338.死の傘
まだ昼なのに周囲は暗く、足元に伸びる影も妙に薄く感じる。
普通に生活していればそんな日もあるが、昔から自分は妙に嫌な予感がしてしまうし、今日は予感を越えて、ただ嫌な予想しか出来ない。
「あれれ~?おっかしいな~?」
「何を急にあざと系少年を装った探偵もどきみたいな事言い始めた?」
完全に今の状況を引き起こした元凶が、さも自分のあずかり知らぬ現象が起きたかのような反応に、思わず口調が冷たくなってしまう。
「あ~いや……邪生物が逃げられないように空中に固定する所までは予定通りだったんだけどさ……」
「その空中に固定するってのがまずどうなんだよ!空を飛ぶ事すら基本出来ない筈の渋めのファンタジーだったよな?」
「……その前提ぶっ壊したのはクラーヴンじゃん。鉄人は今も元気に空飛んでるよ?」
「あれは、重精で浮いて、風精で移動してるだけだ」
「自分のもそれだよ。自分の集団戦術は皆の士気を利用して、大規模な精霊術を展開するって感じっていうか雰囲気って言うかニュアンスなんだよね。多分より原始的な方に向ってるんだとは思うんだけど、シンプルな分強力みたいな?」
「みたいなってな?それで?何であえて空中なんだ?確か重精を手に入れたってのは知ってるが……」
「うん、結局自分の<融力術>の弱点って自分の使える精霊術しか発動できない事なんだよね。だから取得出来るいっぱいまで精霊術を手に入れたわけだけども、今回のコレはお察しの通り重精でさ。敵を強制的に重力の楔から外して、身動き取れなくさせるんだよね」
「微妙……だな」
「そう思うじゃん?何の支えも取っ掛かりもない所で、無重力になってみ?今もあの巨体がどんどん遠く空に打ち上げられていってるの見えるでしょ?」
確かに隊長の言う通り空いっぱいに広がった幕が、今も少しづつ地上から離れて行ってるのが分かる。
「つまり、あのまま宇宙空間にまで放り出そうってか?」
「ああ、それは無理。流石に<融力術>でもそこまでの効果範囲は無いと思う。実際あれだけ衝撃を受けてすっ飛んでいかないのは、完全な無重力じゃないからだと思うし、地上から離れるにつれて影響も弱まってるようにも見える」
「ふむ、それで?何であえての重精なんだ?前みたいに氷漬けでも良かったんじゃないか?」
「一つは効果時間だね。氷精術も一柱って数えられるような超越的存在の力を借りられればかなり保つんだけど、今回は協力してもらえる様子もないし、倒しきるまでもたないって試算が出た。まぁ、ダメージ量だけなら氷精の方がいいんだけどね」
「陰精も使えたろ?」
「時間だけだったら、陰精の方が効率はいいね。敵の吸収も奪われ多分奪い返すしさ?ただ、逃げられる可能性があるから。陰精は拘束系じゃないんだよね。あと折角の陽の光も効果なくなっちゃうし、今回は最初に却下した」
「それで空中に張り付けってわけか、それで?そこまで読めてて何を予想外みたいな反応してたんだ?」
「いや、自分の予想では敵は陽の光を嫌がってもっと収束すると思ってたのさ。そこに一点集中で火力集めた方が効率いいじゃん?ところがどっこいコレ見てよ」
そう言いながら空を指す隊長。
確かに敵は幕のように大きく広がり続け、空の光を遮っている。それこそ地上に光が届かぬように邪魔をしてるんじゃないかと疑うくらいあからさまにだ。
「やっぱり敵にも知恵があるのかね?」
「コレばっかりは誰も意思疎通したことのない相手だし、分からないね。的が広い分火力の集中は出来ないけど、代わりにあちこち結構抜かれてる。何なら広がりまくった所為で、肝心の的である反霊子制御炉の場所はもう割れたしさ」
「そうなのか?」
「うん、明らかに体積が集まってる分厚い場所があるから、そこだけは攻撃しないように既に指示は出してある。こちらの仕込が済み次第まずはそこを消滅させる為に、先にキジンが動いてる」
「……やっぱり自爆させるしか方法はないのか?」
「分かんないけど、地底世界を作った大昔のヒトはそう思ってキジンと鉄人を作ったんでしょ?特に反霊子制御炉に関しては上手く処理しないと、また地上が焼かれる事になる」
そう、鉄人たちの時代少ない資源を有効活用するために反霊子制御炉を作ってエネルギーを得ていたらしいが、その暴走で地上世界は一度滅びた。
そして地下に新たな文明を築き、再び地上に帰ることを目的として作った人工生物の所為で、地下世界すら失った。
不幸中の幸いとでも言うのか水と陽の光に弱いという性質の為、大陸から一旦避難したらしいが、その後のヒトの歴史はそれこそ【森国】にでも封印されているのだろう。
とりあえず今は目の前の事だ。邪生物が遠く地上から離れたお陰で生命力吸収の心配もなくなり、地上での行動がしやすくなった。
隊長が用意した資材と更に今もレオちゃんが生産するそれらを組み立てて、少しでも火力の足しにしていかねばな。
カーチのモーちゃんに乗って移動しながら次の現場に向かう。




