155.氷の閉鎖空間
一通りクモヒトデの<解体>も済み、改めて今いる場所の確認をすると、上下左右氷で覆われた空間のようだ。
地面も不思議と凍土でもなんでもなく、氷で出来ているのだが、滑らないのが不幸中の幸いだろう。
いずれも白っぽく、どこから入ってきているのか光を反射したり透過したりして、結構明るい印象なのだが、元々【古都】の暗い雪空イメージがつよ自分からすると少し慣れないというか、幻想的なイメージで作為的に作られた空間と感じてしまう。
いくつもの氷柱が無造作に立ち並び、不自然じゃない程度に自分達の姿をうっすらと映し出している。
そして、クモヒトデから離れていた自分は気がつかなかったのだが、部屋の中央にはぽっかりと大穴が空いていて、下には水が溜まっている様だ。
「どうする?下も確認するのか?」
「この寒い中泳ぐの?って言うかこの中で<水泳>スキル持ってる人って何人いる?」
隊長が聞くと、それはもう嫌そうに風魔小太郎と服部半蔵、それに阿空が手を上げた。
「玄蕃!俺は行かないぞ!いくら防寒具着てるからって、この寒い中水に跳び込めるほどの性能じゃない!」
「俺もだ。普通の水温ならある程度潜る事も出来るが、寒中水泳は聞いてない」
「俺もだな。【森国】周りの海や川程度なら行けるが、こんな寒すぎて逆に白い煙が立ってる水に入るのは絶対無理だ」
「え?じゃあ自分も無理」
「隊長は【帝国】の海でも飛び込むし行けるだろ?」
「いや、いや……ちょっと待って!そもそもこの下を探索する必要ある?クモヒトデがいたって事は多分海じゃん?つまりだ!この北側は海につながってる可能性がある!それが分かればいいじゃん」
どうやら<水泳>持ち達は全員、寒中水泳拒否らしいので一旦他の場所を探索してからと言う事になった。
とりあえず、東西に分かれて結構な距離を進んでみたが、ずっと果てしなく同じ光景が続いている。
しかも何にもない。魔物すら出てこない。
と言う事で、今度は北壁沿いを探索していくが、やはり無限に続く氷の壁だ。
「……やっぱ下かね?」
隊長が苦い顔をしながらボソッと提案とも言えない雰囲気で呟くと、申し訳ない気持ちを多分に含む苦笑いで返す他ない。
観念したように隊長が大穴に手を掛け下に降りるが……。
「駄目だ思ったより深いかも……」
不安げな声を出しつつ例の陰を纏い、大穴の内側の氷の壁にくっついて下へと降りていく。
上から大穴を覗き込んでいると、氷の壁の底で急に足と尻尾だけで姿勢を取り直し、殆ど逆さまの体勢で、今自分達が踏んでいる氷の足場の裏を目視で確認してる。
そして相変わらず重力を無視したような足取りで壁を登ってきて一息ついた。
「何とも言えないね~下が海ってのは間違いないけど、最初に逃げ込んだって言う昔の黒蜘蛛がここから何処かに向かったってのは考えにくいかな」
皆思案気な顔をしているが、正直自分の中では、お手上げじゃないかなとちょっと思っていなくもない。
「とりあえず、ここから歩いたら大霊峰と東の壁とどっちが近いんだ?」
ブラックフェニックスが急に質問してくるが、どうやらまだ諦めてはいなかったらしい。
「東の壁寄りかな?何しろここの入り口にいたレギオンボスを引っ張っていって世界樹を燃やそうとしたから、黒蜘蛛族長と白蜘蛛族長とイタチが一人追放されたんだもん」
「うん、凄い物騒な事を言ってるようだが、スルーさせてもらうぞ。それなら、まず北壁沿いを東壁まで歩いてみたらどうだ?壁と壁がぶつかる場所まで行っても何もなかったら、戻ってくればいい。何しろ鉄人が歩いたルートを記録できるんだから、迷う事もないだろ」
「確かに!それで行こう!」
あっさりこの探索チームのリーダーである隊長が了承したので、今度は全員でひたすら東を目指す。
大部屋がひたすら東西に伸びているようなこの氷に閉ざされた空間にどんな意味があるのか、未だによく分らないが、少なくとも途中にセーフゾーンは用意されていたので、食事も休憩もログアウトも出来るし、取り敢えず何の問題もない。
何なら何も起きないただ歩くだけの行程にも関わらず、いつでも何か喋ってるこの連中と一緒なら、特に話題に事欠く事もないし、それぞれ全然違う分野で攻略を進めてる連中なので、話を聞くだけでも結構興味深い。
ある日の事、
「そう言えば、俺達結構歩いてきたけどその黒蜘蛛族長ってのは食料とかそんなに持ち歩いてたのかな?」
思い付きをそのまま口に出したような猿飛佐助の疑問に、ギクリと心臓が跳ねた。
何しろこの猿飛佐助の予想が最悪の方向に向かった場合、今まで数日分の歩きの行程が無駄になるのだ。
やや緊張の面持ちで隊長の方を見たのは自分だけではなかろう。
「ん~食料の所持は分からないけど、黒蜘蛛って滅茶苦茶足早いし、族長と言えば尚更だからね。馬位速い。多足だから障害物にも強いし、ジャンプ力もあるね。だからもし走ってたとしたら、今現状の距離くらいはあっさり踏破しちゃうし、もうそろそろ東の果ての壁も見えてくるよ」
答えのような、そうでもない様な回答を聞きつつ、歩いていると確かに終点と思われる壁が見えてきた。
果たしてそこから先に進む道があるのか、微妙にこびりついた不安が、拭いきれない。




