漢は皆んな秘境ハンター
何をされるか不安に駆られていたが、何もされていないようだ。何が目的? あぁ、酔いが結構回ってるな。こんな頭で考えてもしょうがない。流れに任せるかぁ。
「もう眼を開けていいぞ」
恐る恐る眼を開けると、俺の頭はショートしてしまった。
人間は状況を理解できないと思考を停止させてしまうのか。
目の前には確かに美が存在していた。激烈な色気を伴って……。
「これが私からジョージへのお礼だ。受け取ってくれるかな?」
頭が全然働かない。脳内は目にうつる映像だけで埋め尽くされていく。
切れ長の眼が潤んでいる。頬がほんのり赤く染まっていた。アルコールのせいではなく羞恥からだろう。いつもの凛とした雰囲気とのギャップがより淫靡な空気を醸し出す。
先程まで出しゃばっちゃっていた山がこんにちはしている。お山さん、こんにちはーー!!
お腹周りは無駄な肉がついていない。さすが元騎士団のエリート。しかし決して女性としての柔らかさを失っていないギリギリのラインを保っている。
「そんなに凝視されるとさすがに恥ずかしいな……。激しいのが好みならしょうがないが、出来れば優しくしてくれるとありがたい。なにぶんこのような経験は初めてなのでな」
あぁ……、秘境を隠している薄い茂みを認識して俺の頭はスパークする。目の前の秘境は、まだ誰も到達していない秘境だ! まさに前人未踏! そうさ、漢は皆んな秘境ハンター。さぁ! 探険に出発だ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
こんにちはしているお山に直接こんにちはをしようと右手を伸ばしかけた時、ショートしていた脳内にスミレの笑顔の映像が浮かんだ。
お山を登頂しようとしていた俺の右手が停止する。
初めて会話した時に微笑んでいたスミレ。あの微笑みは俺にだけ向けられたものだ。
初めてスミレの私服を見た時の俺の感想に照れて顔が赤くなったスミレ。
初めてドラゴン討伐に成功してスミレと抱き合って喜んだ後には二人して顔を真っ赤にしたな。
結婚式の時、ベールを上げた時のスミレの潤んだ翠色の瞳。
初めてスミレの香りに包まれた思い出。匂いまで思い出される。
俺の馬鹿な提案に付き合ってくれ、裸で瞑想するスミレ。
そして初めてスミレを見た衝撃。
騎士科の校舎から出てきた数名の女性の集団。
その中心にいたスミレ。俺には一人だけ光って見えた。
春の陽光に輝く銀髪。透き通ったような白い肌。今でも色褪せずに映像が浮かぶ。
俺の告白に赤い顔をしながら俺の右手を取ってくれたスミレ。
今や俺の脳内はスミレの映像で埋め尽くされていた。
あぁ……。やっぱり俺は馬鹿だな。スミレとの思い出は俺の大切な宝物だ。これからもその宝物を増やしていきたい。浮気をすれば間違いなく俺とスミレとの間に影を落とす。そしてそれは二人の関係に歪みが生じる。スミレが俺に見せる笑顔に哀しみが混ざってしまう……。スミレの笑顔は最高だ。一片の穢れもない笑顔だ。だからこそ少しの穢れが全てを台無しにする。その笑顔を守るため、俺がする事は一つじゃないか。
俺はお山に伸ばしかけた右手をオリビア先輩の肩に置いた。
「とても素敵なお礼です。ありがとうございます。だけどそれは受け取れないんです。いや違いますね。自分の意志で受け取りません」
「どういうことだ? 男性なら必ず喜んでくれると思ったのだが? 自分で言うのもなんだが、私は女性としての魅力はある方だと思っていた。私の身体はジョージの趣味には合わなかったかな?」
眉尻を下げ、落ち込んだ声を出すオリビア先輩。
「大丈夫ですよ。オリビア先輩は女性としての魅力に溢れています。俺の好みのド真ん中、最高に興奮しますよ」
「それならば、何も言わずに私を堪能すれば良いじゃないか。ジョージがスミレ様を愛しているのは知っている。別に私は喋らないよ。それなら問題は生じないだろ? それに男性は複数の女性を同時に愛せるんじゃないのか?」
「世の中の男性がどうなのかは知らない。だけど俺は一人の女性だけを愛したいと思っている」
「言い方が悪かったわ。男性は愛が無くても女性を抱けるでしょ。下半身に人格は無しって言うし、据え膳食わぬば男の恥とも言うわ。その他にも浮気は男の甲斐性、浮気は別腹って言う人もいる。それにジョージは英雄。英雄を女性がほっとかないのは当たり前じゃない? それに英雄色を好むって言葉もあるわ。あとジョージは伯爵ね。法律でも側室は認められている。たまには自らの欲望に従って快楽に身を委ねても罰はあたらないわ」
随分と喰ってかかるなぁ。
裸の女性を前にして性行為を断るわけだもんな。ここは誠実に対応するしかない。
頑張れ! 俺!
それにしても興奮しているオリビア先輩のお山が揺れているよ……。本当に煽情的過ぎるわ。
「オリビア先輩の言うこともわかるよ。俺もスミレから愛される前だったら複数の女性を囲っていたと思う。でも守るべきものが俺にはあるんだ」
「守るべきもの? それはあの有名な帝国中央公園の噴水の前の告白の事かしら? でも人の心は時と共に変わっていくわ。結婚前の愛の告白をいつまでも本気にしている女性なんていないわよ」
あぁ……。揺れる山……。股間が切なくなる程痛い。気を抜くと襲いかかりそうだ。気が抜ける前に違うものをヌカないと。
「スミレにした告白はスミレに約束したものではあるけれど、自分の覚悟を自分自身で認識する為のものさ。守るべきものは違うよ。俺の守るべきものはスミレの穢れない笑顔なんだ。これが俺の心の中心に鎮座している。スミレの笑顔を穢す可能性がある事は全身全霊で排除する。ましてや自分でそれをやっては俺は俺自身を許せなくなるよ」
俺の話を真剣に聞いているオリビア先輩。
「そういうわけだから、このお礼は受け取れないんだ。オリビア先輩の女性のプライドを傷付けてしまったかもしれないけど許して欲しい。だけど貴女は魅力的な女性だ。これは俺の本心だ」
「スミレ様は本当にジョージに愛されているのね……。男性からそんな愛情を向けられるなんて女性として最大の幸せね」
魅力的なオリビア先輩にもそんな男性はすぐにが現れるよって言葉は飲み込んだ。そんな無責任な言葉は誰のためにもならないしな。
よし! 任務完了! 何とか気を抜かずに済んだな。早くヌキに行かないと!
「それじゃ、飲み直そうか。ちょっと俺はトイレに行ってくるから、その間に寝間着を着ていてくれるかな? さすがにこれ以上その魅惑的な身体を見ていたら自分を保つ自信が無いからね」
そして俺はギンギンの股間を右手で鎮めるためにトイレに駆け込んだ。





