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132.剣聖の弟子

 勝ち登る程に熾烈さを増す決闘王戦、残る人数が減り対戦回数も減るのに反比例して次の対戦までの日程は長くなる。


 対戦者同士の日程合わせと、それに合わせた客の動員。まるで現実のイベントのようだが、そう言う所は割とちゃんと段取りしているのがこのゲームの不思議な所だ。


 運営が数字を入力すれば勝手にその数のNPCが集まる訳じゃない。


 ちゃんとどのNPCも生活していて、そのサイクルの中で闘技に来るのか来ないのか、選択をしているらしい。


 本当にどこを目指しているのかさっぱりだが、別に自分はイベンターでもなんでもないので、気楽に【闘都】を観光中だ。


 お祭り騒ぎの【闘都】はやかましい気もするが、偶にはいいだろう。どうせこれが終われば静かな【古都】に戻るのだし。


 適当に店を冷やかしながら、掘り出し物でもないかとあちこち覗いていると、裏通りで見知った顔にばったり出会った。


 服としか言いようのないあからさまな軽装に刀を一本手に下げ、薄茶色の髪はまるでそこだけ風が吹いているかのようになびき、そして体重がないかのように颯爽と歩く姿は、モデルの様?


 いやモデルにしては背が少し小さいか?こういうのをなんて言うのかおじさんの語彙力では表現できない綺麗な少年。


 こちらに気がつくと軽く笑顔になり、話しかけてくる。それだけで世間のおば様方の心を鷲掴みにしそうだが、生憎と自分にはその趣味はないし、何よりコイツの癖者っぷりもよく知るところ。


 「久しぶりですねクラーヴン。邪天使戦で少しお見かけしたくらいですけど、アレからまた腕を上げているようで?」


 そこまで親しく話した記憶も無いのだが、隊長やソタローを通じて一応見知っているこいつの名前は剣聖の弟子。


 名前こそ堅気の強プレイヤーを思わせるが、実際は最強のPKと名高く、正々堂々とPKを仕掛けるのが信条の変人界有数の変人の一角だ。


 「まぁ、ぼちぼちと楽しくはやらせて貰ってるが、そっちはどうなんだ?最近すっかり音沙汰ないし、今回の大会にも出てないんだろ?」


 「ええ、まあ、なんて言うんですかね……こういうの……」


 やたらとアンニュイな表情で溜息をつく姿にうっとりとする婦女子もいるのだろうが、絶対ろくでもない話だ。


 しかし、聞き返さないのもなんと言うか気持ち悪いし仕方なし。


 「何だってんだ?」


 「いや、師匠から奥義の伝承が完了して、得物も過去最高まで仕上がった今、ガイヤや隊長、それに最強のプレイヤーと戦って、勝ってしまったら何を目標とすればいいのかな?って……」


 やっぱり碌でもなかった。


 自信過剰と言うのかなんて言うのか、一応は実力に裏打ちされた発言なんだろうし、過剰ってのは言い過ぎかもしれないが、ほぼ横並びの最強プレイヤーの中で頭一つ抜け出る何て事あるのか?


 ちらっと言ってたプレイヤー最強ってのは、多分鈍色の騎士と呼ばれるβプレイヤーで、プレイヤーで初めて上級職と呼ばれる騎士職を見つけた爺さんだ。


 はっきり言ってこの人は桁違いに強い。


 レギオン級と呼ばれるプレイヤー100人で掛かるような巨大な敵も、槍一本でひっくり返したりするらしい。


 何度か戦いを見せてもらう機会はあったが、確かにレベルの違うプレイヤーはいる。


 もし剣聖の弟子がその域に達したと言うなら、確かに隊長やガイヤにも勝つ可能性は十分にあるだろう。


 「生産職の俺には誰がどれだけ強いのかなんてのはよく分らないが、勝てるならとりあえず勝って、高みで待つのも強者の在り方じゃないのか?」


 「それもそうなんですけどね~常に高みを目指し続けたい僕には、少々退屈と言いますか趣味にあわないんですよね~……ふぅ」


 溜息をついているのに、何故かその長いまつげが気になるが、それは置いておくとして、何で強者に勝てると思うのかその根拠を知りたいところだ。


 「ちなみに、話せる範囲でいいんだが、隊長に勝てる要因ってのは何なんだ?分かると思うが、もし隊長に聞かれたら話しちまうから、本当にさわりだけでいい」

 

 「いえ!寧ろちゃんと聞いてちゃんと隊長に話してください!彼にはもっと強くなってもらわないと困ります!」


 「それでいいなら、そうするが」


 「まず相性の問題です。隊長は確かに疾い!あの移動力の高さは他のプレイヤーでは手に負えないでしょう。更に武器の扱いにも無駄がなく鋭い!異常なコントロール能力が、あの戦い方を支えていると言っても過言じゃありません」


 「うん、それと相性がどう関わってくるんだ?」


 「はっきり言って自分も速いです。しかし速さの質が違う。脚の速さなら隊長の方が明らかに上ですが、戦闘と言うのはある一定範囲で行う場合が殆どです。そうなると瞬間移動できる分自分が上回ります」


 「それは前からだし、それでも負けてたろ?」


 「そして、武器を扱うスピードですが、コレは僕の方が速いです。隊長は正確で無駄がないから早く扱えるだけです」


 「ふむ、だがそれもスキルや武器の相性なんだろうから、前も同じ条件だったんじゃないか?」


 「はい、じゃあ何故負けたのか、それは隊長の読みを越えられなかったからです。しかし奥義を手に入れた今、読み負けはしません。そして隊長の奥義ですが、コレはカウンターを狙うものです」


 「隊長の奥義まで詳しいんだな。そりゃお互いの手の内知ってるなら、話してもいいのか」


 「そうですね。何しろ隊長の奥義習得を手伝ったのはかく言う僕ですから!しかしあのカウンターは外す事が出来ます」


 「あっそうなんだ……」


 「はい、寧ろカウンターを放つ軌道に合わせて攻撃すれば弾き飛ばせますので、ブロックされる方が厄介です。しかしブロックの為の読みは僕が上回ります」


 「ふーむ、なんか隊長が力負けするって言ってるように聞こえるな」


 「そう言いましたが?」


 「隊長は<呪印術>っての手に入れてからソタローと張り合う筋力になったんだが、それは織り込み済みか?」


 「え?そうなんです?」


 「別に俺は嘘言ってないぞ」


 「ああ……どうやらまだ修行が足りなかったようです。やはりこの決闘王戦でなくて正解でしたね。じっくり観戦して、対策を立て直すとしましょう」


 勝ち目がないんじゃないか?と言った筈なのだが、会った時より機嫌がよくなって雑踏に消えていく綺麗な少年。


 全くもって、類は友を呼ぶとはこの事だろうか?

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