21. 悪役令嬢は四十歳です⑪
ミーシアさんとルバートさんの結婚式も明日に迫ってきました。
早いものです。
考えてみれば私がど田舎のガルゼバにあるこの小さな町に追放されてから二十数年が経過しているのです。
月日が流れるのはあっという間ですね。
この流れた年月は早くとも決して短いものではなく、色々な変化もありました。
例えば再来月になれば私も四十にまた一つ歳を足すことになります。
この変化はあまり歓迎はできませんが……歳は取りたくないものですね。
人以外にも変化があります。
この町は人口100人にも満たないくらい小さく建物もボロばかりで貧しく、流されて来た当時の世間知らずだった私は絶望に打ちひしがれたものでした。
それが今では500人も超えるほどに増え、建ち並ぶ建物も堅牢なものが目立つようになりました。
あの鄙びた町が立派になったものです。
「義姉さんが冒険者として名を馳せ人が流入して仕事が増えたからで、殆ど義姉さんが原因だよ」
ウェインったら相変わらず身内贔屓なのですね。
私一人の力で町が発展するわけがないではありませんか。
当初、お義母さまに連れられてきたこの子に私は辛く当たり関係は良好とはお世辞にも言えませんでした。
それなのに私を義姉として慕い慮ってくれるウェインは本当に素敵な義弟です。
「このことは別に僕だけが言っているわけじゃないんだけど……」
町の発展の恩恵で教会への寄進も増えました。
お陰で建物も新しく少し大きく立派になり、見上げればぽつんと1つ吊されていた小さな鐘に2つの同じサイズの鐘が兄弟のように並んでいます。
こんなにも様変わりして……
私も歳を取るはずです。
「義姉さんはまだまだ若くて……その……き、綺麗だよ」
ふふふ……
ありがとうございます。
義姉思いの優しい義弟のお世辞でも嬉しいものです。
「いや、僕はお世辞を言っているんじゃ……」
ウェインがまたぶつぶつと何か呟いていますが、こう言うはっきりしないところが彼女の一人もできない原因なのでしょうか?
「ウェイン神父ってイケメンで……」
「優しく人当たりもいいし……」
「めちゃくちゃ強くてモテモテなのにねぇ」
「完全無欠の優良物件……いえ、ヘタレだったわね」
子供たちにも散々な言われようのウェインです。
……何ですか?
子供たちが私を胡乱げな目で見ながらやれやれとため息を吐いているのですが……
まったく……
この子たちは本当に生意気です。
本当に……この優しくも生意気で、ませた物言いの奥に思いやりを持った子供たち。
この孤児院にはそんな傷だらけの天使でいっぱいに溢れています。
一時期はとても手狭になった孤児院でしたが、今ではこの通り新しく二階建ての大きな建物になっています。
これはここで巣立った孤児たちが町に貢献し、そのお返しにと町の皆さんが支えてくれたお陰です。
この孤児院で育った子たちの多くはとても素敵な大人になってくれました。
「ま、シスター・ジェラが小さな時から矯正してるからな」
「いつも目を光らせて監視してるんだよな」
「ジェラは怒らせるとドラゴンより怖いんだよ」
本当にいつも好き勝手に言いたい放題な悪ガキどもです。
でも可愛くて、とても真っ直ぐに育ってくれました。
そんな子供たちを見ていると、この孤児院に赴任してすぐに犯した私の過ちで傷ついたあの娘の事を思い出します……
――チェルシー
彼女は今どうしているでしょう?




