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あのあと、さあ焼きますか!と話を逸らされたけれどバンスの彼が言うところの独り言にわたしは大変動揺していた。
だって彼の言うことは本当にその通りで、そしてそれはわたしさえも気づいていなかったことだった。
多分余裕が無いとかなんとかいいながらわたしはとにかく他人事だった。
自分が傷つくのを恐れて他人事のように考えて、優しいふりをした。受け止めるふりをした。
それで傷ついている人がいるのかもしれないのに。
自分を守ることに必死だったのだ。
それは恐らく今も変わっていない。
そうだとするのなら、彼が糞ガキと揶揄した人は誰を指すのだろう、クロード、トレイシーは違うとして(バンスが実は壮年とかいうのであれば話は違うけれど)この邸の中であればトルネオかマリーか。
わたしが知らないといけない、バンス的に言えば知ろうとしてほしいこと。
トルネオのことは正直知らないがそもそも関わりがないわけで、であればマリー?
マリーのことは割と知っている気がするし知りたいとも思う。
可愛い妹のような彼女とは毎日話をするし依然互いに少しだけ本音も零した。
それに彼はわたしと似たもの同士とも言った。
似たもの同士、私の身近にそんな人がいるのか。
それとも、リヒテンのこと?もしかして、エル様?
いやいや、エル様とバンスにどんな繋がりがあるというのだろう。
可能性があるとするならリヒテンではないかと思うけれど、大好きな可愛いリヒテンのことはなんだって知りたいし知ろうとしていると思うの。
最近は反抗期、というやつかしら近寄らせてくれないし邪険に扱われて悲しくなるほどだ。
それになにより、5歳の頃から共にいるわたしにたかだか2年と少しの間柄のバンスにとやかく言われたくないとかいう気持ちもある。
じゃあ、リヒテンのことではないの?
では、一体誰のこと?
「お嬢様、もし、なにか知りたいことがあればお坊ちゃまに聞いてみたらいいですよ。
あの人ならもういろいろと知ってんじゃないですかね」
焼成に入ったパイをそっちのけで悩むわたしにうんざりしてきたのかバンスは苦笑混じりにそう言った。
リヒテンに?
やはりリヒテンのことなの?
あの子が何を知っているというのだろうか。
悶々と悩むわたしはめんどくさそうないつものバンスに調理室をやんわりと追い出された。
その後に奇声をあげながらマリーが調理室に突進していったけれど、わたしはそれをぼんやりと横目で見るだけだった。
なんだかもやもやしてたまらない。
やたらと的確な事を言うバンスの含みをもった言葉たちになにか重大なことが隠れている気がしてならない。
わたしは何を見て見ぬふりをしているのだろう。
何を知らないといけないのだろう。




