766話
深々と自身の腹部に刺さった剣先からは真っ赤な血がぼたぼたと地面へ滴り落ち、その滴り落ちていった真っ赤な血は乾いていた地面へとすぐに吸収されていく。
そんな唐突な状況にコウは何が起こったのか理解が出来ず、腹部に強烈な熱を感じ、今度は徐々に痛みも感じるようになってきたのだが、とりあえず何処の誰が刺してきたのかをまずは確認するため、首を少し捻り、背後に視線を向けると、そこにはまさかの今まで静かにしていたディーンが立っているではないか。
「かはっ...なんで...」
何故そんな行動に出たのか理解出来なかったため、コウは口から吐血しながらもディーンに対して痛みに耐えつつ、喉を震わせながら掠れた声で問いただしていく。
それはそうだ。自身がディーンに対して特に不利になるような事をした覚えはないし、剣を突き刺される程憎まれている覚えもないのだから。
「人族の脅威は取り払わないといけないんだ。それが例え一緒に背中を任せた相手でもね」
そしてディーンから返ってきた答えというのはどうやらコウが人族の脅威となるため剣を刺してきたらしいのだが、自身としては人族に対しては恨みもなく、どうこうする気は全くもってない。
ただディーンは聖都シュレアへ帰った際、魔族討伐隊のリーダーとやらになっており、ここへ来てからというもの魔族に対して並々ならぬ嫌悪感を示していたのを思い出す。
きっとそれらの要因の何かが自身のことを剣で刺してくる1つだと思うのだが、流石に今の状態のコウにはそこまで思考が回りはしない。
「コウさん?何をしてるんですか?早く行きますよ...ライラさん!」
「なんですか~?って...っ!」
「キュ!!」
そんなやりとりをディーンとしていると、先に進んでいたイザベルが振り返りながら促すように声を掛けてきたのだが、剣に刺されてしまっていたコウの状況を目の当たりにしたイザベルは目を大きく見開き、驚きの表情を一瞬浮かべるも、すぐに目つきが今まで見たことのないような鋭いものと変化し、ライラに対して大きな声で呼び掛けた。
またライラもイザベルに声を掛けられたことによってこちらに振り返り、今の状況をすぐさま理解したのか、こちらに向かって一気に距離を縮めると、背後に立っていたディーンを無理矢理引き剥がしてくれた。
「ライラさんはコウさんをお願いします!私は彼を拘束しますので!」
「コウさん~!意識を保って下さい~!すぐに治癒しますから~!」
そしてディーンから引き剥がしたのは良いが、腹部に剣が深々と刺さっている状態のため、ライラが両手に魔力を込めながら何とかして治癒を試みてくれており、謎の暖かさが今度は腹部を包み込み、熱と痛みが若干ではあるが引いてきたような気がしないでもない。
しかし朦朧とする意識の中、何とかして保とうとするもコウはオルグスから先ほどばかり力を譲り受けていたせいで、調子が普段よりも悪い状態となっているため、中々に今の状態で意識を保つことが厳しいと言えるだろうか。
「コウさん!コウ...さ...!」
「キュ!キュ....!」
そんな状態のため、ぼたぼたと涙を流していたライラとフェニから大きな声で必死に呼び掛けられていたのだが、残念ながらコウは意識を保つことが出来なくなってしまい、視界が暗転してして意識は暗い闇の底へ落ちていってしまうのであった...。
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