元騎士の溜息。
うちの王様の様子がなんか変だ。
何日も徹夜をして無理やり仕事を片付けて時間を作ったエルは、昨日お姫様との楽しい楽しいデートに出掛けた筈である。
その筈なのに、執務室にこもる彼の眉間のしわはくっきりと刻み込まれて表情は晴れない。
前日まであんなに浮かれていたのに。
昨日ハーディストに帰ってから食事の時も休む時もひたすらこんな感じで、もしかして眉間のしわはもう取れなくなってしまったのかと心配になるほどだ。
だとするならば俺よりも歳下なのにエルが可哀想で仕方ない。
「昨日、楽しくなかったのか?」
「楽しいとかそんなことは関係ない。俺は彼女に領地の民に触れ自信を持って欲しかっただけだ」
「はいはい、で?なんかあったんだろ」
思いっきり怪訝な表情を浮かべてペンを置いたエルをじっとりと見据えると、彼は眉間のしわを深くして目を伏せた。
まあ、実際目的はそうだったんだろうがそれでもエルは楽しみにしていたように見えた。
というか浮かれていたからな。
「………アルテンリッヒが、一緒だった」
………ああ、それに関してはごめん。
ギクリと肩を揺らして、そうかと適当に返事をした。
クロード辺りに適当に手紙を渡して返事を待てばまた違っただろうが、ついつい懐かしくて本人と話してしまったからあの、腹黒そうな弟に見つかってしまったわけで。
あの弟はまじでヤバそうだ。
だって笑顔が怖えもん。
目が座ってるんだもん。あんまり関わりたくない。
いや、でも普通に返事を待ってたら断られていたかもしれないし…。
「お、おう、それは残念だったな」
「いや…アルテンリッヒがこちらに来ている時点でこうなるだろうとは思っていた。…ただ」
「ただ?」
伏せたアメジストをゆっくりと開いて至極真剣な顔でエルは言った。
「……あのふたり仲良すぎないか?」
「……」
「………」
………………え?そんなこと?
「…………そりゃあたった2人の姉弟なんだし、そんなもんじゃねえの」
「そうなのか?俺とヴィクターとは随分違う」
「そりゃあ、そうだろ。
王家の複雑でめんどくさい関係と一緒にするなよ」
ヴィクトレイク様とエルはとても良好な仲ではあるがいかんせん取り巻く環境が面倒なため自由に交流することは難しい。
彼らが動くとどうしたって周りが動くし少なからず波風がたつ。
そりゃ、俺も兄や姉と普通に仲良いと思うし。
……まああんな怖い弟は勘弁だけどな。
「……そうか。お前にも確か姉がいたな。
頬を撫でたり終始腰に手を回していたりするのは普通のことなのか……」
…………うん?
「いや、それは普通じゃねえな」
あのすぐに手が出る姉にそんなことをしたら立ち上がれなくなるまで殴られそうだ。というか、触りたくもない、気持ち悪い。
「…………………。」
「……え?なに、そんなことしてたのあの2人」
「平然とな。まるで気にしていなかったようだ。
イゾルテの領民も普通に恋人だと思っているようだった。
姉弟ではなく、親戚同士の婚約者だとでも思われているのではないだろうか」
あの、弟…!
あのお腹真っ黒そうで性格の悪そうな男のことだ。
きっとエルに見せつけるためわざとそうしたのだろう。
良かったな効果は抜群だよ。うちの王様相当へこんでるよ。
自覚ないみたいだけど。
というか……
「思われているってか、実際そうだろ?あのふ」
たり。と言いかけて俺ははっと口を閉ざした。
エルの眉間のシワが増えていたからだ。
眼光が鋭すぎる。目力怖いよ。
しまったと思ったけどもう遅い。
「………本当は従兄弟だからな」
「………いやいやいや、ま、でもルーファス公は絶対許さねえって、大丈夫、大丈夫!な!」
「……大丈夫ってなんだ。俺には別に関係ないことだ」
じゃあ、そんな顔すんな、めんどくせえな!
険しい顔をするうちのアホな王様にそう言ってやりたいけど、彼はなぜか自覚がない。
なんでかまったくもって意味がわからないが、なぜか自覚がないのだ。
なんどか追求してみたが頑なに認めないエルに疲れてもう最近は諦めた。
ま、いつか自分で気づくだろう。
その時後悔しないといいけど。
「……まあ、頑張れ」
「…………?、なにをだ」
ぽんぽんと肩を叩くとエルの眉間のシワがもう一本増えた。




