主のいない謁見の間
謁見の間の主が座る玉座には誰も座っていない。
その玉座の横にベルク宰相が立っている。多くの貴族が謁見の間に詰めかけている。ロード王国の特使であるパトリシアは謁見の間の前室で待機だ。
俺を先頭にエクス帝国捜査団が謁見の間を優雅に進む。
ルードさん! 今、習ったマナー講義が役に立っていますよ!
ベルク宰相の前の数メートル前で止まり帰還の報告をする。
「エクス帝国捜査団、ただいまエクス城に帰還しました。任務の詳細については、これよりダンから報告致します」
俺は早速ダンに全てを投げ出す。
それをしっかりキャッチするダン。
ダンは一歩前に出て発言する。
「副団長のダンです。捜査の詳細については後ほど書面にて報告させていただきます。先に帰還させた騎士団のライバーより説明があったかと思いますが、確認のためもう一度致します」
そう言ってダンはロード王国で知り得た事を話し始めた。
・ロード王国のバルバン伯爵がエクス帝国のラナス男爵と知り合いだった事。
・バルバン伯爵がラナス男爵の三女であるキャリンがザラス皇帝陛下の侍女でお手付きになったと知った事
・バルバン伯爵の命令で次男のアイヴィーがキャリンを性的に奴隷にした事。
・バルバン伯爵がカイト皇太子と秘密裏に連絡を取り合う仲である事。
・バルバン伯爵がカイト皇太子にザラス皇帝陛下の暗殺はいつでもできると言っていた事。
・暗殺前日にカイト皇太子がバルバン伯爵に「お前が冗談で言っている暗殺についてだが、やれるものならやってみろ」と言った事。
・バルバン伯爵はこれを好機と思いキャリンに暗殺の指令をした事。また暗殺指令の間にアイヴィーが入っていたかはわからない。
・キャリンはバルバン伯爵の手引きで口封じされた事。
「以上の事から、ロード王国のバルバン伯爵と次男のアイヴィー、そしてカイト皇太子から事情を聞く必要があると思います。まずはザラス皇帝陛下の暗殺捜査についての報告を終わります」
ベルク宰相が厳しい顔になった。
「捜査団の諸君。本当にご苦労であった。この報告をもってエクス帝国捜査団の任務終了とする。また、これよりザラス皇帝陛下の暗殺に対しての捜査を本格的に行う。サイファ魔導団団長。カイト皇太子殿下を拘束して尋問を行うようにお願いいたします」
どよめく謁見の間。
次期皇帝陛下になるべき人が騎士団と魔導団の第二隊に拘束されて尋問されるとは。
騒つく貴族にベルク宰相が穏やかに、しかし有無を言わせぬ口調で話し始める。
「静まれ。エクス帝国は不滅だ。このような国難があろうとも、皆の力で乗り越えていける。それを私は確信している。状況によっては皇帝位継承権の順位が変わる可能性もある。皆は動揺せず、粛々と過ごして欲しい」
ダンが静まるのを待って報告を続ける。
「その他の報告が二つございます。まずはロード王国より特使が我々に同行しました。特使はパトリシア・ロード王女です。護衛にブラサムという騎士が付いております。二人は謁見の間の前室にて待機しております。もう一つの報告は正式な形ではありませんでしたが、ロード王国のナルド国王がジョージ・グラコート伯爵にロード王国の公爵になってくれないかと打診がございました」
また騒つく謁見の間。
お前らは騒めくのが好きなのか?
「なるほど。難しい舵取りが要求されている感じですね」
不敵に笑うベルク宰相。
「よろしい。ロード王国の特使であるパトリシア・ロードを謁見の間に呼んでくれ」
俺たちは貴族の列に移動した。
謁見の間の扉が開く。
周りから感嘆の声が漏れる。
コソコソと声が聞こえてくる。
「あれがロード王国の珠玉と言われているパトリシア王女か」
「確かに美姫だな」
「なるほど、ロード王国は本気だな」
何が本気なんだろ? 良く分からん?
それにしてもパトリシアの歩き方は素晴らしいな。さすが生まれながらにして王族なだけはある。
ベルク宰相の数メートル前でパトリシアは立ち止まり頭を下げる。
その動きが優雅だ。周囲からも「ほぉ〜」っと声が上がる。
ベルク宰相がパトリシア王女に声をかける。
「エクス帝国にようこそ、パトリシア王女。この度はロード王国の特使という事ですな。現在、エクス帝国は皇帝位が不在です。代わって宰相の私ベルクがお話をお聞きしましょう」
パトリシアは顔を上げ軽く微笑む。
その微笑みにまた貴族が溜め息を漏らす。
なんなんだお前らは……。
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