104.サイバーNINJA
「思ったより早く帰ってきたんだな」
「そりゃ、挨拶まわりだけって言ったじゃん。しかも根の国しか行ってないし、ポータルで飛んでちょっと話して、ポータルで帰ってくるだけでそんな時間かかる訳ないじゃん」
「天上の国ってのは行かなかったのか?」
「あそこは行くの大変だもん。何の取っ掛かりもないつるつるの壁をひたすら登った先には、雲で出来た海があって、そこをひたすら泳いで海面まで泳ぎ続けるとか、自分もよく初見で辿り着けたなってレベルだし、ちょっと挨拶って気軽さで行ける場所じゃないよ」
「でもあれだろ?何か水路が続いてるから船で交易できるって話なんじゃないか?」
「自分が流された激流だよ?途中休憩できる場所でも見つかれば可能かもしれないけど、現段階でどこまで流れに逆らって登れるかちょっと自信ないね」
「ふーん、そんなもんか……」
出かけたと思ったらまたすぐひょっこり帰ってきた隊長と連れ立って、今日は新装備お披露目の日だ。
今回は製作にたずさわったプレイヤーを集めて、隊長の感想を聞いてみようという事になったので、ちょっとした場所を用意した。
そして到着したのは、雪に埋れた一軒家だが、これは【古都】の家は全て雪に埋れた木製の一軒家なので、何の特徴にもなっていない。
中に入れば、シンプルに何にもない密閉度の高い空間と、奥に繋がる扉だけ。
そしてそこに待つのは、コージァ、ポッター、サイーダ、ブラックフェニックスだ。
「ここどうしたの?工房の並ぶ区画だよね」
「(コクコク)」
首が取れそうなほど頷くコージァは、実は隊長の装備全般にたずさわってきてる所為か、なんとかギリギリ人見知りを発動していない。
「何か産業改革とかで、並み程度の腕の職人は引き抜かれて、集中的な生産従事者になる為【旧都】に攫われちまったんで、空いた工房をプレイヤーが借りれるようになったんだ」
「攫ったって人聞き悪いな。国務尚書肝いりの案で、食うや食わずだった国民の懐事情を改善する為に、大規模生産地区を作って均質な製品を作って売るんでしょ?」
「まぁ、その辺の事情はいい。今日は隊長の新装備のお披露目ともし要望があれば調整って感じだ」
と言った所で、ニヤニヤしながらサイーダが隊長に装備を渡したので、隊長はそれを受け取り奥の部屋に着替えに行った。
外で着替えるのも平気な男なので、この場で着替えるようなら注意しようと思ったが、そこは思いとどまったようだ。
まぁ、別にアバターの姿で絶対脱げないパンツをはいているので、別に問題があるわけでもないが……。
戻ってきた隊長は上から下まで真っ黒いレザーのボディスーツなのだが、両腕だけが剥きだしでなんとも、アメコミヒーローを連想させてくる。
「ぴったぴたじゃん」
「ああ、もう全てを一体化した方が着替えもしやすいだろうし、面倒がないかと思ってな」
ベルトやハーネスのお陰で、全身タイツのような間抜けさはなく、また腹部胸部肩部の最低限ながら薄くデザインの邪魔にならない装甲がいいアクセントになっている。
指貫のグローブとブーツ、肩から斜め掛けのアイテムバッグとそこに差したショートソード、腰のベルトにくっついた薬用のポーチに、左腿にぴったり取り付けられたショットガン用のホルダー、右腿にベルトで取り付けられたダガー、やたらと長い黒いスカーフ、これ以外は全て一体化と言う乱暴仕様だ。
装備の種類は細かく多い方が、上乗せできる効果も多くて有利と言う説もあるにはあるが……。
「はっはっは!今回我々は隊長のポテンシャルを最大限活かす事に重点を置いて、無駄を一切排除したデザインに帰結した。しかーし今隊長は自分の装備、なんかアメコミヒーローかアメリカのやたら爆発する映画のスパイみたいだなーとか思っているだろう!」
サイーダが思いっきり仕切り始めた。
「まぁ、ちょっと思ってるけど、それより両腕が上腕までむき出しなのが問題なんだけど」
「安心しろ、あらゆる地域を歩き回るお前の為に耐寒耐暑だけは過去最高に盛ってある」
「さすが、クラーヴン話が分かる」
「見た目通り防御力はそこまでじゃないけど、隊長のアクセサリーを装備内にさり気なく取り込んで、氷精耐性を盛ってあるから、何もしなくてもそれなりの割合でダメージカットしてくれると思う」
「うん、コージァは何だかんだ欲しい機能を載せてくれるのは信用してる」
「隊長のその新マスクだけど、何か顔に<粧印術>入れるかもしれないって聞いたから、あえてヘルムにはしてないからね」
「ああ、ポッターはいつも頼めばすぐ形にしてくれるし、また欲しいものがあったらすぐ買いに行く」
隊長の新たなマスクは、目だけを真っ黒く横線一本で隠すようなシンプルなゴーグルだが、それがまた近未来感を醸し出す。
口元は肩から垂れる様な長さのロングスカーフで隠し、なけなしのNINJA感を表現している。
「ふっふっふ!そしてベルトのギミックに気がついたかな!起動しちゃいなよ!」
「起動って、このレバーを倒せばいいの?」
二本ケースが挿さっているだけのシンプルなデザインのベルトバックルだが確かにさり気なくレバーがついている。
それを隊長が、下げるとなんと言う事でしょう。
それまで黒かった装備が真っ白に光りだし、装甲部やハーネスといった色の変わらない部分とのコントラストが、一気にサイバー感を生み出す。
「くっくっく!やっちまったな隊長、これでお前もこっち側だ」
「何?何がそっち側なの?何か凄い光るんだけど」
「そう!今倒したレバーが氷精フィルムケースに繋がってるから、白く光ってベルトに溜まってる精神力を消費しきるまでは、全身の耐性が上がるのさ!反対のレバーは陰精だから、見つかりにくく回避力が上がるよ!」
「へぇ~そうなんだ」
言いながら反対側も倒す隊長、光っている筈なのに急に存在感がぼんやりとし、目の前にいるのにちゃんと認識できないと言うか、何かに阻害された感覚を受ける。
「最後に例の動物の骨の陰を装着してくれ、干渉しあってないか見たい」
すると、隊長が
「根住!」
と相棒の陰を呼び、全身に黒い骨のシルエットが張り付いていく。
「完成だ!」
一斉に皆で頷きあって、想像通り、いやそれ以上の完成度を無言で称えあう。
隊長がどういう表情をしているかは、陰精の認識阻害でよく分からない。




