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153.クモヒトデ

 さて、はじめは鏡の迷宮に戸惑っていた一行だが、魔物の正体が割れれば、すっかり元気に殴りつけている。


 元気なのはいい事だ。


 しかし、いくら罠を仕掛けるような弱い魔物だとしても、やられっぱなしという訳にはいかないだろう。


 遠巻きに様子を見ていると、不気味な星が動き出す。


 それまで、氷の壁で何とか距離を取ろうとしていたようだが、無駄と知ったのだろう。何しろ今回の探索メンバーは皆すばしっこい。


 次から次へと地面からはえてくる氷壁を軽々とかわして、触手を武器で殴りつける。


 遠距離からは猿飛佐助と鉄人による遠距離攻撃が、本体と思わしき星にひたすら直撃している。


 自分が目の前の不気味な星だったら嫌になる事間違い無しだ。


 そして多分イライラしたのであろう不気味な星が一本の触手を掲げて、近くの氷柱をぶん殴った。


 するとその柱が倒れてきて、散り散りに四散する。


 不気味な星近くにいた近接戦闘職達は、それぞれ飛んでくる氷片から身を守るも、氷柱の直撃を食らうものは流石にいなかったらしく、かすり傷程度のようだ。


 さしたるダメージもない事から、やっぱりタダのストレス解消か?と思いきや、今度は地面を殴りつける。


 鞭のようにしなった触手が、振りかぶられ一斉に左右に退避する近接戦闘職は、さすが戦い慣れていると素直に感心してしまう。


 そして触手が地面に叩きつけられると、一瞬地面攻撃を疑ったが、別に異常はない。


 たださっき撒き散らした氷片が宙に巻き上げられて、キラキラと光を放ち、戦闘中とは思えない幻想的な光景が広がる。


 思わず空間の天井を見上げていると、ふと視界の外から目を潰すような強い光を感じて、その光の方を向いてしまう。


 強い光にすぐに目を閉じたが、一瞬見えた光景だけでも、どうやら星の部分が光っていたのが見て取れた。


 しかし、目を閉じてすぐ今度は何かに覆いかぶされ、その場に転がってしまった。


 何事かとパニックになるが、目は開けられないし、身動きも取れない。


 ただ目の裏で光が次々飛び交っているのが何となく分かるだけだ。


 まだ心臓はバクバクと脈うっているが、ほんの少し冷静になり、こういう戦闘中の判断の鈍さが戦闘職と生産職の違いなんだなと、つい探索に付いてきた事を少し後悔した。


 そのまま少しづつ目を開けると、目の前には鉄人?


 どうやら自分に覆いかぶさっていたのは鉄人らしく、そりゃ重いし身動きも取れないだろう。


 「なんだこりゃ?」


 「全体攻撃ヲ 受ケタ為 生産職デアル クラーヴン技師長ヲ 優先的ニ 保護シマシタ」


 「そうだったのか、そりゃ俺一人だったら大変な事になってたな。すまん」


 体の上から鉄人がどき、部屋の様子を窺うと、皆一様に吹き飛んでいた。


 それでもちゃんと受身を取ったのか、もたつく事無く立ち上がり、再び戦闘態勢に戻る一行。


 「あ~直撃はきついわ~全体攻撃だったから幾らか威力は控えめだったんだろうけど、術使えない相手に全体攻撃って逆に必中みたいな?」


 「一発確定攻撃の罠だってか?まあでも何かまとわりついてたアレが取れたって事は、ここからが本番って事だろ?」


 どちらも紙装甲の筈の隊長もブラックフェニックスも元気そうだ。寧ろ一発殴られてやる気全開とばかりの不穏なオーラが立ち昇ってる気すらする。


 「うおー!佐助!半蔵!やっと喋れるぜ!」

 「うん、そういうのいいから早くあのボス倒しちまおうぜ」

 「はよ潜伏しろ。術使えるんだから、タゲ切って不意打ちしかけろよ」


 うん、三人も相変わらず仲良さそうでよかった。


 そこに、さっきまでの緩慢な動きを忘れたかのような不気味な星の触手が、ひゅんひゅんと唸りを上げて振り回される。


 自分は離れていたから良かったが、近場にいた連中は伏せてやり過ごす。


 さらにもう一本の触手が持ち上げられ、先端から泡を吹き出し、そこら中に撒き散らし始めた。


 明らかに怪しげな泡を、隊長は銃で猿飛佐助は手裏剣で、鉄人はガトリングで片っ端から潰し、直接攻撃タイプの連中は、慎重に不気味な星に近づいていく。


 ブラックフェニックスが、剣を地面に突き刺すと、地面から土の棘が生えて不気味な星を攻撃し、サイズの割りに軽いのか不気味な星は空中に投げ出された。


 更に追撃とばかりに服部半蔵の鎖鎌の鎌部に緑のエフェクトが発生し、広い範囲を切り裂く。


 まだまだ攻撃は終わらず、今度は燃える鞭状の剣でブラックフェニックスが、斬りつけた。


 不気味な星が落ちてくる場所に阿空が待ち構えて、短い刀を振れば、


 ドガガガガガガ!


 と連続する打撃音が聞こえて、不気味な星が異様なバウンドを繰り返す。


 「そうだ!闘技場で使えなかったやつ使おう!」


 そういうと、鞄からおもむろに酒瓶と何やら酒盃のようなものを取り出した隊長。


 「おい!何やってんだ?」


 「まあまあ!見てのお楽しみ!」


 言うなり、グッと一口で盃に満たした酒を飲み干す。


 そのままゆっくり酒瓶と盃を鞄にしまうが、このゲーム意外とアイテムの出し入れに時間がかかり、戦闘中に鞄から出し入れするのは自殺行為のはず。


 周りを信じているのか、ただ図太いのか。


 とりあえず、片づけが終わったと思ったところに不気味な星の鞭のようにしなる触手が振り下ろされた。


 剣も抜いてなかったし、完全に踏み潰されたと思ったのだが、いつの間にか地面に叩きつけられた触手の上に立っている隊長。


 「残像だよ!クモヒトデの化け物が!」


 ……どうやらこの生き物クモヒトデと言うらしい。

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