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「あの地の領主様になられるのは少し大変かもしれませんね」
いくつかの書類を簡単に説明しながら手渡すとエル様は静かに説明を聞いて、いくらか質問を口にした。
それに応えながら(側にいるクロードは今のところ微笑むばかりなので間違ったことは言っていないようだ)書類に目を落としぽつりと呟くわたしをエル様はじっと見ていた。
軽くぎょっとしながら顔を上げると穏やかな笑がかえってきた。
態度や表情からなんだか〝エル様〟だと錯覚しで忘れてしまいそうなるけれど王家のエルレイン殿下なのだと、アメジストを見ると思い出す。
「ハーディストは貴方々ルーファス公爵家にとって特別な地であろう。
そこを預けていただけるなんて名誉なことだ」
わたしは唖然とした。
ありがたい話ではあるのだけれど、隣国にも近く寒いだけで、特になにかあるわけでもない小さな領地。
あそこの領主である以上、恐らく結婚も難しいだろう。
それほど貴族から嫌煙されている土地である。
しかも本人に聞くところによるとエル様自身が望んだことらしいし邸にはエル様とジーク様しかいないらしい。
2人だけ…?
あれ?ロデライ男爵令嬢は?とふと思う。
落ち着いてから迎えるおつもりなのか、それともそもそもこちらには来ないのか。
あの優秀だと言われていた彼がいったい何を考えているのか不気味であるし元王子がそんなので生きていけるのだろうかと思う。
ハーディストの厳しい冬すら越すのは難しそうだ。
この方は本当に一体何を考えているのだろう。
本当に本当に人が変わってしまったようだもの。
だって、あんなにわたしのことを嫌っていたのに、わざわざ顔を合わせなければいけないようなところに来るなんて。
それに昔よりもエル様がイキイキとして見えるのはなぜだろう。
何もかも失った彼が憑き物が落ちたような笑顔を浮かべるのは一体どうして。
適当に返事を返しながら残りの書類と解説を足早に行いながら、大丈夫、大丈夫ゴタゴタが終わったら元の生活が待ってる、よし。と納得させた。
「有難う。ス、アルトステラ嬢。本当に助かった。
」
「いえ、わたくしは大したことは何も。」
「貴方やルーファス公、に恥じぬよう務める。いつかこの恩も返させてくれ」
「いいえ、お気になさらず。ハーディストをお願いいたしますね」
「ああ、任せてくれ」
恭しく礼をとったエル様に淑女の礼を返したところでクロードが扉を開けた。
終わったのならそろそろ帰ったらどうですか?と素敵な笑顔に書いてあるのは、あれはわざとだろうか。
……やめてクロード。
「時間を取らせてすまない。では、俺は失礼する。
」
「ええ、エル様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」




