149.絶望の壁
ずっと暗いだけの荒野が続き、一体自分が今どこにいて、どこに向かっているかも分からなくなる。
しかも村などもなく、どうやってログアウトするのかと思いきや、ちゃんと屋外でもログアウトできるアイテムを用意している辺り、やはり隊長は旅慣れている。
セーフゾーンと呼ばれる魔物が近づかないゲーム的な屋外休憩所に、テントを設営してはログアウトしながら、何日もかけて進む。
途中、やたらと好戦的で、隊長と契約したがる巨人のような陰やら、歌いながら飛んでる鳥のような陰など色々見つつ、気がついたら周囲はすっかり寒くなっており、陰も現れなくなっていた。
「この辺は何となく明るい気がするな」
「どういう原理か知らないけど、陽の入り方が少し違うんじゃない?あそこに見える壁が絶望の壁って言う今回の目的地」
目を凝らして前方を見るが、いったいどれのことを言ってるのか判然としない。
かなり寒いのだが【帝国】の様に雪が降らない分歩きやすくはある。
ただ踏みしめている地面の感触が妙にザクザクと感じ、霜柱でも立っているのか、はたまた氷土になっているのかと言った所。
「ああ……壁ってのは向こう側全部が壁なのか……」
急にブラックフェニックスが声を出し、多分自分と同じで絶望の壁が見えてなかったんだなと、理解したが、向こう側全部って言うと……。
今自分の視界に写ってるのは地平線と海で出来ていると言う天井、そして進行方向が薄ら白い。
「分かった!地平線が見えてるからおかしいのか!あれは地平線じゃなくて壁と地面の境目だ!」
「そういう事か!じゃああのずっと白く見えてるの全部壁なのか?」
「壁にしては妙に光ってるって言うか、透き通ってるって言うか……」
「あの壁は氷で出来てるからそう見えるだけ。あの壁に穴が一個開いてるからその向こうを探索しようって訳」
ようやっと全員が状況を理解し、歩を進めると絶壁の如く切り立った全面氷の壁に辿り着いた。
ツルツルとして掴み所もない綺麗過ぎる程の氷の壁は、まるで世界の果てを見ているような気持ちになる。
皆何となく声を失い、今度は壁沿いをひたすら歩き続けると、氷の一枚壁にぽっかり穴が空いていた。
「不自然っちゃ不自然な空き方だが、行くのか?」
「その為に来たからね。何があるか分からないし、まず自分が入るから、ちょっと間を置きつつついてきて」
そう言いながらまず隊長が真っ先に入りこんだ。
そして入るなりすぐに戻ってきて、
「こりゃまずいかも」
とだけ言って、他の探索メンバーに中を見てみるように促す。
一人一人順番に中に入って行き、自分の番が来たので鉄人と一緒に入りこむと、目の前に自分と鉄人がいた。
右にも、左にも上にも自分だらけ……。
頭がおかしくなりそうなので一回外に出て大きく一呼吸する。
「ミラーハウスじゃねぇか。ちょっとコイツは難易度が高いぞ」
「だよね~。コレは想定外だったわ」
何しろこのゲームは変な所でリアリティを追及してくるから、オートマッピングなんて物は存在しない。
マップを作りたかったら手で描けって言うスパルタ式だ。
リアリティって言うなら今時、衛星情報取得して現在地まで分かる地図を誰もが持ってる時代にそぐわないんじゃないかとすら思うのだが、ここの運営の言う事は大抵「仕様です」だけなので、どうしようもない。
「見たところ通路はそれなりに広かったし、そこまで複雑な形状でもなかったから、全員で進む事は出来るんだろうが……」
「滅茶苦茶長いロープでも用意しないと、道が分からなくなるんじゃないか?」
「確かに今回はそんな物準備してないし、出直すのも一つだぞ」
「ロープじゃある程度の長さまで行ったら重くて引っ張れなくなるんじゃないか?」
「進んだ道に置いて行けるオブジェクトかなんか持ってる人いる?」
「俺が<錬金>で作った道具ならあるが、そんなに沢山数はないぞ」
そう言いながらブラックフェニックスが片手で持てるサイズの円錐型の物体を取り出した。
「へ~これってどんな効果の道具なの?」
「置いておくとボンヤリ光ってマーカーになるだけの生活用品だ。<錬金>は基本精霊の力を使って色々便利な道具を作るのが基本だしな」
「それを大量生産してから出直すしかないか。このままだと絶対方向を見失うしな~」
「方角ト 順路ヲ 記録スレバ ヨロシイデスカ ?」
急に鉄人が話しに入ってきた。
「まぁそうだね。でも印し付けられないんじゃ、迷っちゃうよねって話」
「ソレデシタラ 自動デ 記録 サレテイキマスノデ 問題 アリマセン」
「……え?鉄人って超優秀じゃん!」
「ロボってやっぱり凄いんだな!」
「まじかー!ここまでの悩みが一瞬で解決したぞ!」
「今まで不便だ不便だと思ってた事がこんな形で解消されるとは、な」
「じゃあ、この先に進めるんだな!何があるか、楽しみだぜ」
それまで鉄人同様聞き役になっていた阿空もやる気を出して、一行は洞窟内部に入りこむ。




