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とある世界の日本  作者: 高鉢 健太 
近衛文麿奇譚
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近衛文麿の迷惑

「どうだ?」


 船形試験を行う水槽へやって来た海軍将校が実験を行う男へと尋ねた。


「この船型は問題ありですね」


 そう返され、納得顔になる。


「本来は推進効率を高めるために使う球状船首を、あえて造波周期変更の為にいくつか試してはみましたが、前方昇降部に合わせれば後部がダメ、かといって後部に合わせると前方がダメ。周期に対して明らかに前後間長が足りないので配置を変えるしかないですが、前方はもはや限界。後方も格納庫の長さを考えれば大きくは下げられない。これで造れと言うのが間違いです」


 試験担当技官がほとほと困り果てているのは、新型戦艦を建造中止とした見返りとして提示された空母計画についてであった。

 関白近衛は戦艦建造を中止する見返りに大型空母6隻の建造を提示する。それに対し、海軍はより野心的な八八艦隊計画を提示し、関白はそれを快く応じ、裁可を得たのだが、地獄はその前から始まった。


 1935年に起きた第四艦隊事件において、空母龍驤は甚大な浸水に見舞われ、その後の空母計画を問い直すきっかけとなっていた。 

 龍驤の建造実績を見て設計、建造されていた蒼龍は進水こそしたものの、そこで工事が停滞してしまった。

 なにせ、龍驤の浸水ならびに飛行甲板前部分の破壊という事態に、同様の設計を採用していた蒼龍の建造継続に疑問符が出たからだった。


 そうして建造が中断し、設計変更を行っている時、二二六事件を原因とする政変が起き、近衛文麿が総理大臣となった。


 そして彼が目を付けたのが、建造が中断していた蒼龍である。


「なるほど、レンジャーの様な開放型格納庫は日本周辺の海象には合わなかったのか。なら、こうすればどうだ?」


 と、全くの越権行為を行い、いつか見た拙い「未来の空母」図面の再現がそこにあった。


 海軍将校たちはそこでアレが誰の仕業であるかを悟るが、しかし、誰もその事を口にはしなかった。アレは天皇陛下から賜った図面であり、その事に対してとやかく言うのは憚られる。

 では、今回ならば手荒に突き返せばよいかというと、近衛は周到であった。


「陛下もこの提案に大層喜ばれてな、まさか自らこのようなものを渡す訳にもいかないと、私が代わって君たちにこうして説明しているんだよ」


 などと言う。が、彼が盛んに御進講に上っていることは周知であり、近衛が口にしたことも半ば、間違いは無いと思われた。ここで「そんなガキの落書きが受け取れるか!」と言ってしまえば、天皇に対する不敬となりかねない。

 誰もが我慢して近衛の自慢話を聞き流し、それを現場へと伝えることとなった。


 その後、現場ではさらに引きつった笑顔で皆がそれを拝聴する事になった。


 その拙い図面はどう見ても龍驤の時よりさらに訳の分からない代物と化しており、誰にとっても理解の範疇外だった。


「で、そのアングルドデッキとかいうハミダシはどう役に立つんだって?」


 と、呆れた顔で一人が問う。


「着艦と発艦が同時に出来るそうだ」


 と、投げ槍に返す別の人物。


「コイツでか?滑走距離が今の赤城の下段甲板と変わらんだろ。無理だから改装するってのに、何考えてんだよ」


 と、もっともな話である。その赤城であるが、すでに加賀が改装に入っており、それに倣った改装を行う事を告げると、近衛は納得し、標的を建造が停滞する蒼龍に定めたのだという。

 その図面には今日の空母では一般的であるアングルドデッキが描かれていたが、同時離発着といっても艦の2/3を斜めに横切る甲板が占めているのでは、発艦作業など誰が考えても無理だった。


「そもそも、こんなハミダシ甲板なんか必要なのか?」


 そう質問が出る。


「利点は分かるが、あえて採用するほどの必要性は無いな。費用も重量も嵩む」


「で、これは?」


 もう一つの特異なソレに注目する人物もいる。


「外付けエレベータだそうだ。確かに甲板に穴がないのは良いかもしれん。試験をしてみようか」


 そして始まった水槽試験の結果、右舷に2基、左舷中央に1基という配置は多くの問題を抱えていることが分かった。


 さらに、赤城の実績や改装後の加賀、龍驤の実績から湾曲煙突を継続採用しようとすると、この右舷外側へのエレベータ設置は無理となった。


 試験が進行するうちに近衛は関白となり、絶対的な権力を手に入れていた。海軍は「統帥権者」と化した近衛に対し、提示されていた図面が結果的に採用できない事を告げる。


「ほう、俺の言う事が理解できないと?まあ良い。そう言うなら思うように作れば良い」


 と、その時は納得したかに見えた。


 しかし、後日新たな指示がもたらされる。


「ハァ?結局自分の指示通りの空母をつくれだぁ?」


 そう、蒼龍、飛龍は海軍の思うように開発する事が出来たが、二段式格納庫を備えたその艦容がお気に召さなかったという。


「こんなのは国の象徴となる空母ではない。良いか?こんな狭い艦橋などもってのほかだ。それに、コレのせいで舷側エレベータが取り付けられないだと?バカも休み休み言え。斜め上へ跳ね上げれば良いんだ。煙突なんて。JFKもカブールもそうしている。隼鷹みたいに突き立てる事も不要だ。わかるな?そうそう、ついでに言えば、翼の先端しか折れないゼロ戦が悪い」


 と、蒼龍を訪れ、周りにいる者たちには訳の分からない演説をぶち、ひとり悦に入っている姿があった後の提案であった。


 そして、冒頭の話しへと向かった。


 

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― 新着の感想 ―
大して専門知識の無い転生者が、当時の技術水準や環境を考慮せずに甘い考えで介入すると碌な事にならんという事やな 未来を知ってるだけじゃ、専門知識もなく知識チートはできんというわけか、、、
[一言] おまえは何を言っているんだ? という技官たちの苦悩が・・・・・・そして統帥権干犯じゃないが、錦の御旗を傘に好き勝手やる近衛の板挟みというアレが・・・・・・。
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