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とある世界の日本  作者: 高鉢 健太 
英国面を克服セヨ
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英国面を克服セヨ  上

「日本艦隊へ攻撃を加えるのは嵐の中を進む様なものだった。今でもあの嵐を思い出し、震える夜がある」


 太平洋戦争に参戦したアメリカ海軍パイロットたちの多くが、後にそんな言葉を遺している。


 日本海軍が防空の主力として用いた九六式四十粍機銃、当時としては異色なその兵器はどの様に誕生したのだろうか。




 時は1925年、日本海軍は対空戦闘能力を有するヴィッカースQF2ポンド・ポンポン砲を導入した。

 世界的にも最先端の技術が導入され、さらに大口径による威力も期待されたが、その実態はあまりにも期待外れなものだった。


 ポンポン砲には給弾機構や機関部に無理な設計があり、機械的なトラブルが多くとても信頼性が低かった。

 さらに、期待された大口径で重量のある弾薬は、初速が遅く弾道特性が悪く、有効射程を短いものにしていた。


 日本海軍はそれでも他に適した対空火器が存在しない事からライセンス生産を行う事を検討し始めた。


 その時、ひとりの技官が改善策を提案した。


「この機銃を本格的に導入するのであれば、独自にその欠点を改善しなければならない」


 皆がその意見に賛同した。


 ポンポン砲は初速が遅く、大きく重い弾丸を用いるには適していなかった。

 その状態の改善策として実施されたのは、弾頭を軽い物に変更する事だった。


 初速を上げるには発射に必要な装薬を増やす方法もあるが、そもそもポンポン砲の信頼性は低い。装薬を増やせばその爆発力に耐える構造の強化が求められるが、これからライセンス生産を始めようとする未知の火砲にまで手を加える事は躊躇われた。

 そのため、まずは弾頭を軽くすることで発射時の弾丸速度を向上させることとなり、弾薬を開発した。


「これで性能が改善される」


 皆がそう期待した。


 だが、結果は芳しいものではなかった。 


 確かに初速そのものは速くなった。だが、砲が弾薬に対応出来ず信頼性をさらに低下させる結果を招いてしまった。

 提案された改善策は失敗だった。


 それでも技官は諦めなかった。


 今度は弾薬に対応出来る様、ポンポン砲の改良に取り組んだ。


 こうして1932年、日本は性能が改善された毘式四十粍機銃としてライセンス生産を開始する。


 現場は不満と改善要求の声で溢れた。


 輸入されたポンポン砲は新型弾薬に対応しておらず、ライセンス生産された毘式の信頼性も、ポンポン砲と大差のないものだったからだ。


 皆が頭を抱えた。


「イギリスは時に革命的で他を圧倒する優秀な兵器を生み出す。しかし、それと同じだけの迷兵器も生み出し、現場で扱う者たちを困らせる」


 いわゆる英国面と称される現象である。


 イギリスは蒸気タービン軍艦を実用化し、ドレッドノートをいち早く完成させた。

 しかし、その裏にはポンポン砲やステンガンの様に、ひと癖もふた癖もある扱いに注意が必要な兵器も多い。


 技官たちは信頼性向上のための改良に苦心した。


 イギリスにおいては後に信頼性を改善した改良型が活躍することになるが、日本はとうとうその解決策にたどり着けなかった。


「このまま毘式を使い続ける訳にはいかない。もっと他に優秀な機銃があるはずだ」


 とうとう海軍は毘式四十粍機銃に見切りをつけ、新たな機銃の模索を始めた。


 その中でまず輸入されたのは、より小型で発射速度に優れた保式十三粍機銃であった。


 保式十三粍機銃はフランス、ホチキス社のM1929機関銃の事である。弾薬は大幅に小さくなり13.2ミリのものを使用し、発射速度は最大で450発と宣伝された。

 

「弾倉給弾では宣伝通りの性能は達成できない」


 採用審査の際、そう反対意見を述べる技官の姿があった。


 実際の射撃において、十三粍機銃は30発入り弾倉を僅か4秒程度で撃ち尽くしてしまうため頻繁な弾倉交換が必要となる。毘式に比して小型軽量であっても、実際の運用においては宣伝の半分程度、250発程度まで発射速度は低下する事となった。


 しかし、それでも毘式の倍以上である。


 こうして保式十三粍機銃は九三式十三粍機銃として制式化され、量産されることとなった。


 それと共に毘式の代替となる大口径の機関砲の資料も持ち込まれた。


 フランス軍の要求に応えてホチキス社が開発した25ミリ機関砲だった。


 フランス軍は要求に対し発射速度が遅いとして採用を拒否したため、輸出用として日本へと提案されていたのである。

 その性能は、おおむね毘式と同等か上回るもので、弾丸口径を除て何も不満となる部分が無かった。


「このままでは新たに保式二十五粍機銃が採用されてしまう」


 技官は焦った。


 これまで毘式四十粍機銃を可能な限り改良し、おおむね実用に耐える兵器に出来たという自負があった。

 なにより、ここで新たな機関砲に転換されてはせっかく開発してきた弾薬が無駄になってしまう。そう考えた技官は一発逆転の賭けに出る。


「今後、さらに飛行機が発達し、堅牢になり速度が速くなるだろう。そうなれば箱型弾倉を用いた小口径機銃では対応できなくなる」


 毘式に替わる新たな機銃を求める海軍に対し、保式二十五粍機銃をはるかに凌駕する設計案を提示した。


 その提案に対し、誰もが驚いた。そして


「そんな絵空事が実現できるとは思えない」


 そう否定した。


 それでも技官は諦めなかった。  

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