」
「あ……はい……」
「ここはそこの学校の学生もよく来るから安心しな。遠方から来て一人暮らしする連中は特にこの店に来がちだから、すぐに知り合いも出来るだろ。ただ夜は酒飲む連中もいるから、明るいうちに来るんだぞ」
「そうなんですか。えっとメニューは?」
「ああ~うちは昼は定食だけなんで、そこの定食メニューで選んでくれ。日替わりはカレイの煮つけだ」
「だって、チカちゃんどうする?」
「オムライスください!」
「え?ちょ……このメニューから選ぶんだよ!」
「オムライスな?どんなのがいい?普通のでいいのか?」
「都会のオムライス!ふわふわで~ケチャップじゃなくて~……」
「あいよ~オムライスな。そっちのお姉さんはどうする?」
「え~オムライスって大丈夫なんですか?」
「材料がある時は、な。何か知り合いの変人がお土産で謎の美味しい牛乳買ってきたし、それで使って適当に作るが、それでいいならな?」
「適当って……でも私もそれで!」
少しばかり、都会ではやや長く、島では普通位の調理時間、いつの間にか緊張も解けて、あれやこれやと話し始める小さな少女と、高校入学したての少女。
二人の前に出されたのは、ホワイトソースがかかり、たっぷりと卵が使われたと一目で分かる半熟のふわとろオムライス。
「都会のオムライスだ!」
スプーンで勢いよくかき込む少女とそれを店の奥の厨房からそっと眺める店主らしきおじさん。
「あれ?いつからオムライスなんて始めたんですか?」
まだ学生に見える男性客がいつの間にか店内にいた。
「今だな。まぁ今後も作るかは分からん。それより今日は酒じゃなくていいんだな?」
「はい、夜からライブなんで食事だけです」
「そうか、いつも通り日替わりか?」
「お願いします」
どうやらこの店に学生がよく来るというのは本当なのだろう。都会の学校に行く幼馴染を少しだけ心配していたが、学校のすぐ近くにこのお店があるなら大丈夫。
そんな事を思いながら、何故かホッとする味のオムライスをお腹いっぱい詰め込むのだった。
いつもお付き合いいただきありがとうございます。
MONOローグシリーズ、クラーヴン編でした。ラストはカーチで締めさせていただきましたが、ちゃんとクラーヴンも出てます。
何なら隊長編のラストから毎回出てました迷脇役です。
今回は戦闘に送り出したり、戦闘を眺める事しか出来ない生産職を中心に物語を進めたらどうなるんだろう?等と浅はかな考えで出発したわけですが、大変でした。
自分で手を広げるたびに心が折れそうになるの繰り返し、というか何回か折れてました。
やはり、あれこれ考えるよりも、雰囲気とギャグで気楽に戦いまくる展開の方が合ってるのかな~?なんて何回も考えましたが一応、エンディングまでこぎつけた事ひとえに応援して下さる皆様のお陰です。ありがとうございます。
前話ラストでヒトの乗るヒト型大型ロボが出てきましたが、続編を書く場合はそのヒト型兵器中心の話に出来たらなと思っています。
外海上空に突如現れた空中都市は地底文明の子孫が作った物らしい
彼らの乗るヒト型兵器ギア・ドールはヒトの精神力を増幅してするギアと呼ばれる機構を搭載し、一機でユニオン級ボスと渡り合う性能を持つ。
はじめは大陸側、空中都市側双方恐る恐る関っていたものの、ヒトが操縦できるロボと聞いてプレイヤー達が黙っている筈もなく、あっと言う間に縮まる距離。
そんな中、三羽烏達に密命が下される『空中都市を探って来い』
こうして三人は空中都市の住民に化けて、彼らの目的を探るべく調査を開始する。
こんな感じで考えてますが、一旦休憩帰還を挟み、落ち着いてこの先の展開を考えたいと思います。
本当に最後までお付き合いくださりありがとうございました。




